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未誕英雄は生まれていない  作者: 伊野外
試験Ⅱ
165/179

156.内緒会話について

剣であるってことはかなり奇妙だ。

確実に僕は僕であるのに、なにも変化してないのに、形が変わってしまっているだけで――武器っていう使用を前提とした器物となっているだけで僕は僕として動けない。


剣を通して想いは伝わってくる。

強烈なそれは――ぺスの心はただ吠えていた。

この剣は、これは、この男は、ようやく全部おれのもんになった、と――


いやいや、僕は僕だ、その考えは間違いだ。

というか、未だにペスを『掴んで』いるのだから、むしろ僕が得たと言ってもいいくらいだ。

たかが形が変わっただけで、思い違いをされたら困る。


膨大な魔力を乗せた一撃で、魔神を打ち据えながら頷く。

いや、実際には今の僕には頭も首もないから気分的にだけど。


魔神はふっとばされながら、目を丸くしている。


「うるせえ! こうやって今おれの手にあるだろうが!」

――形を変えればむしろ僕がペスを手にしてる!

「はは! 悔しかったら振られてみろ!」

――今接近戦でこんだけ動けて攻撃してるのは僕が操作してるからだよね!

「一時的に譲ってやってるだけだろ!」

――僕だってそうだ、一時的に剣って形でペスに握られているだけ!

「んだと! おれ以外のやつの剣になるつもりかッ!」

――いや、そりゃ場合によるんじゃないかな、元に戻れたら戻りたいけど、どうなるかは……

「うるせえ、ずっとそのまんまでいろ! この手離すつもり一切ないからな!」

――まさかの人間復帰反対派!?


多数の魔族が上から襲い掛かる、ほとんど効果は発揮しない。

だけどそれでもその注意を逸らす役割にはなる。


五月蠅いとばかりにそれらを撃ち落とそうとするけれど、それらすべてを僕らは防ぐ。

魔神がハリネズミ状にあっちこっちに破壊の魔術を飛ばすのを、僕らはそれ以上の高速で打ち落とす。

本来なら目にも止まらないはずの魔弾の群れは、引き延ばされた知覚の中ではゆるゆる移動するものでしかない。


「いい加減、よく、よぉおっくわかったんだよ」

――え、なにを……? 

「おまえは、おれの部下とおんなじ気質だ。放っておくと無茶苦茶をやる。てめえ自身をちっとも大切にしねえ! 賭け時だと思えば平気で命を捨てやがる!」

――そ、そんなことは……

「ねえとか言ったら、さすがに怒るぞ」


今の僕が「命を大切にしてます」は、さすがに嘘くさかった。


「だから、ずっとおまえを握り続ける!」

――どうしてそういうことになるの!?

「委員長の気持ちが今ならよくわかるんだよ、おまえには繋げて重石になるもんが必要だ!」

――おはようからお休みまで一緒で、しかも自由に動けないっていうのはゴメンだよ!

「あ? どこがだ? いったいなにが不満だ!」

――なにもかもだよ! むしろ武器屋で売られてる方がまだしもゆっくりできそうな感じだし、ここは――

「誰とも知らないやつに握られるつもりかッ!」

――なんで僕が浮気宣言したみたいな感じに怒ってるの!?


言い合いをしながらも戦闘は続く。

厄介なものから先にとばかりに放たれる攻撃の群はすべて去なす。

ペスの手はすでに生身。繊細な動きが可能だ。

動作そのものは、長く近接戦闘を続けた僕が行う。


「――ッ!」


魔神が何かを叫びながら力を形作る。

剣だった。

力を凝縮させた形だ。

ただの一撃で『僕』が断ち斬った。


驚愕の表情を浮かべているけど、こんなことは当然だ。

無制限に、尽きることなく僕らは僕らを高め合う。

ただ一人でしかない力じゃ、その出力には限度がある。


そして、それは僕とペスとの間だけじゃない。


・やっほー、なんか痩せた?


勇者が――ある意味では僕ら以上にチートな存在が、そんな選択肢を見せつけながら飛翔して来た。

すでに僕らが押してる場面に、更に天秤を傾ける要素が来た。


無数の選択肢がわき上がったと思ったらすぐに収斂して効果を発揮する。

それらは残らず速度上昇、筋力上昇、体力上昇、魔力上昇、運勢上昇などなどの――ステータスアップのものだった。

とんでもない攻撃力を発揮したものが、こんどは勇者自身の力の底上げに向けられる。


目にも留まらぬ早さで勇者の剣は振られた、一度の衝撃音に思えたものは千を越える攻撃音だ。

今の僕らからしてもそういう感じ。普通の人が見たらどういうことになってるのか想像もつかない。

魔神はあっという間に襤褸雑巾以下の有様に。

普通なら致命傷、ゾンビなら身動きとれないレベル、吸血鬼とかでも回復には半日かかる。


そんな細切れ状態なのに、ぎろりと残った目が僕らを睨みつけた。

そして一声、圧縮された呪文を叫んだ。

それだけで千切られ無惨な様子になっていた体が元へと復帰した。


――痩せたかなぁ。


そんな様子を見つめながら、我が身を確かめ、ちょっとぼやく。

剣としての知覚と、勇者としての感覚が交差する。


・どう見てもねー。


すぐさまの反撃を回避する。

回復させたばかりの岩盤が砕けて散った。


――まあ、僕の大切な人がワガママだから、必死にダイエットした感じ?

・なるほどー、大変だけどお幸せですな!

――いやあ、それほどでもないよ?

・妬けるね! リア充だね!

――そう言うそっちこそウーツとは?

・え、お、う?

――ウーツの方は本気で好きっぽいけど、それに答えてないよね。

・いや、あの、この場面でそれ言うのはひきょーでね?

――命がけで脅されたこっちとしては聞きたいところ。

「おい、なんかおれに内緒でヒソヒソ話してないか?」


あ、バレた。

僕は刀身を曲げ、勇者は視線をそらした。揃って同じタイミングで。


ペスはものっすごい拗ねた。

だけど、さすがに戦闘中に『僕』を抱きしめる格好で、勇者から距離を取らせるのはどうなんだろう?


あからさまな隙に敵はもちろん攻撃を仕掛ける。

ペスの体を操作し、間一髪でその拳を回避する。

通過ざまにペスが放った魔力弾の群はあんまり効果を発揮しない。

あと、刀身をガジガジ噛まれてもあんまり意味はない。かといって舐められても困る。


そもそも、勇者とは無駄話ばかりしていたわけじゃなかった。

言葉以外の情報のやりとりもしてた。

勇者から見た魔神の様子、あるいは今の僕の視点から見た魔神の様子だ。

それぞれに異なる能力、異なる知覚から対象を見つめた分析だ。


結果、姿と核を別にしていることがわかった。

今の僕らと似ているようでまるで異なる有様。

体と命を別にしている。


体は、あるいは意志はたしかに目の前で顔をゆがめて叫んでいるものが持つ。

だけど、命そのものはその体が出てきたところ、大『空間』の結節点に、いまだに在った。


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