42.参加人数について
問題の多くは、実は魔術があれば解決できるのものでもあった。
浄水系をはじめとした簡単な基礎魔術があるし、何か問題が起きてもその場でいろいろ都合をつけることができる。現地調達ならぬ魔力で調達だ。
だけど「魔術を使う」ってハードルがまず高い。
まして今回は、魔力の補充ができない世界だ。
「とはいえ、ペスを誘うわけにも……」
繰り返すけど、魔力が枯渇した世界だ。
いざとなれば運ぶ予定の魔力球を使って補給すればいいのかもしれないけど、それを最初から当てにするのも違うと思う。
一応は七割以上を運べば成功扱いしてくれるみたいだけど、それを含めてもこっちの勝手で危険地帯に招くのはどうかと思う。
腕組み悩む横で、委員長が僕を指さしコソコソなにかを喋ってた。
「ヤマシタさんヤマシタさん、見てください、とてもいい顔つきになりつつあります」
「……委員長殿は、いったい何を期待してそのようなわくわく顔になっているのであろうか」
「不運とは、ほどよく頑固で融通の利かない悩みまくってる人の下へと降りるものなのです。なぜなら、その方が面白いからです!」
「条件自体は拙者にも多少当てはまる部分があるように思えるのは、果たしてただの思い込みなのであろうか!?」
「それは言うまでもないことですよ?」
不運の申し子が嬉しそうに抱きかかえている段階で答えを言っているようなものだった。
ヤマシタさんは死んだ魚のような目になっていた。
金策に走り回ったときの、僕の表情によく似ていた。
うん、ああいう表情になったらいけないし、変に凝り固まってもいけないんだなと自戒する。
悩んだっていいことは、あんまりない。
ただ――
「あのさ、少しは一緒に考えて?」
もう少し準備に参加して欲しいとは思う。
「ん? 適当でいいんじゃないですか?」
「いやいや」
「だってきっと馬車は壊れますし、道には迷いますし、運んだものは破損して無事に届けられませんし、食料は腐り水は飲めず、強敵は出現し、悪天候に恵まれます」
「だから委員長殿は、いったいどうしてそのようなわくわく顔になっているのであろうか!?」
「そうなっても、ただ死ぬだけです、ただそれだけで済みます」
「む……」
「楽しい旅であれば私は満足です、他に何も望みません。そう――」
拳を握り、決意証明みたいに。
「みなで不運を楽しみましょうっ!」
力強く言われてしまった。
「ああ、うん……」
でもなんか、斜め下すぎてむしろ気楽になった。
「そっか……皆で危険を乗り越えればいいだけか」
「はい」
安全で確実な旅じゃなくて、危険で不確実で死亡の可能性を呑んだ上の旅でいいなら、いろいろ話は違ってくる。
「とはいえ、やっぱり最低限の準備は整えるべきかな。考えすぎても仕方ないけど、考えなしに死亡は僕が嫌だ」
「そですね」
「委員長殿は考えが深いのか浅いのかよくわからぬ……」
僕もかなり同感だった。
+ + +
その後は、けっこうテンポよく準備は進んだ。
ヤマシタさんが隙を見て逃げ出して、委員長がいつもみたいに追いかけたけど、これはいつものことなので問題ない。
僕は気軽に装備を整える。
というか考えてみれば、水はあるんだ、それだけで最低限の生存は保証されてるようなものだった。
プラス面を考えれば、かなり有利な状態からはじまってる。この上をいくら望んでも仕方ない。
「あれ……?」
気軽に乾麺を選んでる最中、その人影を見つけた。
着ぐるみの胴体部分だけみたいな衣服を身につけていた。
あるいは、かなり厚手の、一体型のパジャマみたいなものって言った方が近いのかもしれない。
もこもこでふわふわでやたらファンシーなそれが、踊るような動作を取っていた。
このお店はけっこう広い。
鏡で自分の姿を確認しているその人は、僕からはかなりの遠距離に位置していた。
なんなんだろうなと思いながら近づくと、そこは魔道具系のコーナーだった。
魔力の拡散を抑えるというか、余分に放出しないための装備が売り出されていた。
なんかやけに禍々しいネズミが、葉巻くわえて歯茎をむき出しにした笑顔で「これを着ればクソみたいな魔力枯渇地域もバッチリさ、知恵遅れのクソ物質主義者どもの耳にファンタジーってやつを注ぎ込んでやりな、ハハッ!」とか吹き出しで言っているポップがあった。イメージキャラクターらしい。
見た子供が号泣してた。
そのお陰か、僕が近づいてもまるで気づいていない様子で、未だにひょこひょことコミカルに動いて具合を確かめていた。めちゃくちゃ真剣だった。
やがてがっくりと肩を落とし。
「やっぱこれはダメだろ、似合わねえにもほどがある……」
ペスがそう言っていた。
「いや、似合ってると思うけど?」
感想を伝える。うん、似合う似合わないはともかく、かわいいと思う。
ペスはがっくりと落ち込んだ姿勢のまま、三秒くらい黙った。
衣服を突き破って銀輪を広げた。
振り向きざまに魔弾が飛んできた。
「ちょ、なに、なんで!?」
「うっせぇ! いいからおまえは今すぐ記憶を無くせ!」
「別にそんなことしなきゃいけないもんじゃないよね!?」
「黙れ、おれにそのメモリーを消去させろ!」
「僕の脳味噌が失われる勢いなんだけど!?」
「……そ、それは確かに大変かもな!」
「どうして今言いよどんだで声裏返ったの!? なんでそれもアリかもしれないみたいな迷いがあったの!?」
「いいからまずは一発殴らせろ……」
「そんな据わった目つきで言われても絶対嫌だ!」
「おれのこんな姿見たんだ、おまえも裸になれ!」
「なにその交換条件!?」
「今のおれの恥ずかしさレベルはそんくらいなんだよっ!」
やけに顔は赤かった。
結局、なんだかんだあった末に、ペスも一緒に行くことになった。
どうしてそうなったのかは、あんまり思い出せない。
こう、争った拍子にペスが馬乗り状態になって、僕の衣服がちょっと破けたような格好になって、なんか妙に黙って見つめ合うような時間があって、その視線が下へというか下半身に向かって、僕もペスも顔が真っ赤になったような瞬間があって、店員とかお客さんに「え、おまえら何やってんの?」みたいな顔で見られたような場面があった気もするけど、この記憶を失ったことにしたので、思い出せない。
うん、そんな事実はなかった。
あとそれより更に前の段階で、ペスが鏡の前でやけに真面目な顔で魔法少女の変身ポーズっぽい動作をして、しばらく悩んだあとで「やっぱこっちの角度だったか」とか言いながらもう一回してたことなんかも思い出せない。そういうことになった。
僕はきちんと準備を終えて、ペスもまったく知らない衣服を弁償し、それとは別の魔力拡散防止のアイテムを買った。
うん、まあ、つまりは、いつもの四人で遠征。そういう感じになった。




