14.お店について
なんだか会話ができなくなったペスと別れて、鍛冶屋へ向かった。
実は、一緒に行こうかと誘うつもりだったんだけど、一人で行くことにする。
鍛冶職人と一言でいっても千差万別。店で売ってるものも色とりどり。けっこう悩むし、どれを買えばいいのか相談に乗って欲しかったけど、まあ、無理強いしても仕方なし。
職人は、個人で頑張ってる人もいれば、数千の職人を雇って効率化を図ってるところもあるらしい。
中には山一個を貰って、好きに採掘して好きに鍛錬、って感じの人もいるとのこと。
それで数千人のところと生産速度が変わらないんだからわけがわからない。
もちろん、一本一本、とんでもなく時間と技術を注いで作ってる人もいるみたいだけど。
鍛冶職人がそんな風に二極化してる関係で、売ってる店も二極化してた。
大量生産を一手に引き受け、売り出してる大型販売店か。それともなければ、職人自身が売り子をしている販売店か、って感じだ。
前者は品ぞろえ豊富で品質も安定、だけど、特殊なものとか専門的なものは少ない。
後者はその逆で、当たり外れがとても大きい。
僕が最初に訪れたのは、大量に購入して大量に売る、いわゆる大型店だった。
店内はひろびろと清潔で、剣も防具もぴかぴか光る。
表情を消した演奏者が、延々と同じ曲をループしていた。
品ぞろえも値段も良好。ここでなら壊してしまったブロードソードの代わりもきっと見つかる。
ぽけーっと店内を眺めていると、揉み手をした店員が高速で近寄ってきた。
一言断ってから、剣を確かめてみる。
飾りのついた、ちょっと細めの剣。アルバーの刺突剣、って名前がついてる。ほのかに光っているのは魔法的な措置かも。
少し強めに握ってみた、柄が潰れた。紙細工みたいな感じにくしゃっと。
「これ、まさか本物じゃないよね?」
額に青筋浮かべて「さっさと帰れお客様」と言われた。さっきまであんなに笑顔だったのに……
別の店で二三回これを繰り返したら、あっという間に周囲一帯で出入り禁止になった。なぜ。
僕は壊れてヘンテコになってしまった元ブロードソードを腰に下げながら、首をひねる。
まあ、どれもなんかしっくりこないというか、頼りにならない感じの武器しかなかったから、それほど惜しくはなかったけど。
「仕方ないなぁ」
大型販売店の立ち並ぶところから更に奥へ行くと、なんだか薄暗くて殺風景な店の建ち並ぶ道に出た。
職人個人が販売してる店だった。
さっきの賑わい具合から比べると天と地、月とすっぽん、表通りと裏裏裏通りな感じだ。
看板すら出てないから、どこがお店で、どこが普通の家なのかも分からない。
ちいさな、似たような店が無個性に立ち並んでいるだけに見える。
というか、ちゃんと開いてるところがまず少ない。
売る気のなさが滲み出てた。
店構えからして「素人の一見客は帰れ」と告げている。
「うわお……」
いろんな意味で怖かった。
ただでさえ初見の店っておっかない。ここでは更に「どんなお店か」って手掛かりすらも無い。
おそるおそる、歩を進める。
まずは、ぐるっと一回りすることにした。
決して気後れしたわけじゃない。
そう、ヤマシタさんも言っていた。偵察は重要で大切だ。情報なしに動くのは危険が迫ってるときだけで十分だ
そうしてじっくり見ていると、個々の店の違いがだんだん見えてきた。
まず、石畳の様子が、それぞれの前で違ってる。
綺麗に清掃されてるところもあれば、放っておかれてるところもある。
店そのものも、一見すると煉瓦造りなのに、よくよく見れば別の素材だったりした。
なにをどうすれば鋼を煉瓦っぽく加工できるのかは分からない。だけど――
「意外と個性はあるのか……」
こう、軽くて柔らかい雰囲気だったり、質実剛健だったり。
窓枠にある小物とかドアノブへの彫金とかの飾りにも、細かい差がある。
不便ではあるけど、これはこれで味わい深いのかもしれない。
「んー……」
とはいえ、まだ僕は店には入っていなかった。
