第二章 聖女と創造主4
第四話 最初の衝突
世界が、軋んだ。
それは地震でも嵐でもない。
**“世界そのものが、二つの意思に引き裂かれる音”**だった。
* * *
王都ルーゼリア上空。
夜空を切り裂くように、金色の光柱と漆黒の裂け目が同時に出現する。
金色の中心に立つのは――聖女リリア。
黒の中心に立つのは――魔王レオン。
互いの姿は、はっきりと見えていた。
距離は数キロ。
だが、意識はすでに真正面から衝突している。
「……久しぶりね、レオン」
風に乗って、リリアの声が届く。
怒りではない。憎しみでもない。
ただ、痛みを抱えた“覚悟”の声だった。
「世界を、これ以上弄らないで。
あなたの力は……強すぎる」
レオンは、静かに笑った。
「それは違う、リリア。
世界が弱すぎるんだ」
彼はリモコンを掲げる。
「裏切られ、捨てられ、踏み潰される弱者を守るには――
“管理”するしかない」
「それは支配よ!」
リリアも、神のリモコンを構える。
「人は失敗しながら学ぶ。
恐怖も、痛みも……生きる一部なの!」
次の瞬間。
二つのリモコンが、同時に起動した。
* * *
【WORLD EDIT MODE:局地戦闘】
【G-01 修復・干渉展開】
空間が“割れた”。
王都上空に、半径数百メートルの隔離領域が展開される。
一般人は強制的に領域外へと転送され、
そこは“神と魔王だけが存在できる戦場”となった。
「……結界?」
「違う。
世界保護機構の自動判断だ」
レオンが答える。
「俺たちが本気でやり合えば、
下の街は一瞬で消える」
リリアは歯を噛みしめた。
「……そんな力を持ってしまったこと自体が、間違いよ」
「だったら証明してみろ」
レオンは、リモコンのボタンを一つ押した。
【概念編集:準備段階】
試験項目――
【距離】
――次の瞬間。
リリアの視界から、レオンが“消えた”。
「!?」
背後。
気配すらなく、レオンが立っていた。
「距離の定義を、少し弄った。
“遠い”という概念を、この領域から削除しただけだ」
「……そんな……」
リリアは即座にリモコンを操作する。
【修復対象:概念干渉】
距離定義――再構築
空間が震え、二人の距離が強制的に引き離される。
ぶつかり合う光と闇。
修復と編集。
抑制と支配。
「っ……!」
リリアの額に汗が滲む。
彼女は“治す”力しか持たない。
対してレオンは、“書き換える”力を持っている。
(……このままじゃ……押し切られる……!)
だが、彼女は退かなかった。
「レオン……!
あなた、まだ怒ってるだけでしょう!?」
その言葉に、レオンの手が一瞬止まる。
「……怒り?」
彼の脳裏に、過去がよぎる。
笑い合った日々。
信じていた仲間。
追放の日。
「違う」
低く、冷たい声。
「これは――答え合わせだ」
彼は、最後の警告をリリアに向けて告げる。
「次は“本気”で行く。
聖女でも……止められない」
リリアは、静かに頷いた。
「……ええ。
だからこそ――私は、逃げない」
二人のリモコンが、再び光を放つ。
世界安定度:急降下。
神と魔王の戦争が、正式に始まった瞬間だった。




