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未誕英雄は生まれていない  作者: 伊野外
終章
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168.掴む概念について

認識と同時に全力で跳躍。倒れた医者に切っ先を向け、全力で『爆炎を掴む』。

膨大な炎で真下への攻撃を仕掛けながら、僕自身は反動でロケットのように真上へ飛翔する。


「無駄だぁあッ!!」


焼け焦げになりながら、それでも医者が叫んでいた。


「オマエ如きがそれ壊せるわけあるかあああああああッ!!」


危険を感知――


「!」


噴出の方向角度を変え、空間を『掴んで』押した。

鋭角かつ急激な変更、脳の血液が偏り、視界が暗くなる。

でも、ついさっきまで僕がいた場所を閃光が通り過ぎた。炎の気配を蹴散らし、まっすぐ進み、ゲートにぶち当たる。あのままだと完全に喰らってた。


ちなみに、ゲートそのものは、まったくなにも変化しない。

変わらないまま、そこにある。


ちらりと下を見れば、今もなお仰向けに炎で炙られながら、銃口をこっちに向ける医者がいた。

蒸発した眼球の奥からは、変わらない悪意が灯る。

そいつは叫び、何度もトリガーを引き続けていた。無数の破壊が迫る。


僕は体を反転、剣を盾のようにしながら『不運を掴んだ』。

黒い雲みたいなものが広がり、まずは僕自身を――『掴む』手そのものを解体させ、分解させ、劣化させようとした。


水分やら生命力やらも抜け、腕がちょっとしたミイラみたいな様子になる。

けど、そのマイナスと引き替えに、無茶苦茶な特性を得た。

医者の放つ破壊のそれを防ぎ切り、断続的にただ上へと弾き飛ばされるだけで済んだ。


舌打ちの音、攻撃が止まる。

仕留めきれないから諦めた――そんなはずはもちろんなかった。


炎と黒雲と突風に阻まれた向こうで、次の攻撃の準備をしているはずだ。

それがなにかはわからないけど、僕にとってロクでもないことなのは確実だ。


だから、僕自身の体を一回転。勢いのまま剣を投擲した。

慣れたこの体なら、威力も精度も段違い。狙い通りの場所へ行く。直前に『掴んで』おくことも、もちろん忘れない。


炎と大気と真空に風穴を開けて、それは行く。

結果を見ないまま、両手で叩きつけるように爆炎を『掴んだ』。剣と違って上手く制御ができない、横へと激突、破片と血液と肉片を撒き散らしながら昇るヤスリ掛けの有様になる。僕は歯を食いしばる代わりに雄叫びを上げ、真上を睨み続ける。


