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未誕英雄は生まれていない  作者: 伊野外
訓練
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8.順調な探索について

いくらか回復薬を使用して休憩。集団で襲ってきた魔狼をペスが吹き飛ばしたりしたけど、なんとか事態を立て直すことには成功した。


ヤマシタさんは委員長をぱすぱすと叩き、叩かれた委員長は照れた笑いを浮かべてた。

説教というか無謀なことは止めてくれという要請だったはずだけど、逆効果にしかなっていない。


「というか、僕らまだ探索すらちゃんとやってないんだよね」

「それは言わぬが花であろう……」


精神的な疲れは、もうかなりたまっているけど。



 + + +



いかに見知らぬ場所を探索するか、ってことに答えはない。

一歩一歩、地道に探索するのが模範解答だと思う。だけど、敵が多くいる場所だとその模範解答は最悪ってことにもなる。のんびり地道にできるのは、脅かすものがない環境に限られる。

いかに急ぎ、いかに着実に行くか、そのバランスは常に僕らを悩ませる。


ごつごつとした洞窟内、魔力の光がほのかに照らす様子。そこを前情報なしで探索する。進むのにかなりの緊張感を伴うし、暗闇に潜む敵は僕らに緊張を強いる。


そう、だから、この点に関して言えば僕らはすごくラッキーだったのかもしれない。


分かれ道があれば、委員長が「こちらの道に違いありません」と率先して行こうとするのを止め、別の道へと向かう。ほぼ百パーセントの確率で正解を引き当てた。

委員長が手を滑らせるなど、ヤマシタさんを撫でられなくる状態になったら全力で周囲を警戒する。取り返そうとする動きを押し留めて待つと、敵の奇襲があった。

罠がある地点では、委員長が目に見えてご機嫌になるので解除する。


索敵や罠発見、正解ルートの把握などが委員長一人で可能。

結果、ヤマシタさんは委員長に抱き抱えられながら、その表情を観察することが役割になった。


「拙者、不本意である……」

「ふふっ、今のヤマシタさんは、私に撫でられることが役割なんです」

「そのような義務、拙者には課せられてはおらぬはずだった……」


言いながらヤマシタさんは地面へ降りて観察する。

委員長が目に見えてご機嫌になったからだった。

魔力が変異を起こして、すぐ先に落とし穴を作成していた。

躊躇なくそこへと足を踏み出そうとする委員長の襟首を掴まえながら、迂回路を通った。


戦闘の方は、ほとんど僕一人が行うことになった。

ペスは膨大な魔力量があるけど、それでも有限だ。そう簡単に回復できるものでもない。

できるだけ温存しておく必要があった。

委員長は論外というか、たぶん味方のダメージが増えるだけだし、ヤマシタさんも体力と防御力が心許ない。


まずは僕がひと当てして、それで倒せないようであれば皆が参加、という流れだった。


「でも、あんまり斬り応えがない……」


だいたい一撃で決着がついた。

今も向かってきた魔狼の首を切断したところだ。

実戦での戦闘は初めてのはずなんだけど、まったく躊躇せずにそれを行えた。


人の形をしたのが相手じゃないからかな、と思ったけど、物足りなさを感じているから違うのかもしれない。


ここは、主に魔物化した狼が生息してた。

本来であれば群で狩りをする動物のはずなのに、こんな洞窟で、しかもほとんどの場合単独で襲いかかってくるのはどうしてなんだろうかと思う。しかも、ご丁寧に一匹ずつの登場だ。


「斬り応え? なに贅沢言ってんだこら」

「贅沢、かな」

「ちっとは油断しろよ、苦戦しろよ、おれを戦闘に参加させろよ」

「いや、さすがにそれは――」

「こっちはおまえが戦ってんの黙って見てるしかないんだぞ。てーか、どうしていちいち歩いて行かなきゃいけないんだよ。ひとっ飛びして適当に破壊して、親玉でもなんでもぶっ殺して回るんでいいだろうが」

「今のこのチームでそれしたら、たぶん、この洞窟崩れる」

「えへ」

「うむ、間違いない」

「くそっ、もうちょっと歯ごたえのある敵とか出てこい……!」


僕らのチームは今、状態:不運みたいなものなんだから、そういう風に強く望むと逆のことになるんじゃないかな、とは言わないでおく。

代案があるわけじゃないし、ストレスためるだけになるし。


敵を倒した後は、短剣を使って解剖する。

だいたい心臓付近に魔力をため込む器官――魔石と呼ばれるものがあるからだった。これは金銭と引き替えにできる。

お金があればいい武器が買える。たいていの場合は数打ちの品だ。職人たちはよっぽど気に入った人相手じゃないと専用武器は作ってくれない。


どういうわけか、未誕英雄のときに使わなかった武器は、生まれてから後に手に馴染まないどころか『持つことができない』って感じの現象が発生するらしい。英雄となることの、呪いのようなものだって言われてるけど、詳しいことは不明。


