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智也は運転免許を持っていないので、ドライブというのも珍しい経験のひとつだった。寒いので窓は閉めいるが、目の前の道路と、流れてゆく横の風景とのバランスが面白かった。
なにより、誰かの視線や色に邪魔されることなく、黒川との時間をもてることが心地よかった。
浅間山に近づくにつれて、景色はどんどん寂しいものになる。標高が高いのか、紅葉も見頃は終わった感じで枯れ木が目立ちはじめていた。しばらくして、車は浅間山麓の浅間牧場に止まった。たくさんの牛が放牧されていて、のどかな風景である。
「ほら、しぼりたて牛乳とかソフトクリームって旗がひらめいてる」
「本当だ。さっきお昼御馳走になっちゃったから、僕が奢りますね!」
「おい、走らなくてもいいってば」
黒川は何でも気が利いて先回りしてしまうので、昼食代も知らぬうちに支払っていたのだ。高速代やガソリン代はあとで割り勘にしてもらうとしても、奢られっぱなしというのも申し訳ない。
「はい、黒川さん。美味しそうですよ」
「ありがとう。いただきます」
ソフトクリームを2つ買い、牧場内を歩きながら食べる。
「すっごい濃厚ですね。ミルクーって感じがすごくします!」
「ミルクーって感じ、ね」
くっくと笑いながら、黒川が目を細める。別に変なことは言っていないはずなのに、黒川はよく智也の言動を可笑しそうに見ているのだ。
「あ、黒川さん、食べるの早いですね」
まだコーンよりソフトクリームがだいぶ飛び出た状態の智也に比べて、黒川はコーン部分しか見えず、今まさにコーンを齧ろうかという状態である。
「智也は遅いな。そんなペロペロ舐めてたんじゃ減らないだろう」
「味わってるからいいんです! 黒川さんは、ベロリのバクッだから一気に減るんですよ!」
「ベロリのバクッ……うん、得意かもな。まあ、智也のペロペロもいいけど」
「……いったい何の話ですか?」
「わかってるくせに」
ツン、と人差し指で頬をつつかれる。その指先からピンクが流れ込んできて、智也のほうが真っ赤になったのは言うまでもない。