トっ――と軽い音をさせ、剣が突き刺さった音をたしかに聞いた。


「!」


そして僕は……

いや、『僕』は――たった今、剣の内側に発生したばかりの概念である『僕』は、医者のすぐ横に居た。

ダンジョンでやった時みたいに、剣の内側に『僕の概念』を発生させていた。


こうやって床に刺さっているのは、別に投擲を外したわけじゃない。いや、本当に。

相手がなにをしようとしているかわからない状態での直接攻撃は、下手したら逆効果。まずは確認が必要だった。


医者は真っ裸で膝立ちになりながら、手元の銃を変形させていた。

見るからにすさまじい破壊力を秘めている。

膨れ上がった鉄器の形は、以前にも見たことがあった――黒鎧が持ってたものに、よく似てた。

当たればただでは済まない。


そして、そのすぐそばにいる『僕』は――


――あと、十秒もない命かぁ……


十分に『掴んで』なかったから、その程度の命しかなかった。

なんてことだと、ちょっと嘆く。

『僕』自身の意識としては、投げた場面からそのまま連続してここに居る。まあ、実際は、たった今発生しただけなんだろうけどね。


そして僕は、『僕』ならばこの状況を受け入れ、きちんと行動してくれるだろうと判断していた。


――ああ、うん、まあその通りだけどね。


でも、ちょっと納得いかないのはどうしてだろう。

世の中ままならないなぁ、と思いながら『掴み』を行う。

概念把握能力――今となっては物質創造にも似た力。

最近知ったものを、その対象とする。


能力を発揮したことでようやく『僕』に気づいたのか、医者は歯を剥き出しにしながら仕込み銃を向ける、強力な兵器は真上へ向けたままで。

なんか唾飛ばして叫んでるけど、聞く必要なし。

あと、裸だと格好がつかない。まあ、今の『僕』も言ってみれば裸みたいなもんだけど――


胡乱な思考を、攻撃が穿った。

消去破壊のそれが柄と鍔付近を消し飛ばした。

でもその攻撃は、ちょっと遅すぎた、あと本体は刀身なんだかそっち狙わないと。

『掴む』ことで発生させたそれは、もう周囲に生じていた――気色の悪い肉塊のようなもの、一抱えもあるボール状のそこに幾つもの目と触手がある。


英雄だった。

あのダンジョンの。


傲慢かつ身勝手が身上の存在だ。生まれたばかりではあるものの、銃口を向けて攻撃した相手を敵と判断し、迷うことなく襲い掛かった。


『僕』っていう模倣概念が作り出した模倣概念物質だから、力としては本物に遠く及ばない。ほとんどハリボテと言ってもいいくらいの感じだ。


さらに言えば、反動だってすさまじい、刀身は攻撃を受けてないのにバッキバキの破片と化した。


『僕』の命は、それで尽きる。

無限に意識が拡散する。


終りの直前、医者の青ざめた顔と、甲高い悲鳴と、巨大な兵器をこちらに向ける様子を認めた。


――ばーか。


中指があったら立ててやったのに、それができないのだけが残念だった。


破壊・閃光・轟音。

一つの階が丸々消し飛んだ。



 + + +



「うあ!?」


両手を下に、爆炎で上昇していた僕は、一瞬混乱した。


膨大かつ考え無しの攻撃によって、病院そのものが崩れようとしているのがわかった。


同時に、僕の魂と呼ばれているものの一部がゴリっと削られ、消失したような感覚もまたあった。

当たり前といえば当たり前だけど、能力使用の反動が酷かった。

たぶん、レベルでいえば二つ三つは現在値と最大値が下がってる。

気分の悪さも相応だ。


今すぐ倒れ伏して寝込んでしまいたい気持ちを押し殺して、飛び上がる。

ヤスリ掛け状態からもようやく離れた。

この場は時間こそがなによりも貴重。命がけというより命を捨て札に獲得した時間を使い、全力で移動――


球状のゲート、その表面を滑るようにしながら、その真上に到着した。

月明かりがありがたい。空間を『掴み』、その場に留まり、真下を見つめる。


この位置なら、医者の攻撃はもう当たらない。他でもないこのゲート自身が盾になる。


「――」


意識を凝らし、『掴み』を行う。

何色とも言えないその内側にある存在を捜し当て、引き出そうとする。


この場面、僕自身をもう一人用意しての無限レベルアップをすれば、ひょっとしたらゲート破壊だってできるかもしれない。だけど、それはをすれば、医者だけじゃなくてそれ以外の人たちも多く死ぬことになる。

その復讐は、さすがに後味悪すぎだった。僕の好みでもない。


攻撃の対象は――


「無駄だ、できない、おまえには無理だ!」


そんなことを、いまだに叫んでいる奴だった。


「その程度の能力で、このゲートから命を引き出すことはできないッ! たかが未誕英雄如きが勝手をするな! こちらの命令を無視するな! 言われたことだけやっていればいいッ!」


――未誕英雄か。


まあ、英雄じゃないよな、と思う。


うるさく騒ぐこいつにお膳立てされて、そう仕組まれて、ふるいにかけられ選択されたものが、そんな上等なもののはずがない。


だけど、それでもなお、「誰かにとっての英雄でありたいと思うこと」が無意味だなんて言わせない。


変えて影響を与えるものが英雄の定義であるというのなら、僕は未誕英雄そのものを変える。

未誕英雄の英雄になる。


「これか……!」


手応えを得た。

その命を確かに『掴む』。

ゆっくりと、外へと引きずり出す。表面に、それが浮かび上がる。


「だから――」


医者の叫び、かなり近くから聞こえた。

巨大な門が開くような起動の震えを、ゲートから感じ取った。


「それはできないんだ!」


ゲートが、一転して黒色となった。

周囲の空間そのものですらも、その色彩に染まった。


例外は、僕自身と、ゲート表面に浮かび上がっている医者の魂魄そのもの。そこだけが別の色になっている。


――やばい……!


赤でも青でも白でもない色は、あのダンジョンだと魔神以外の陣営の能力値を大幅に下げるものだった。

それは、未誕英雄世界でも同様の効果を発揮した。


「ぐ……!」


『掴む』力が大幅に下がった。

表面まで出ていたものが、再び戻ろうとする。


ここまで来ての失敗?

冗談――ッ


背中にヘンテコな機械をつけた医者が飛翔して来てるのが見えた。

かなり不恰好、しかも全裸、たぶん間に合わない、だけど必死。


こっちだって、そのはずだ。

余裕なんて贅沢品は、ここにはない――!


右手でゲートの方を『掴んだ』まま、左手で僕自身を『掴んだ』。

飛行能力を持たないから、当たり前のように落下する。


「やめろぉおおおおお!!!」


銃を構えて撃とうとする医者に舌を出しながら、僕自身の内側から出したもの――『ぺスの内にあった飢餓』を、医者のその魂魄へと融合させた。

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