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未誕英雄は生まれていない  作者: 伊野外
試験Ⅰ
119/179

111.順番遵守について

このダンジョンは、蟻の巣構造になっているらしい。

横に広がる迷路があって階段降りて別の階層へ、って感じじゃなくて、縦横無尽に道が作られ、それらを繋ぐように卵型の『空間』がある形だ。


この『空間』――正式にはウドジュナー魔結節とか言うらしいけど、とにかくこの「モンスターを作り出す地点」を占有するのが、僕らに課せられた作業だ。

それぞれの『空間』には、敵となる魔族が居座っている場合もあるし、生成されたモンスターだけしかいない場合もある。どちらにしても、これを奪い返して自分たち側のモンスターを作るのが主な行動。

そうして、少しずつでも範囲を広げ、いつしかこの『ダンジョン』を制覇するのが目標、らしい。


僕らの行動は、大別すれば攻撃か防御か生成か、ってことになる。

攻撃は僕らが直接赴いて『空間』を占拠するか、生成したモンスターを使役して向かわせるか、あるいは合同で赴くか。

防御は直接やってきた魔族と戦うか、生成されたモンスター群を倒すか、その連合か。

どのやり方にも一長一短がある。


攻撃と防御、自動侵攻と直接侵攻、生成の時間と侵攻の時間、これらを組み合わせてより広く、より多くの『空間』を占有する。

問題は、下に潜れば潜るほどに「人間」にはちょっと活動し辛い状況になること、どうしたって侵攻速度は減じてしまう。人間にとって有利な結節点の数を増やしながら、ゆっくりと下へ向かうしかない。


うん、たいへんだ、それこそ何世代もかけて行わなきゃいけない作業なのかもしれない。

僕がやれることは、ちょっとしたばらんすの変化くらいのものなんだろーなー……あはは……


「うああああ!!」


涙が流れる。

ついでに鼻水も。


理由は不明。

本当に付いてなくて、本当に体型が変化していて、本気で性別が正反対になってしまったことが関係しているのかもしれないけれど詳細は不明。

というか、これ以上、このことについて考えたくなかった。

ジツさんやらウーツやらが女性だったことより、僕がそういう変化をしていることがショックだった。


ぬああ、なんでじゃー……

どうしてなんじゃー……

ショックを感じてること自体もなんかショックなんじゃー……


というより、試験なのにどうして体を変化させる必要があるのか、試すものは僕の実力とかそういうのであって、僕の性別とかじゃないはずだよね!?


両手の剣を『掴む』手にも、思わず力が入った。

目の前には多数の『モンスター』がいた。

そう、今は直接侵攻の真っ最中。

魔族たちが生成した生き物たち、まだ『空間』を越えて溢れるほどにはなっていないけど、そこそこの数と質。

レベル10と表記されるスライムに向けて剣を振り下ろす。

『掴み』を併用した攻撃は、敵モンスターの持つ衝撃吸収を突破して、真っ二つに斬り分ける。


「我が神がお望みの悲鳴をどうしてあげないの!」

「突出しすぎだ! 引き返せ!」

「こんな試験なんて嫌いだぁあ!」


影兵たちが地面の隙間からすり抜け、僕の足首を狙って爪を立てる。

キョウの回復魔術にはできるだけかかりたいくない僕は、いち早く敵の頭部を両断する。


卵形の空間は敵モンスターだらけ。扉を押し割って入ってきた僕らに対し、『空間』中央の結節点が赤く照らし、待機状態だったモンスターたちが次々と起き出した。

体全体で丸まった状態から、戦う者としての格好になる。

大半が人型じゃないのは、明確な区別をつけるためなのかもしれない。ぱっと見にモンスターか魔族かわからないのは、向こうであっても困るんだろうし。


命令する人がいないせいか、攻め方には工夫はなくシンプルな力押しだった。

一方のこちらも力押し。

というか、僕が涙ながらに突進してる。


『空間』中央にそびえる、ひょろ長い塔のようにも見える杖。これを切り倒すことが肝要。この結節点を放っておけば新しいモンスターが次々に生成されるし、僕らの力を削いで、敵の力をアップさせる。


