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未誕英雄は生まれていない  作者: 伊野外
試験Ⅰ
117/179

109.参加条件について

いろいろな疑念というか疑問が浮かんだけど、事態としては変わっていない。

むしろこれからが本当の意味での会話で、交渉なのかもしれなかった。


ジツさんは僕を見つめる。

背丈の差のせいで、僕からは見上げるような格好になる。

妙な色気のある人だな、と今更思う。


「それで、だ」

「はい」

「君は、未誕英雄なんだよね?」

「そうです、ええと、有名なんですか?」

「ああ、もちろん――」


どこか言い辛そうにしている。

ひょっとしなくても、あんまり評判はよろしくないのかもしれない。

どうしてなんだろうと、知り合いを何人か思い浮かべてみた。

……無理もないと思えた。


「どうだろう、俺たちのパーティに入ってはくれないかい?」

「人数多そうですけど、それは問題ないんですか」

「ああ、別に人数制限があるわけじゃない」

「ん?」

「なんだい」

「いえ」


少しひっかかった。


「目的としては、この杖みたいなものを設置、ってことでいいんですかね?」

「当面のところはそうだね、このダンジョンに数多ある空間にある結節点を、残らず人間側のものにする。そうすることで、より深く侵攻することができるからね。だが、俺たちのパーティは同時に最深部発見を目指しているんだ。底が存在するのかどうかすら、まだ誰にもわからない。途中途中にいる支配者に手を焼き、上手く進むことができないのが現状だ、それでも俺たちは、あきらめず目指すつもりだ!」

「ふぅん」

「……興味なさそうだね」

「はい」


冒険心とか、あんまり無い。

このよくわからない『試験』を無事に越えることができればそれに越したことはない。

本気かつ真剣にやっている彼らへの申し訳なさみたいなものはあるけど、それでも結局は「別の物語」であることに変わりはない。


「というかですね」

「なんだい?」

「自分で言うのもなんですけど、僕みたいな得体の知れないのを入れてもいいんですか」

「それは問題ないよ、何人かはこのダンジョンで途中参加したのもいるしね、君はステータス的にも問題はなさそうだ」


未誕英雄・中立のところも関係してるのかなと思いながらも、眉間が自然と寄った。

更なる引っ掛かりがあった。


「……途中参加?」

「む……」

「もともとは、五人以下だったんですか」

「……」

「『勇者』の参加しているパーティなのに?」

「そ、そんなことがあったかもしれないね……」

「目を背けないでくださいよ」

「あんまり痛いところを追求しないでくれないかい?」

「最初の人数は?」


ジツさんは、明らかに「失敗した」という顔をしていた。

嘘がつけない人だった。

僕がじっと見つめ続けると、やがて観念したように指を三本立てた。


初期メンバーが、三人だけ……


「……人造とはいえ、勇者のいるパーティなんですよね」

「ああ、うん」

「途中で脱落して、それしか残っていない、ってわけじゃないんですよね」

「幸いなことに」

「人数制限とか、ないんですよね」

「や、やけにこだわるね?」


もちろん。

だって僕の生存率に関わる。


「ひょっとして、あれですか、勇者のいるパーティとは言っているものの、実態としてはまるで逆で――」

「彼女の実力が高いのは確かなんだ、本当に! ただ、その、境遇ステータスその他が特殊すぎて、いろいろと苦労するというか……」

「――」


じーっと見つめる。見つめ続ける。

だんだんと声は小さくなり、やがては止まった。

大振りな動作も小振りになって、やがては止まる。それ以上は唇も動きそうになかった。

仕方ないからジツさんの、八の字になった眉を見ながら考えてみた。


未誕英雄って存在を知っていた。あんまり評判はよくなさそうだった。

にも関わらず、実力だけで判断し躊躇なくパーティ参加しないかと呼びかけた。


勇者ってものがいるにも関わらず仲間の数が少ないのは、それだけ『勇者』が危険な存在で、なにかとんでもないことをしでかすから?

……そうじゃないと思えた。


実際に勇者と話した感じ、そうだとは思えなかったから、っていうのもあるけど、主な理由は他のパーティメンバーにあった。

明らかに性癖が変そうなウーツとか、明らかに宗教観が変そうなキョウとかが参加している。

勇者自体が危険なら、もうちょっとマトモそうな人になるはずだ。

とんでもないことをしでかす人の横に、とんでもない性格の持ち主を置きたいわけがない。ああいう弾けた人でも受け入れてるってことは、きっと『勇者』の仲間は、性格的にどんな問題があっても構わないってことだ。


で、ステータスが特殊……

国が作り出したものだっていうなら確かなメリットがあるはずで、それはただ単純に「強いから」ってことではないはずだ。


そして、この場で行われていることはダンジョン探索というよりも、陣取り合戦……

欲しいのは強い駒というよりむしろ――


「期待されてる役割って、やっぱり囮?」


それが妥当な気がした。

つまりは、エンカウント率の上昇だ。

特別な運命を背負った特別な存在だからこそ、敵を引きつける運命下にある。

そうして、勇者が敵を引きつけている間、多数のパーティが別方向から侵攻する。


そう、確実な危険が約束されているからこそ、マトモな判断ができるひとは「勇者パーティの一員になる」って栄誉を断った。

誰だって自分の命が一番大事だ。まして、本当の本物じゃなくて人造だ。名誉栄誉も微妙な感じになってくる。


「戦えば戦うほどレベルアップする、それも確かだなんだ。そして参加人数が多ければ多いほど進行速度は早く、安全性も増すんだ! 君にとっても損な話じゃない!」

「ジツさん、壁じゃなくて僕に向かって言ってください」

「こんな妄言、直接顔を見ながら言えるはずないだろう!?」

「ジツさん、正直すぎます……」


勇者は特殊で、特殊すぎて魔族やらモンスターやらから察知されやすいらしい。

考えてみれば僕だってなんとなく歩いたのに、まっすぐこっちに向かってしまった。

知らず知らずのうちに「勇者」に引き寄せられていたのかもしれない。


「だ、だがハイリスクハイリターンであることは確かなんだ、俺たちが苦労した敵を一蹴した君に参加してくれたら、これほど助かる話はない」

「いや、まあ、いいですけど」


たしかに困ったことではあるとは思う。

だけど、委員長以上の不利益があるとも思えない。

いつもより楽なんだから問題ない。


「で、では、一緒に?」

「僕は現在、未誕英雄世界の試験中です。なにが試験内容が何かは、わかっていません。わからないままここへと放り込まれました。それがはっきりするまでは、という条件付きであれば」

「わかった、助かるよ」

「あともう一つ」

「なんだい」

「ぅひひふひうひぃ、一緒に戦えるよおうぅ、おはようからおやすみまでずっとずっとぉおおおぅぉうぅぅ……」

「あのウーツって人をきちんと抑えてくれるなら、問題ありません」

「……考えさせてくれないか」


ジツさんはごくまじめにそう言った。

どうやらエンカウント上昇とかよりもよっぽどの難問らしかった。


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