13.休日について
剣と鎧、どっちを優先するかは、性格によって違う。
僕なんかは、考えることなく剣一択だけど、人によっては「まずは防御力を整えてからこそ」って感じの人もいる。
どっちがいい、ってことはない。
どっちが悪いって話でもない。
それでも言わざるを得ないことって、きっとある――
「ぺス、やっぱり防御力を期待できるのがマント一枚ってダメだと思うんだ」
「あん? なんの話だよ」
実戦訓練の翌日、学校は休みだった。
というか回復したばかりの体を慣らすために運動禁止を言い渡された。
だから僕は、中央広場でのんびりしてるし、ペスもそれにつきあってた。
そして、前々から言おう言おうとしてたことを指摘した。
そう、いくらなんでも必要最低限の防御力を下回るのはどうかと思う。
ぺスはカップのアイスを嬉しそうに食べていた。
舌が青く染まってるのが、なんか変な感じだ。
彼女は黒を基調にしたものを着て、シルバーのアクセサリーをあしらってるけど、どっちも一般的なもので何の加工も施されてなかった。
僕が着ている奴は、魔術的な防御付与されているもので、お値段もそれなりにするものだ。防刃耐魔性能もしっかりしてる。
一方、ペスが着ているものの中で防御力があるのはマントだけだった。前半分が完全に素通し。どこのバーバリアンだって出で立ちで戦いに赴いてる。
僕の視線をどう勘違いしたのか、けらけら笑いながら手首を前に倒した。
「なんだよ、おれの首元とか手首から覗く骨がせくしーか? おまえもようやく骨の良さが分かってきたんだな!」
「違うから! というか、それ分かったら僕は人としてなんかどうかしていると思うよ――」
って、違う。
というか僕、簡単に誤魔化されすぎだ。
「ぺス」
「なんだよ」
「さすがに装備が薄すぎるよ」
「またそれかよ」
とたんに渋面に変わる。
面倒な話をごまかそうとしていたらしい。
ぷい、と横を向きながらスプーンを咥えてた。
顔だけ生身なだけに、頬の膨らむ様子がよくわかる。
「いくら後衛だからって、まったく攻撃が飛んでこないわけじゃないんだ。万が一のことを考えたら、いくらか防御は必要だよ」
「あー? んなの撃ち落とすなり、先にぶっ倒すなりすればいいだろ」
ぺスはおどけたように両眉を上げていた。
「どうせ一撃いいの貰えば、おれは簡単に吹き飛ぶんだ。だったら避けること優先。余計な重荷なんざぽいだぽい!」
「それは――」
「攻撃も回避も防御も体の維持でさえも魔力のみ。無くなりゃ終わりで終了でフィニッシュだ。変なもんゴテゴテ着まくって、心も体も縮こまるより、こっちの方が絶対いい」
言って、「んー!」と幸せそうにアイスを食べた。
「うめー」
「……アイス、好きだね」
「冷たいもんはたいてい好きだな、辛かったり熱いもんは苦手だ。知ってるか? 辛味って痛みなんだぞ、なんで舌攻撃するようなマネすんだろうな」
「刺激を求めてるんじゃないかな」
「冒険は体全体でやるもんだろ、舌だけ刺激的でどうすんだ」
「でも、それを言えば冷たいものだって――」
「冷たいのはいいんだ、美味いんだから」
「横暴だぁ」
「おお、もちろん!」
ぐっと拳を握ってポーズを取ってるけど、そこに力こぶはできていない。
「まあ、ペスの言いたいことはわかったから、もう装備については言わないよ」
「いや、それは遠慮するな、どんどん言ってくれていいぜ」
「そうなの?」
「ああ、ようやくおまえにも、おれの部下としての自覚が出てきたなー。おれは偉い上司だからちゃんと諫言聞く。だいたい却下するけどな」
「友人として、クラスメイトとして、共に戦うものとして言ってみたけど、やっぱりこれはちょっと出過ぎた忠告をだったかな! ごめんね!」
「はっは、照れるな照れるな」
片手でわしゃわしゃと髪の毛撫でられた。
相変わらずくすぐったい。
僕は渋面になるしかない。
「やめい」
「止めることを止めるぞ」
「それって続けるってことだ……」
「わははー!」
テンション上がってきたらしく、頭頂部から十本指を使って、一気に。
「だから、骨の指でやられると、なんかぞわっとするんだって!」
「おまえが変な顔してぶるぶる震えて、おれを喜ばせるのが悪いんだ!」
「なにその凄まじすぎる責任転嫁!?」
「もう一回やるぞー」
「お断りだ!」
しばらく戦いは続いた。
空飛びながらくすぐろうとするのは、いろんな意味で卑怯だと思う。
+ + +
「ああ、もう……」
髪は竜巻にあおられたみたいな感じになってた。
そんなに気合い入れてセットしてるわけじゃないけど、さすがに髪の毛がぐしゃぐしゃになりすぎだ。
この世界、窓ガラスはそんなにないし、手鏡の類も持ってない。
手櫛でだいたいな感じで整えるしかなかった。
「余は満足である」
「ああ、そうですか、良かったね!」
「うん!」
満面の笑みで素直に頷かれると、こっちとしては文句の言いようがない。
ちょっとだけでも、「ああ、そっか、それはいいことだなぁ」とか納得してしまう。
まあ、同時に少しイラっ、ともするんだけど。
「……ペスって、意外と子供っぽいよね」
「んー、そうかぁ?」
「そうだよ」
ペスは、スプーンをくわえて上下させていた。
「戦ってるときとかカッコいいのに、なんかギャップがある」
「おうとも、どっちもおれだ」
「ペスの部下にはなりたくないけど、戦ってるときの姿には憧れてるよ?」
「お――」
それはきっと僕が、悩みがちな奴だからだ。
どうでもいいことをどうでもいいことだって割り切れない。即断即決ができない。
それができる人には、だからどうしたって敬服してしまう。
僕は頬杖をつき、タイルを這うアリの様子を見つめた。
「たぶん、戦いのときに誰よりも一番前にいるのがペスなんだと思う。立ち位置じゃなくて、心構えが」
奇襲されたとき、誰よりも一番最初に立ち直ったのがペスだ。
「だから余計なことも言ったけど、それってペスの格好良さを損なうことだった」
委員長っぽく言えば、ペスに首輪つけるようなことだ。
「うん、ちょっと心の整理がついた。とにかく僕は、ペスのことをカッコいいと思ってるし尊敬してる。そして、死んで欲しくないとも、思ってるんだ。言いたいことはたぶんそれだけだ」
少しすっきりした気分で横を見る。
ペスは、首どころか体全体で横を向いてた。
「あの、どうしたの?」
「なんでもないない!」
「ないないって……」
ペスは「ぐぉおお……」と言いながら体を捻ってた。
振り返り、指を突きつけて来る。
「おい!」
「なに?」
「照れるようなこと言うなよ、おれはおまえのことが気に入ってるんだ、だからおまえがそれ言っちゃ駄目だ! すげえ照れるだろ!」
「あ、顔真っ赤」
「うっせ、うっせ!」
また体ごと反対を向いた。
その後、いくら話しかけても「あー」とか「おお……!」とかよくわからない感じの返事しか来なかった。




