悲恋伽
こんな気持ちになるくらいなら、恋などしなければよかった。
「由奈、帰ろう」
にっこりと笑いかけてくる亜美。私の親友。
隠し事など一生しないって思っていたけど、今は……
「ん、でも俊くんいるでしょ、遠慮しておくよ」
「もー、由奈ったら……」
恥ずかしそうに俯く姿は、女の私から見ても可愛くて。
俊くんが好きになるのもわかるの。
わかるんだよ、わかってるんだよ、だけど……
私だって、俊くんが好きなのに。
ねぇ、私ではダメですか。
ずっとずっと、貴方を思っていました。
はじめて声をかけてくれたのは、席替えで隣になった時でしたね。
数学が苦手な私に教えてくれた優しさや、少し子供っぽい所や、貴方の全部が好きです。
そう心で問いかけても、答えなんて返って来る訳ないのに、繰り返し自問してしまうの。
どうして亜美なのかな、私じゃないのかな。
ずっとずっと、そう考えてた。
貴方から告白したの?
亜美から?
どっちにしても現実は変わらない。
貴方の隣にいるのは、亜美なの。
私じゃ、ないの……
そして神様、どれほど私を苦しめれば気がすむのですか。
「由奈ちゃん、今日ちょっと時間ある?」
そう言って、俊くんが私に声をかけてきた。
彼を好きな気持ちは強まるばかりで、だから私は頷いた。
放課後、ファミレスで俊くんと向かいあって座る。
大きい手とか、少しハの字な眉とか、笑うと左側にだけ出来るエクボとか、全部全部好き。
「ちょっと、デートみたいだね」
そう言って貴方が照れるから、私の胸がキュンと切なくなる。
本当のデートならいいのに。このまま、私と……
「それで、話があるんだ。亜美の事なんだけど……」
……ああ、なんて残酷なんだろう。
このささやかな一時ですら、神様、この人の気持ちを私に向ける事は出来ないのですか。
今貴方と一緒にいるのは、私です。貴方を見てるのは、話をしてるのは。
それなのに微塵も私の事を考えてはくれないのですか。
好きです。貴方が好きです。亜美じゃなく、私を見て欲しいの。
今だけでも、ねぇ、ダメですか。
泣きそうに笑いながら、私はただ貴方の声を聞いていた。
諦めようとしたところで好きな気持ちは消えてくれない。
憎しみに変わる前に、誰かどうか救い出して。
わかってるの、知ってるの、でも。
私は……貴方が好きです。
二年くらい前に別サイトで公開していた小説です。
恋は一人じゃ出来ないけど、同じ気持ちじゃなければ叶わない。
きっと幸福な恋人たちの影には、こんな想いで泣きそうな人もいるだろうな、という思いから書いてみました。
けっこう切ないのを書くのも好きです。
でも出来ればハッピーエンドがいいです。いつでも。