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未誕英雄は生まれていない  作者: 伊野外
装備
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19.調査について

計画は、長期的に行うつもりだった。

だからあれからすぐに帰って眠りについた。


起きたら、全身がごきごき言っていた、けっこう最近、無茶なことをしでかしてたから体の方が悲鳴を上げている。

樹さんの治療だとかジュースだとかでいくらかは回復してるけど、細胞レベルではまだ治ってない感じ。


「ぬあ……」


休んでおけと全身が命じる。

頭はけっこうハッキリしてて、とっとと行くかーと思ってるのに、命令伝達を体の方が無視してる。


こういうとき、無理しちゃいけないとはわかってるけど、それでも昨日決めたことを今日いきなりやめるわけにはいかない。

ベッドの上で休んでいても、学校で調べ物してても、体の復調にそんなに違いはない、そのはずだ。

そう僕自身を説得して体を起こす。それだけで体力を使い果たしそうな具合だった。


あー、パンツ履き替えるのって、けっこう足上げなきゃいけないんだな。

ぐぎぎ、って感じに体が軋んで上手くできなかった。一回コケた。


いつもみたいに樹さんのところでジュースを飲み、ペスをいくらか乱暴に起こして学校へ向かう。

二人して体調を心配された、樹さんは扉を開かず捕獲しようとして、ペスは不意打ちの昏倒で意識を刈り取ろうとしたけど、両方とも回避することに成功した。


というか、今の僕ってそんなに酷い様子なのか?

気になって、ちょっと鏡を見てみた、学校のトイレにあるけっこう大きい姿見だ。


なんかやけにゲッソリしてる僕がいた。

体の動きもなんか変、誰かに操り糸で動かされてるみたいな感じだ。

ふつうの体調不良とも、ちょっと違うとわかる。なんていうか生気がない。


「回復魔法の使用過多、だっけ」


無理矢理に細胞活動を促進させるのが回復魔法だ、これを何回もやると当然のことながら体の方にも不調が出る。

もっと高位の、物質生成との併用でやるものだと違うらしいけど、今の僕はとにかく体力を消耗してた。


昨日無理をしたツケがこんなところで出ていた。

全力での戦闘とか、やっちゃいけないことだった。


よろよろと、壁に手をつきながらトイレから出ると。


「あ、いい顔色ですね!」


出会い頭、委員長にそう言われた。


「そんなこと、今日初めて言われた……」

「不運をこれでもかと引き寄せるその顔、素敵です!」

「ああ、そう……」

「もっともっと素敵になってくださいね?」

「それはやだ」

「わがままを言ってはいけません、食べ物の好き嫌いをしてはいけないように、不運だってちゃんと取らなきゃいけないんです」

「不運ばっかりを取るのはまた違うような気がするよ!?」

「それもまた違います」


やけにキリッとした顔で。


「だってですね、何もしていないのに幸運を手にした人を見ると呪いたくはありませんか?」

「え、いや、それは――」

「同じように、何もしてないのに不運な人を見ると祝福したくなるものなのです。やったぁ! と」

「なんかどっちも駄目じゃないかなそれ!?」

「だから、私とその周辺の人はもっともっとアンラッキーであるべきです」

「後ろ向きに前向きだ!」

「そんなわけで、ヤマシタさんの姿を見かけなかったでしょうか」


なにが「そんなわけ」なのか分からない。


「見てないけど――ええと、その手にしてるのは、なに?」

「ええ、新しく手に入れた装備です。これを試したくて仕方ないのですが、なぜか先ほどから見つかりません。こうした時、私が是非行きたいと思う方向とは逆へ向かうとたいてい発見できるのですが、なぜか昨日今日と空振りです……」


しょんぼりとしていた。

だけど、手はバシンっバシンっと黒いロープのようなものを緩めては引っ張ってる。ロープの先では銀色に光る首輪。両方とも魔力を纏い、凶悪にぐねぐねと黒い光を揺らしてる。

気のせいかもしれないけど、そのロープは委員長の黒髪を素材として使用しているように見えた。

気のせいであって欲しいとかなり本気で思う。


不運の申し子みたいな委員長が、その能力を使ってでも出会えないのは――きっとヤマシタさんが定期的にあの鈴を鳴らして『興味』を引き寄せてるんだろうな。逆へ向かえば出会わないのも道理。

