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未誕英雄は生まれていない  作者: 伊野外
装備
19/179

15.能力について

さっき僕が感じ取ったいいお店の予感みたいなのは、錯覚とか気のせいとか幻影とかそういうものだった。

というか、ここはきっと武器防具を売ってる店じゃなくて、もっと別の、踊り子とかそういう人たち用の店だった。そうに違いない、そういうことにしておこう。


うんうん、と頷き、歩き出そうとする。


急がなきゃいけなかった。

できれば、今日中に新しい剣を購入したい。無理なら当座の代替品だけでも。


今ここで必要ってわけじゃないけど、やっぱりきちんとした剣が手元にないのはとても怖い。

イザってときの戦力が半減してるのは、心細いってレベルじゃなかった。気分としては両手を肩幅までしか開かないヒモで縛られてるような感じ。咄嗟の動きが大幅に制限される。


最悪、頑丈な鉄棒だけでもかまわなかった。

手元に頼りになる物が欲しい。


「――」


進もうとするのを、引っ張られた。

強い力じゃなかったけど、無視できるほどのものでもなかった。


振り返ると、薄く開いたドアの隙間から手が伸びて、僕の背中を捕まえてた。


つまむ指を遡ると、なんか情けない表情で拝むようなジェスチャーする人が扉の隙間にいた。たぶん、意味するところは「もう一回、もう一回チャンスを!」とかそんな感じ。


さっきまでの大音量は聞こえない。

ライトの乱舞も漏れていない。


「……」

「――」


しばらく見つめ合う。

僕は視線を外し、建物をもう一回たしかめる。見れば見るほど堅牢な、とんでもなく壊しがいのある感じの建造物だった。


「造った?」


ぐるって感じに指さしながら。

答えは「うんうん!」って感じの頷き。

一瞬だけ間があったのはどうしてなんだろうかと、ちょっと思う。


「なら、いいけど……」


扉が閉まった。ばたばたと引き返す音、なんか騒がしく用意してる、「うわ茶こぼしたっすよぉ!?」とか「あっがぁうっ! 小指ぶつけたあぁあ!?」って叫びも聞こえる。

三十秒くらい待って、落ち着いたころあいを見計らって扉を開ける。


初回と違って落ち着いた、ごくありふれた感じの店内になっていた。

狭い店内を上手くつかって、できるだけ多くの武器防具を置こうとしてる。


照らす魔法具が、変にキラキラした感じだったことは見なかったことにしておく。


「いらさいー」


笑顔だけど、冷や汗は隠しきれてない。

七色の髪も変わってない。


それでも、武器の質は嘘じゃなかった。

竜火皮の鎧、輪風招槍、ヴァイスエントのロッド、魔央円の飾り剣――

すべてに、確かな技術の研鑽が感じられた。


僕をひきとめた手も、ごつごつと節くれ立ったものだ。

熱と鉄分を幾重にも晒した跡があった。


――本当に、なんであんなことしたの?

そう訊きたかったけどやめておく。


手製の楽器らしきものを必死にカウンター内へ隠す様子が丸見えだ。

武士の情け的な空気の読み方でスルーしておく。


「どんなものをお探しですかいな?」


足で太鼓らしきものを引き寄せながら。


「できるだけ頑丈で、できれば安いのを」

「ほほう、虫のいい話ですなあ」

「うん、たしかにそうかも」

「だがしかし、ウチのはたいていパワフルっすよ、ロックっすよ! 百万回ぶつかっても壊れないのが先祖代々から売りってやつっすね」

「そうなんだ、ちょっと試していい?」

「おうとも、いいですとも、そんじょそこらの剣じゃ満足できない人がたどり着くのが我がお店! ちょっと、かなり、そうとう、すさまじく重いのがなんだっていうんですよ、ええまったく! 武器ってのはですな、切れ味とか携帯性よりタフさと信頼性こそが――」

