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篠は見た目こそ険のある雰囲気を醸し出しているのだが、話してしまえばとても気さくで親しみやすい男だった。特に女性陣は篠に対してかなり好意を抱いているように見えた。
休憩時間が終わり、智也と柴田は受付のある緑の部屋へと戻ったが、黒川と篠、そして長谷はそのまま話を続けているようだった。
「篠さんは、よくいらっしゃるんですか? 黒川さんのご親戚かなにかで?」
午後一番の予約患者がまだ来院しないので、柴田に話しかけてみた。
「そっか、青山君は初めてだものね。親戚ではないみたいなんだけど、親戚みたいなものだって言ってたことがあるわ。黒川先生っていつも笑顔で、誰にでも優しくて親切で、喜怒哀楽の怒と哀を見せたことがないと思わない?」
「……言われてみれば、そんな気がします」
「でしょ。でも篠さんにだけは、そういうところも見せてるみたいだから、きっととても信頼しているんだと思う。来るときは本当によく来るけど、来ないときは本当に来ないの。気まぐれさんみたい」
「そうなんですね」
「ここだけの話だけどね、長谷さん、篠さんのことが好きみたいなの」
「えっ」
「しーーっ」
柴田が慌てて人差し指を唇のまえに立てた。
「長谷さん美人だけど、独身で42歳じゃない? 篠さんも確か同い年くらいだし、あの二人がうまくいけばいいなって思ってるの。ただ、私がここに入って3年くらいなんだけど、未だ進展がないのよねぇ……あ、患者さんだわ。 こんにちは~」
「こんにちは」
もえぎクリニックのドアを開けて入ってきたのは中学生らしき男の子だった。
「2時半からご予約の矢野さんですね。診察券をお願します」
柴田がいつものように手際よく受付業務をすすめる中で、智也は言葉を発することも身動きをとることもできずにいた。
何故なら、その患者が絶望を表す黒に覆われていたから。