ドアノブとかドアノッカーの様子を確かめ引き返すのを繰り返してた。
どれもこれも力を入れすぎると壊れてしまいそうだった。
なんとなく軽そうだな、って感じもしたから、たぶん速さ優先の武器防具を売ってる。僕の求める方向のものじゃないのが、入るより先に実感としてわかるのはありがたい。
だけど、なんだか「あ、おかえりはそっちです、さっさと出てけ?」と扉前で言われたような感じもあった。
とぼとぼと、あるいは、うろうろと、歩いて回る。
前の戦いでお金は手には入ったけど、果たしてこれで本当に足りるのかどうかとか、足下みられてふっかけられたら嫌だなぁとか、マイナス要素ばかりが足を引いてた。
通りがかる途中、ときどき中から声も聞こえた。
窓ガラスがあるところだと、中の人の様子もよくわかる。
「ええ、ですから、投げただけでびゅーんとヤマシタさんに首輪がはまるようにして欲しいんです。最近、ヤマシタさんの逃亡技術を磨いているようなんです。捕獲成功率が下がってしまいゲットだぜ!ができない由々しき事態です。打開を図らなければなりません!」
「あのう……それは、ちょっと技術的にも倫理的にも……」
「そんなにも、難しいことなのでしょうか? 対象はたった一人です。なんであれば私を捕獲対象にしてもらってもかまいません! ヤマシタさんから私へ呪いのリードロープの橋渡しです! 確実で安全で迅速な首輪装着が今の世の中には求められているとは思いませんか!」
「いえ、だから、素材がないから……」
首輪片手に大きな身振りで熱弁してる委員長が見えた気がしたけど、きっと気のせいに違いない。
巨人族っぽい女性が、冷や汗を流してた。
今の僕は不運が見えてるわけじゃないけど、中に入ればろくでもないことになるのはわかる。
そそくさと去る背後では、熱弁がずっと続いてた。
+ + +
背の低い建物の並ぶ路地を行く。
店があるのは右手側だけ、左はただの住居しかない。
きっと、建ち並ぶ店々の裏で川が流れているからだ。積み荷を引き上げたり下ろしたりする関係上、やりやすいところに店がある。
川の反対側に位置するこっちからだと、どこが最適な位置なのかはわからない。
だから、ときどき混じる普通の民家がどれかもわからない。
「絶対勘違いで普通のところ開けたりした人とかいるんだろうな……」
その気まずさを思うと、扉を開けようって気が更になくなる。
観察による判断も絶対じゃないし。
開いたとたんに注がれる不審そうな目つきとか、「ああ、またか」って感じの慣れた口調で「ここには売りモンはないよ」と言われて、とぼとぼ引き返す姿とか――
「……もうちょっと、ちゃんと売るようにしようよ」
せめて看板くらいは下げて欲しい。前言を撤回するようだけど心底そう思う。
外から眺めるぶんには楽しいけど、いざ入るとなると勇気がかなり必要だ。
ぶつくさと文句というか、不安を口にしながら歩いている最中、ふと足を止めた。
顔は右、視点は一点、足はなんかの魔法をかけられたみたいに動かない。
「……?」
どうしてなのか、自分でも分からなかった。
なんでだ、僕。
なにを見ているんだ、僕。
何考えてるんだ、僕。
理由は、少し遅れて気がついた。
その家が、壊れそうになかったからだった。
万全の状態で、あらゆる技術を込めて、百パーセントの力を発揮したとしても、できるのは傷つけることだけ。壊しきることはできない――その強固さを感じ取った。
頑丈で頑強で揺るがない。
それは――僕が剣に求めていた要素そのものだ。
「おお……」
引き寄せられるように近づいた。
ドアノブを握り、回す。
その動作に、まったく不安がなかった。
壊してしまうかもという恐れが、無い。
ちょっと、いや、かなりドキドキしながら扉を開き、中を覗いた。
乱舞するライトと、閉じこめられていた騒音と、ヘットバンキングする七色の髪の毛が見えた。
「ひゃっふー、へいへいIYAA! ふぁっきゅーさんきゅー、おっきゃくさまようこそぉうう!」
すぐに閉じた。




