107.陣営決定について
レベル 12
力:8
速:12
技:20
魔:5
特:120
運:4
参加陣営:人間
特記事項:未誕英雄・中立
そんな感じのステータスが、貰った紙にいつの間にか書かれていた。
いろいろとつっこみどころがありすぎだ。
「特」はたぶん特技とかスキルとかなんだろうと思う、これだけが突出していて、あとは技術がちょっと高め、他は人並みかそれ以下、一応は近接戦闘職のはずなのに、そういう感じのものになっていない。
どれだけ好意的に解釈しても、遊撃とか攪乱役とかそういう感じのステータス。
というか、スキルはどういうものがあるのか表示されていない。職業欄もなければ、HPやMPの類もない。
本気で参考以上の意味が無い。
あ、それと当然だけど名前欄は空欄になっていた。
「で、人間側に参加、か……」
やけにズレるパジャマを直しながら、ちょっと残念と呟いた。
「失礼」
「ん?」
「君は味方、ということでいいのか?」
メガネをかけた、どこか気弱そうな戦士の人が訊いてきた。
「ええと……」
「敵か、味方かを知りたい。こちらは戦ったばかりで消耗している、そちらも多少はそうだと期待する。たとえ敵だったとしても、この場の戦闘は回避したい」
まじめにそう言ってくる。
剣を抜いて詰問して来ないぶん、かなり紳士的な対応だ。
なにせ僕は両手に武器を持って血塗れでパジャマだ。どう考えてもマトモじゃない。
これって意味あるのかなと思いながらも、僕はステータス画面が乗っている紙を見せた。
特に参加陣営のところを指でさす。
とたんにホッとした様子で「おーい! 大丈夫そうだー!」と残りの人を呼んだ。
たぶん、この人がリーダーなんだろうけど、いろいろと苦労してそうだなと勝手に思う。
残りの人達がぞろぞろ来る。
さっきのモンスターとの戦闘は、ぱっと見た感じ互角だろうなと思っていたけど、そこそこ傷を負っていた。
まあ、僕が戦った人たち相手じゃなくて、それ以前に戦った傷が累積してるのかもしれないけど。
「……」
僕はなんとなく、この場でこの人たちを殺せるのかな? と考えてみた。
戦力把握は好意的にやるより、敵対的にやった方が正確だ。
あと、まだ全員を敵に回す道を閉ざしたくはなかった。たかが紙に書いてある程度で僕の道を決定されたくない。まず誰をしとめれば――
やってくる人たち――穏やかに変わらない笑顔を浮かべる神官、やけに小柄でフードを目深にかぶった魔術師、ロボットみたいな動作で歩く戦士を見つめる。
「……え」
考え、想定して、決定しようとして、まったくできないことに気がついた。
いや、というか、「どんな攻撃をしてもまったく無意味」っていう妙な確信があった。
「ダメですよぅ」
耳元でささやかれた。ついでに舐められた。
咄嗟に剣を振る。
確実に殺傷するはずのサーベルの動きは、確かに相手を通過したはずなのに効果を発揮しなかった。
幻を斬ったような手応え。
前髪を垂らした猫背の人が、陰気にくっくっくと笑う。
「殺そうとしたでしょうぅ? 通用しないんですよぉぅ、残念でしょうぉうぉぅ……?」
たぶん、造形だけを見れば美形なんだろうと思うけど、全体のだるだるの雰囲気とか、こっちを見ながらゆぅっくりと舌なめずりする様子とか、五十度くらいに傾けられた顔とか、やけに濃い目の下のクマが台無しにしてた。
「ウーツ、おまえはまた!」
「うひひ……」
直立した蜘蛛みたいな動きで後退した。かなり気色悪い。
僕は手元の、今の感触を確かめる。
斬ったはずなのに斬っていない。
それが世界の法則だっていうように、味方陣営への攻撃を行えない。
僕の『掴み』を使っても、どうやってこれを越えればいいのかわからない。
