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自室に戻って、もえぎクリニックへ電話をかけた。本当は黒川にメールでもして、求人募集について聞きたいところなのだが、変に律義で真面目な性格上、抜け駆けのような気がしてできなかった。
ワンコールしただけで、応答があった。
「もえぎクリニックでございます」
「あ、えっと」
女性の声だったので、驚いてしまった。考えてみれば、黒川は診察中なのだろうし、受付の女性が出るに決まっているのに、うっかりしていた。なんて切り出そうか、あたふたしてしまったのだが、急かすようなことは言われない。
「大丈夫ですよ。今日は、ご予約のお電話でしょうか?」
ゆっくり、柔らかい声で尋ねられた。
「いえ、あの、求人募集の記事を拝見しまして。それで……」
「その件でございますね。ただいま院長へおつなぎいたしますので、少々お待ちくださいませ」
「はい」
うわ、どうしよう。院長につなぐだって。ということは、黒川につながるということだ。ドキドキと、うるさい鼓動を感じながら、応答を待つ。
「お待たせいたしました。院長の黒川と申します。受付スタッフのご応募のお電話、ありがとうございます」
妙にかしこまった感じで黒川の声が聞こえた。
「あ、黒川さん。僕です。青山智也です」
「智也? あれ、おかしいな。今、違う用件で電話が回ってきたはずなんだが……」
「あってます。あの、僕が求人募集の記事を見て、それで電話しました」
「なんだって?」
「受付スタッフ募集って出ていたんですけど、あれは僕も面接を受けることはできるでしょうか?」
「え? だって、智也は保育園で働いてるって言ってなかったか?」
「はい、そうなんですけど」
これまでに黒川には、保育園で働いているという話はしたものの、朝夕の補助員であることや昼間は家にいることまで説明していなかった。いいきっかけになったので、一通り現状を伝えた。
「なるほど。じゃあ、保育園の仕事をしながら、かけもちでうちの受付の仕事をと考えているわけなのか」
「はい。ただ、時間的に前後ともギリギリなので、そこはご相談できればと思うのですが」
「今日も、17時から保育園なんだな?」
「はい」
「十分時間はあるな。今からこっちに来られるか?」
「え? はい、大丈夫ですが、面接してもらえるんですか?」
「面接は今までに十分しただろ。うちのスタッフに紹介する。採用決定だ」
「ええ!?」