そう思いながら僕は気になっていたことを訊く。


「ええと、ひょっとして、素材入手、した?」

「んん? ええと……」


なぜかキョトンと分からない顔をしていたかと思うと。


「あ、ああ、そうです、それです。それによってこれを貰ったんです!」


あわてたようにそう言う。

なにかを隠している、とはわかるものの、それが何かはわからない。

きっとあの鍛冶屋と同じようにそれは「言ってはいけないもの」なんだと思う。


「でも、相手はあの黒鎧だよね」

「あ、もう既に行ったんですか、そうですよ」


にこにこと笑顔で、相変わらずバシバシとロープを引っ張りながら。


――なにをどうして、どんなことをしたら、それを得ることができたの?


そういう事を訊きたいけど、それもまたきっと言ったらだめなことなんだろうな。

どういう理由かは知らないけど、それは自分の力で獲得しなきゃいけないものであるらしい。


少しだけ恨みを込めて委員長を見る。


うんうんと満足げに頷くその顔を見ると、どうやら今の僕は、彼女的にとても『いい顔』をしているらしかった。



 + + +



さあ、聞け、いま聞け、聞いたら「残念ですがそれを教えることはできないんですよー」と答える気まんまんの委員長から離れて、図書館へ向かう。

指鳴らして「ちぇー」と言う委員長は、それでも元気よくヤマシタさんを探しに行った。

きっと捕らえるまで、どこまでも追跡するんだろうなってわかる執着具合だった。


「ヤマシタさんに平穏あれ……」


捕まることは決定されてるだろうから、その後の無事だけを祈っておく。


なにか知りたいことがあればまずはここ、そう言われている図書館は、司書さんに頼んで持ってきてもらう方式――いわゆる閉架式だった。

貴重なものや、取り扱いに注意すべきものや、読めば発狂するものとか人格乗っ取られるものとかが山ほどある上、時間経過と共に変質したりするので、こういうやり方になっていた。


カウンター内に座る司書さんは、ぼー、っと彼方を見つめて、やる気とか一ミリもない様子だったけど、話自体は聞いているらしかった。

最初から最後まで一言もしゃべらないまま、のっそりと動いて取りに行き、のっそのっそと戻ってきた、数十冊をバランスよく運んでる。


どさりと置いて、「ふー」と汗を拭いて、また同じ体勢。僕の前に置かれたのは、ズモモモ……という効果音がふきそうな具合の本の塔。バベルの塔よりも簡単に崩れそうだった。


「あの、さっき言ったように、あの表の黒鎧についてわかることを、知りたいんですが……」


申し訳なくそう言う。

しばらく僕をじっと見つめ、そのまま本を見て、また僕を見る。


「このどっかに、ある」

「いや、そうかもしれないけど……」

「めんどい」

「あの、せめて概略がわかるものを」


すぱん! そんな音をさせて本の塔から一冊が抜き出された。

いつの間にやら司書さんの手には、黒色の本。


崩れるかと思ったけど、不思議と変わらない様子でそこにある。


「じゃ、これ」

「あ、ありがとうございます」

「おういぇ……」


いいえ、なのか、OH YEAHなのかわからないけど、司書さんはそのままコックリコックリ眠り始めた。




手にしたものは、あの黒鎧の制作者の日記のようなものだった。

ようなものなのは、元々は暗号で書かれた相当高難易度なものだったからだ。

世の暗号解読家が挑戦し、そろって返り討ちにあったというそれを一部とはいえ解読できたのは大発見で、かなりの大ニュースになったらしい。


従って、未だにその錬金術師にして魔術師にして鍛冶屋にして料理研究家にして爬虫類愛好家については分からないことだらけ、名前をどう読むのかすら不明なのが現状だった。


今のところは、「研究者」とだけ呼ばれてる。

まだ生きているのか、もう死んでいるのかすらもハッキリしない謎の人物だ。


書かれたものはところどころ虫食いの、ときに想像で内容を埋めたものだったけど、それでもおおかたの内容を知ることができた。


黒鎧は、正式には戦闘用の機械じゃなかった。

全自動型の発掘機械であり、見定めるものだった。

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