「この、この!」


両手に持った武器、片方のサーベルともう片方の折れたツーハンドソードを絶え間なく振る。

『掴み』の伝達こそできないけど、それなりの質量を振り回せば、それは攻撃力になる。

無双しながら、一直線に駆けて行く。


「かぁっこぃいぃ……!」

「からみつくな舐めるなキスするなああ!?」


ただし、一番注意しなきゃいけない『攻撃』は味方からもたらされる。

どうやれば敵のただ中に飛び込んだ僕の背中に張り付くことができたのかは不明。


「ふたりっきりだねぇ、うふぅふふふふぅうぅ……!」

「ジツさんごめんなさい突出しすぎました、今すぐ引き返します!」

「いや、そのままでいてくれ!」


ジツさんと勇者の二人が防御するその背後で、二人の後衛が術を構築している姿が見えた。

偶然ではあるんだけど、僕が敵の主力を引きつけ攻撃圧力を和らげた格好だった。

ただし、その目の必死さは「その難敵をこっちに引き戻さないでくれ……!」って願いも込められているように見えた。


「ああっ、リーダーぁあぁ……!」

「そこのウーツ! いまのはジツさんが僕らの仲を認めて祝福したとかじゃないから! 絶対違うから!」


飛び跳ねる巨大バッタを切り裂き、巨大コウモリの群を片っ端からたたき落とし、角のついたウサギの攻撃を避ける。


「あと、今こんな姿だけど、僕は本当は男だから、性別がちょっと違ってるだけだから!」

「……」

「普段は妄言ばっかり言ってる変態の、沈黙しての同情の視線がこんなにも痛いとか知りたくなかった!」


ものすっごく優しい慈愛に溢れた視線だった。

たぶん僕が「しょうらい、わたし、男の子になるー!」って叫ぶ幼い女の子を見ればこんな目つきになる。


「大丈夫、生やせるからねぇ?」

「そうじゃない、そういうことじゃないから!」


あとなにを生やして、なにに使うつもりなんだ……!


「っ! 『白』が終わる! 注意!」


ジツさんが焦ったように叫んだ。

僕はその意味を理解できずに戸惑う。


侵入時点では敵モンスターたちは起動しただけだった。

部屋中央の迷宮光はすぐに白へと戻った、そのタイミングで僕は攻撃し、突進できたけど。今は赤光になっている。それは――


「え!?」


いままで簡単に真っ二つにできたはずのスライムが、簡単に僕の攻撃を受け止めた。

まったく同じ攻撃をしたはずなのに、明らかに防御力が増している。レベル的には倍加してると思えるくらい。


「!」


僕が攻撃したことなんて気づいてないかのように跳躍してくる。

咄嗟に受け止める。重い……!


「赤い光は敵の時間、あんまりこっちの攻撃は効かないんだよぅう?」


楽しそうにウーツが囁く。

僕と同じように、強力になったモンスターのただ中にいるのに、やたら嬉しそうだ。


焦りが脳を灼く。

調子よく敵モンスターを葬り続けた興奮が、そっくり恐怖にすり替わる。

周囲の雑魚は、そのすべてがボスモンスターに早変わり。


『掴み』による固定化を駆使、上下前後左右からの攻撃を止め続ける。

ただ受け止めるだけじゃなくて、剣を動かして位置を移動させなきゃいけない。

数瞬『掴み』による防御をしたかと思えば、真上からの急降下を避けて、巨大イノシシの突進を受け止める。

本来なら鋼鉄に突進したような有様になるはずなのに、それでダメージを受けたような様子もない。


「ひひひぃ」


どうやら下からの攻撃を防御してくれたらしい、僕の肩に足をかけながら珍妙な体勢でウーツが短剣を地面につきたて金属音を響かせた。

そこそこの時間――僕が突進して無双して味方とはぐれる位置に行けるくらいの間、これは続く。それまで防御一辺倒をつづけるしかない。

というか、これってひょっとしなくても、この世界って――


「ターン制なの!?」


思わず叫んだ。

周囲からは「なに言ってんだ」みたいな表情だけが返った。


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