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楽しい時間というのは、どうしてこんなにあっという間に過ぎ去ってしまうのだろう。本当に同じリズムで時は刻まれているのだろうかと、疑いたくなってしまう。
帰りにもう一度アウトレットに寄って、祖母への土産などを買った。牛蒡のたまり醤油漬けや、手作り芋蒟蒻を買っていたら、「渋すぎる」と黒川に言われた。そんな黒川は洋菓子系の土産をいくつか買っていた。いったい誰に渡すのだろうか。
帰りは高速道路で渋滞をしている箇所がいくつかあった。徐行運転になるたびに、黒川の左手が伸びてきて智也の右手を包んだ。黒川は自身の色を消しているので、沈黙されると本当に静かな空間になる。朝のうちは、その色の見えない沈黙が怖かったのに、今は穏やかで心地よいとすら感じている。
「智也」
突然、沈黙をやぶって黒川が呼んだ。
「はい?」
「何度もしつこいかもしれないけど、俺は本気だから。認めたくないけど、智也には付き合ってる奴がいるから今は待つ」
「黒川さん……」
「考えてくれる余地はあると思っていいか?」
「……はい」
ジュンとの関係をはっきりさせるというのは、今まで避けてきたことだったが、黒川の言葉を受けて、いよいよ白黒つけなければと思った。
夜8時近くになってようやく智也の自宅へ到着した。途中で祖母に電話をしたときに、黒川の分も含めてすでに夕食の準備をしているとのことだったので、家路を急いだのだ。
「おばあちゃん、ただいま! 夕飯遅くなっちゃってごめんね」
「ただいま戻りました。途中、渋滞で遅くなってしまって申し訳ありません」
「おかえり。二人して帰宅するなり謝る必要なんてないよ。早く手を洗ってらっしゃいな」
笑顔で出迎えてくれた祖母に一言ずつ詫びてから、手洗いうがいをして食卓につく。
この家で祖母以外と食卓を囲むのは、とても久しぶりだった。その昔、両親の離婚で母方の実家であるこの家に来てから、しばらくは母も一緒に暮らしていたのだと、ふと思い出した。
紅葉がきれいだった話を祖母に聞かせながら、みんなですき焼きをつつく。智也の買ってきた牛蒡の漬物もさっそく並んでいる。
食後には、黒川が祖母へ買ったというチーズケーキも登場した。「ケーキなんて食べるの、久しぶりだねえ」と、祖母も喜んだ。こういう気配りができるところが、黒川の良さなのだ。