というか、仮にも仲間を攻撃されたのに、目の前のメガネの人も、それ以外の人たちも慌てていない。最初からそれが通用しないとわかっていたみたいに。
いや、実際わかっていたんだと思う。『同陣営なら攻撃は通用しないはずだ』って。
……全方位を敵にする道は、完全に閉ざされていた。
「あー……」
僕の肩は、自然とがっくり落ちた。
絶望のせいか、声がやけにか細く弱々しく聞こえた。
+ + +
「助けてくれてありがとう、俺はこのパーティのリーダーで、ジツという名だ」
「いえ、たまたま巻き込まれての、成り行きってだけです」
「そうかい?」
「攻撃されたから攻撃し返しただけです、あなた方を救いたくて救ったわけじゃありません」
「それは、俺たちが感謝しなくていい理由にはならないな?」
「そうなりますかね」
「そうともさ」
僕の戦い方を見ていただろうに、男らしく笑い、ためらいなく握手をしたこの人は、間違いなくいい人で、礼儀と度胸のある人だった。
ちょっと気に入ってしまった。困った。
横では、場違いなくらい綺麗な法衣に身を包んだ人が、礼儀に適ったらしき挨拶の動作をした。
「私はキョウというの」
女性はにっこりと、とても嬉しそうに笑ってた。
「先ほどの戦いは見事だったのね?」
「あ、ありがとうございます」
「特に絶叫がとても良かったの。身も心もおぞましい奴らが上げる断末魔はいつ聞いても心が癒されるの。我が神もきっと耳を傾けてた……」
「……」
僕は無言で距離を取った。
後ろから、つんつんとつつかれた。
「――」
「え?」
「――」
「あ、うん、よろしく……」
「――」
やけに小声の、フードを目深にかぶった小柄な人から、どうやら挨拶された、らしい。
名前すらよく聞き取れなかったけど。
もう少しちゃんと聞かなければと接近する僕の胸元あたりを、細い手がするりと入り込んだ。
背後から抱きしめらている格好。
やけに慣れた動作で進入される。
「血まみれだねぇ、脱ごうね、そうしようぅ……」
肌を滑って接近する手は、僕の乳首あたりを目指してる。
「ああ!? い、いまの攻撃じゃないよぅおぅぉぅ、ああ迷宮神さまぁ……」
「思うだけで「攻撃通過」の状態になったってことは、なにかダメージに繋がる行動だと判断されたってたってことだよね……」
わきわき指を動かす動きは、ためしに僕が「味方が味方を攻撃しようとしてる」と思うだけで透過した。
「脱ごうよぅ、そうしようよぅ、怖くないよぅ?」
「ジツさん、この人鬱陶しい」
「我慢してくれ、みんな一度は被害に会っている」
小声フードの人が面倒そうにウーツを僕から引きずり離してくれた。すごく助かった。
ちなみに僕の自己紹介は、ステータス書かれた紙を見せることで代用。
どうやら『未誕英雄』は、ある程度は知られているらしく、それだけで納得してくれた。
「それで――」
最後の一人。
無言のまま、突っ立ったまま、身動き一つしない人に目線を送る。
いろいろと変な人が多いパーティだけど、この人が極めつきに変だと思えた。
「ああ、彼女については――そうか、知らないか……」
「はい」
「簡単に言ってしまうとね、彼女は勇者だ」
「……はい?」
「人工的に創造された種族:勇者が、彼女なんだよ」
「……へ?」
どこか自慢げにジツさんは言う。
呆然とする僕の前に彼女が来た。
直線的な動作、左右同じ手足が出ている。
動作からは実力の高さがわかるのに、どこか非人間的。間違いなく生身の人間のはずなのに、人間じゃない――
僕のすぐ前で停止。
ぴ、ぴ、ぴ――
と電子的な音をさせ。
「→はい、私は勇者です、よろしく」
僕じゃなくてちょっとズレた方向を見つめながら、言葉を発した。
……その矢印なに?
とは初対面ではちょっと訊けなかった。




