18
夜10時を過ぎて祖母が風呂へ向かったタイミングで、黒川も帰ることになった。智也は外まで見送りに出た。
「黒川さん、今日はありがとうございました」
「こちらこそ。一緒にでかけられて楽しかったし、夕飯も美味しかったよ。ありがとう。ほら、冷えるし、もういいから」
確かに夜になって気温が下がり、肌寒さは増しているのだけど、帰ろうとしている黒川を見ていると離れがたい気持ちになるのだ。
「見送りたいからいいんです」
「帰って欲しくないって色が出てる」
「そんな色ありません!!」
「ちぇ、バレたか。……智也、ちょっとだけ車に乗って」
「? なんでですか?」
「いいから、おいで」
黒川が後部座席のドアを開けたので、促されるまま乗り込む。智也のあとに黒川も乗り込んでドアを閉めると、人通りがないことを確認してから、そっと抱きしめられた。耳元に声が落ちてくる。
「また会ってくれるか?」
コクンと頷いて答える。それを受けて、黒川の抱擁がきつくなる。
「このまま連れて帰りたい」
「……」
無言のまましばらくそうしていたが、やがて黒川の身体が離れた。一呼吸置く前に、ついばむように口づけられる。
「怒らないんだな」
「え?」
「キスしても怒らなかった。嫌じゃないってことだろ?」
「!! 違っ」
「なんだよ、嫌だったのか?」
「嫌じゃ、ないけど……もう、黒川さん、ずるい」
恥ずかしさでうつむいて黒川のパーカーの裾を掴むと、「そういうところが好きだ」と言って、もう一度軽いキスをした。
黒川の車を見えなくなるまで見送ってから、家に入る。祖母と入れ替わりでお風呂に入り、湯船に浸かりながら今日の出来事を思い返してみる。
とても満たされた気分で、心地が良い。触れ合う唇の感触を思い出すと、また胸の奥がチリチリとした感じになった。次はいつ会えるのかと思うと、待ち遠しいような切ない気持ちになった。
その夜は、黒川のことを考えながら、深い眠りについた。