まあ、だから、僕らにはお金が必要で、解体作業も僕がやる必要があった。

ペスは骨で力がない。魔力を使えば可能だろうけど、これで消費したら本末転倒。

委員長は論外。むしろお金が減る。

ヤマシタさんはできなくはないけど、索敵範囲の広さを考えたら警戒してもらった方がいい。


だから、僕だけが血塗れの油脂まみれ。

剣を持つ手もぬちゃりとしてた。


「せめて、解体用のグローブとか買っておくべきだったかなぁ……」


かなり情けない感触だ。


「自動的に分解してくれりゃいいのにな」

「そういうところもあるらしいよ」

「まじか」

「本気で」

「なんか……それって怖いな。モンスターが生き物扱いされてないだろ」

「そうだね、ただ倒される対象にしかなってないんじゃないかな」

「うっわ、なんだそれムカつく」

「でも、そういうシステムを、今の僕は切実に欲しい……」

「オイ、ぬちゃぬちゃした手でおれにさわるなよ!」

「ふふふふ、きれいな骨って汚したくなるよね……」

「おまえ性格変わってねえか!?」


殺しては解体って、人の心を荒ませる。



 + + +



とはいえ、なんだかんだ言って順調だった。

どれだけの広さがあるのかわからないけど、かなり探索した。

このぶんで行けば、あと数時間くらいで完成って感じだった。

まあ、実際の広さがどれだけかわからないし、地下階があるかもしれないから、ただの直感だけど。


「なんつーか、これなら普段の訓練の方が楽だったよなー」

「うん、そうかも」

「私はあまり戦闘訓練には参加しないのですが、そうなのですか?」

「……うん、たまにね、なんかいつの間にか訓練のレベルがもの凄く上がってることがある感じで……」

「おぬし等はおぬし等で、やはり苦労をしているのか」


あんまり気を張りつめすぎてもよくない。

僕らは委員長に注目しながら、そこそこ気楽に進んでいた。

それでもなんとかなってしまうのは、これでいいんだろうかって感じだけど。


「ヤマシタさんは探索系だっけ?」

「うむ、性に合っている。実にやりがいがある。しかしながら、なぜ厚紙を被り隠れなければならぬのか、それが不明だ」

「ダンボールは神器だから」

「む?」

「なんでもない」


どういう意味なのか僕自身もよくわからない。


「私はこの銃にこの能力ですから、ヤマシタさんと同じく探索・暗殺方面の訓練をしているのですが、どうもしっくり来ないんですよね」

「そりゃそーだろ」

「隠れていても発見されますし、銃を撃つと必ず作動不良を起こしますし、ヤマシタさんがかっこいいんです」

「最後のはなんだよ?」

「なにゆえか、拙者は委員長殿の不運を拭う役割を担うことが多い。たとえどれだけ離れた場所であり、異なる訓練をしていても、ふと気づけばそのような始末となっている。世の不条理とはこのようなものかと毎度味わっている……」

「きっと運命ですね」

「委員長殿、その言葉はまるで冗句にならぬ」

「仲がいいんだね」

「ええ、運命共同体です!」


嘘を言うなっ! となぜかツッコみたくなるけど耐える。


「じゃあよ、委員長、そっち方面じゃなくて別のじゃないのか?」

「銃を持ち、不運を引き寄せる、そうしたことを発揮できる方面はどこなのでしょうか……」

「ぱっと考えると、たしかに暗殺者な感じだよね」

「実際のところ、委員長殿にはまるで向いていないが」

「だなー」

「難しいね」

「委員長殿は、魔術方面が合っているのではないかと拙者は考えているのだが、これは違うのだろうか?」

「無理だろ、少なくともおれのやってるような訓練じゃダメだ。魔力使わない魔術師が覚えることってないぞ」

「まとめ役も、近いようで遠いのかな」

「不運の怖さを知るはその恐ろしさを知るものだけであり、つまるところ強者であろう。玉石混淆にこれを行うのは――」

「ヤマシタさん!」


委員長の顔には、「怒っています」と書いてあった。


「む、どうしたのだろうか」

「そんなに私と別れたいのですか」

「いや、そのようなことは……」

「私をどこか余所へ飛ばして野良猫に戻るつもりですか!」

「拙者は委員長殿の飼い猫と成ったおぼえはないが!?」

「じゃあ、私がヤマシタさんのペットですね!」

「そのような事実もまたない!」

「そうして首輪つけているのですから、もう決定事項ではありませんか!」

「予想外に役立つが故に身につけているが、他意はない!」


ヤマシタさんのその鈴の音、それを耳で拾うことで、周囲の状況をたしかめることができた。


「そんな、私の気持ちがこもったプレゼントなのに――」

「委員長殿が込めたそれは、呪いではないのだろうか……」

「おれが見たところその装備、もう外れないだろ」

「ええ、気持ちをたくさん込めましたから!」


自信満々のどや顔だった。


「委員長殿の中で、呪いと気持ちは等号であるのか……」

「ええ、そうですよ?」

「なるほど」

「ねえ、ペス、今の委員長の言葉、どこに同意したの?」


返事はなかった。


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