「あ、また、やっちゃった」

「今ここで百万一回めぇええええ!?」


どれがいいかなと調べてたら、めきょ、って感じにひん曲がった。


「ちょ、おま、うそん!? え、え、なにそれ! なにそれ!」


ここでもやっぱり怒らせたかなと思っていたら、むしろ目を輝かせて接近してきた。


「おまっ、くそう、人が丹誠込めて作った剣をっ! この人でなしっ! 最低だっ! 最悪だっ! 罪もない剣を殺した容疑で逮捕だっ! いろいろ話聞かせてっ!」

「いや、満面の笑みで言われても……」


僕の手とか腕を、もむもむと揉まれてた。

そして、はてなと首を傾げる。


「あれ、思ったよりもパワフルじゃないっすね、マッスルこそパワーなイマジネーションが湧かないのはどして? なにこの詐欺」


いきなりテンションががた落ちだった。


「普通にいいマッスルではあるけんども、なんか普通の未誕英雄っぽいレベル? うわ、なにそれぇ……」


明るい様子が、だんだん暗く。


「……魔術の使い手とかそんなん?」

「いや、そういうのは使えないけど」

「うっそだぁ……うそつきだぁ……かわいそうなマイ剣……筋肉以外のもので壊されちゃうなんてなにそれ興奮する」

「落ち込むのか高ぶるのかどっちかにしようよ」

「とりあえず脱げ」

「いやだ」

「マッスルを、筋肉を見せろ」

「やだ」

「じゃあ、弁償」


壊してしまった剣の値札を見る。

脱いだ。上半身だけだけど。


「ん……やっぱりどっか一部だけが異常発達とか、インナーマッスル最強説とかいう、そんなバカみたいなオチはなし。筋肉は筋肉なんだから、そんなにスゴい違いあるわけないだろばかっ、男はでこぼこしてナンボなんだよぉッ!」

「誰に向けて言ってるの」

「筋肉の守護天使」


割と素なのが怖い。


「んー、ん? ンンン?」


名探偵みたいに悩んでいたと思ったら、とつぜん声の様子が変わった。

裸の上半身を通り過ぎて、下半身、というか腰に下げている、壊れた剣を発見したからだった。


「あ、見る?」


こくこくとした頷き。

ヘンテコな様子に変化してしまったブロードソードだ。ちょっと注意しながら引き抜いて、机に置いた。

それほど使い込んだわけじゃないけど、愛着はある。とても捨てられなかった。


「これ……しょ、初期装備……?」


声は震えてた。

僕の「うん、そうだよ」って返事も聞こえてない様子で、子細に観察をした。


「うそん……これ、うそん……!?」


特に、柄の壊れた様子と、刃の様子に反応してた。


「すご、すごっ!」


バンバンと裸の肩を叩かれる。


「おまえ、すごい、これ、すごいっ!」


なぜかカタコトだった。

その内に、また演奏開始しそうなテンションの上がり具合だった。

急いで店奥へと引き返す姿を見て、僕もまた引き返すべきかどうかを、ちょっと考える。


「こ、これ、握ってみ?」


言って手渡されたのは球。野球ボールくらいの大きさで、表面はメタリック。さわった感触はほのかに温かかった。


「む」


思ったよりも穏当な物が出てきたことに安堵しながら、力を込めて握ってみる。

みきょ、って感じに変形した。


「それ……まさか、全力ぅ?」

「むむ」


おまえにはがっかりだ。

そう書かれた表情を前に、ちょっとやる気を出す。


ひとつ呼吸。

剣を握るように、あるいは水流を掴んだように、魔力を掴んだように、不運の塊を掴んだように――ありとあらゆるものを一度に『掴む』。


グごぎゃシャっッ!


そんなよく分からない音が鳴った。


「多重締握かっ! 道理でやっぱり、というかそれ壊すとかっ!」


ぎらぎらとした視線で僕を見ていた。


「筋肉であって筋肉じゃないのはどうすればいいんでしょうか神様っ! というかそこの鍛冶屋泣かせ、へいゆー!」


七色の髪の毛を振り乱し、指をつきつけながら。


「物理的じゃないもの――いんや『概念』を掴んでいやがるなっ!」

「え、そうなの」

「無自覚にやったんのかよぅ!?」


体を捻りながら叫んでた。

なんか、僕のはそういう能力らしかった。


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