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未誕英雄は生まれていない  作者: 伊野外
装備
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27.黒鎧についてⅡ

今言ったことで話は終わり、あとは適当に喋っておどけて笑って今日を終わらせればいい――


そのはずなんだけど、僕はもう少し、深くまで想像をしてみることにした。

今まで知った情報を元に、どういうことが起きたのかを。

ただの空想、根拠薄弱な妄想に近い推理。


丸テーブル、みんながわいわいと言葉を交わす横で、目を閉じ、静かに呼吸しながら。


あの黒鎧は、「研究者」によって造られた。

それは、間違いないはずだ。


問題は、それが造られた時期だ。


 これがあれば大丈夫だから――


研究者は、いったいどういう意味でこれを言った?


未誕英雄世界の初期には、まだ鍛冶屋なんて満足にはいなかったはずだ。

だから、無限に欲しい装備を求められるがままに与えることができた黒鎧は、きっととんでもなく重宝されていたはずだ。


そう、黒鎧は複雑な機構の武器を『物質転換』で即座に作り出せた。

それができるのに、一人につき一つ、なんて縛りがある方がおかしい。

黒鎧とは本当は、さまざまな武器防具を、無償で提供してくれる存在だった。


そうして、ときに素材を提供し、ときに最適な装備を渡し、ときに武具による手合わせをして技術を向上させた。


だけど、あるときから鍛冶職人たちが住むようになった。

いろいろな鉱物のある世界。

どんどん最新かつ異質な、考えもしなかった情報のあつまる場所。

作っても作っても欲しがる人は絶えず、しかも、その全員が誕生前とはいえ英雄だ。渡した武具で強盗をしたり町娘を襲うんじゃないかと恐れる必要がない。


作る側からすれば、これほどすばらしい世界はないに違いない。


だからこそ、鍛冶屋は集まり。

だからこそ、黒鎧は邪魔になった。

無料で提供、しかも高品質で個人にベストの装備を提供――


――そんな相手と対抗するのは馬鹿らしい。

きっと誰かがそう思い、黒鎧を枷にはめることにした。


鉱石などの素材提供はそのままに、新入生だけを相手に装備を提供させた。

どんな手段で、どうやったのかはわからないけど、黒鎧にその条件を飲ませた。


そして、黒鎧について話すことを皆に禁じた。

新入生の適正をはかるためとか、これについての真実を言い当てることができることこそが英雄としての素質うんぬん――そういうもっともらしい名目で、黙っていることが良いことであるとした。

そうして「戦えば最適な装備を手に入れることができる」ことについて秘匿した。


可能な限り、黒鎧の存在を薄めさせた。


僕が黒鎧について知ることができたのは、あのロックな鍛冶屋と出会えたからだ。

それ以前の、大型店ではその存在を匂わせることすら言っていなかった。それこそ「おまえは武器を壊したんだから新しい武器を黒鎧から貰ってこい」みたいな台詞すら。


すべては未誕英雄世界の、鍛冶の発達と未来のため。

そのために、ひとつの魂を封殺した。



 + + +



「想像のしすぎかな……」


思わずそう呟く。

陰謀論は考えるのが楽しいけど、楽しいだけで合っていることは本当に希だ。


「今回は、たぶん、合ってると思いますよー」


ぎくりとする。

委員長が僕を見ていた。

一言もしゃべっていないのに、僕の内心を言い当てた理屈はわからない。

委員長はほほえみながら、「まあ、私のも想像ですけど」と続ける。そして、笑みを消し――


「もう一つの方は、確実に正解です、私が保証しますよ」


不運を望む少女が、どこかやるせない様子でそう言った。


「……それは、できれば外れて欲しかったんだけど」

「あなた自身が感じ取ったことを嘘にしてはいけません、それではちゃんと不運を味わうことができなくなります」


相変わらずちょっとズレたことを、堂々と胸を張って言う。


「おいおい、なんの話だ?」

「うむ、拙者にも不明であるのだが」

「それは――」

「内緒です」


なぜか嬉しそうに委員長が言う。


むっとしたペスが、委員長をくすぐったけど、まるで通じず、むしろ逆襲されていた。

なにをどうすれば骨がくすぐったいってことになるのかわからないけど、ペスはスイッチを押されたみたいに、ぎゃはくはははっ! と大笑いしてた。


ヤマシタさんはこっそり首輪を外そうとしてるけど、そのたびに足が滑ったり、逃げ出した液体生命がわざわざはめなおしたりしていた。


樹さんはそんな僕らを見つめてる。

誰とも対応してないから、表情は浮かんでいない。どういう気持ちでいるのかを推し量ることはまったくできない。


僕は頬杖をついて、「もう一つ」について思いを馳せる。



あの黒鎧がやっていることは、とても単純だ。

欲しい人に欲しいものを上げている。

素材が欲しいといえば素材を、そして、戦いがしたいといえば戦いを。


どちらも訪れる人が望むと同時に、黒鎧もまた望むことを行っているだけ。それ以外の、なにか特別な理由とかはまったくない。


そう、あの黒鎧は見た目とは色んな意味でずいぶん違う。


委員長がどうやってそれを把握したのかはわからない。

僕は、ベッドの上でうんうん唸り、筋肉痛どころか生命力枯渇のつらさに耐えながら、斬ったときの感覚に思いを巡らせようやく気づいた。


本当になんとなくだけれど、その素直さ、あるいは無邪気さは――たぶん子供だ。


あの黒鎧の中に入っていたのは、子供の魂だ。


かっこよく暴れ、そして、遊んでくれた相手に贈り物をする。

欲しいと言われれば喜んで差し出す。

そんな、ちょっと出来過ぎたくらいに素直で、元気な存在。

長く時間が経過しても影響を受けず、そのままであり続けた。


純粋な殺意――うん、そりゃ純粋なはずだ。


動作も、戦闘中のそれを別にすれば、ずいぶん子供っぽかった。


「なんだろうなぁ」


いろいろ難しい。

とりあえず、この手甲以外にも手に入った鉱石と一緒に、あのロックな鍛冶屋に行こうと思う。


そのあと、あの黒鎧のところにも行こう。

今度は、なんか別の遊びをするのもいいかもしれない。


それともなければ、もう一度、今度こそ一対一での戦いをしようか。


きっとあの黒鎧は過去、同じようなことをずっとしていたはずだ。

全力で戦い、勝ち、あるいは負け、その者にとって最適な装備をあげた。

それが黒鎧にとっての日常であり、生活であったはずだ。


――『遊び』に行こう、絶対。


目を閉じ、少し息をつきながら、罪滅ぼしじゃないけど、僕はそんな計画を立てた。


「次も、全力で戦えるかな……」


その辺りは、僕自身でもよくわからなかった。

2章終了

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