第二章 聖女と創造主3
第三話 聖女覚醒
王都ルーゼリア、大聖堂。
黒い月に覆われた空の下、かつて人々の祈りが集っていたこの場所は、今や静寂に沈んでいた。
祭壇の中央で、リリア・フィンレイは膝をついていた。
その両手には、淡い金色に輝く“神のリモコン”。
「……世界が、悲鳴をあげてる」
彼女には分かっていた。
空気の歪み、時間の揺らぎ、人々の恐怖。
それらすべてが、“編集された結果”だということを。
――レオン。
胸の奥が、きしむように痛む。
あの優しかった少年が、世界を書き換える存在になってしまった現実。
けれど、彼女は目を逸らさなかった。
「……私は、神になりたいわけじゃない」
リモコンを見つめ、静かに言葉を紡ぐ。
「ただ……壊されたものを、元に戻したいだけ」
その瞬間、リモコンが淡く振動した。
画面に、柔らかな光の文字が浮かび上がる。
【G-01 起動条件確認】
使用者の意志:
・支配 → 不可
・破壊 → 不可
・修復 → 適合
――聖女権限、承認。
大聖堂全体に、光が満ちた。
* * *
同時刻、王都の外れ。
魔王の実験によって恐怖に蝕まれた人々が、路地裏で震えていた。
「助けて……誰か……」
「もう……心が……」
恐怖耐性を奪われた人間は、生きているだけで苦痛を感じる。
それは“殺さない拷問”だった。
だが――。
鐘の音が、ひとつ鳴った。
次の瞬間、夜空から金色の光が降り注ぐ。
闇を裂くように、まっすぐ、優しく。
「……あ、あったかい……?」
恐怖が、薄れていく。
心を締めつけていた何かが、ほどけていく。
* * *
大聖堂で、リリアは立ち上がっていた。
背中には、光で形作られた六枚の翼。
「……これが、聖女覚醒……」
リモコンの画面が切り替わる。
【修復モード:発動】
対象:王都ルーゼリア
修復内容:
・精神汚染 → 除去
・恐怖耐性 → 原状回復
・世界安定度 → 微回復
――ピッ。
王都全体を包んでいた重苦しい気配が、音もなく消えた。
人々は気づかぬうちに涙を流し、空を見上げる。
「……神様……?」
「違う……聖女様だ……!」
だが、リリアはその声に振り向かなかった。
彼女の視線は、もっと遠く――魔王城の方向を見据えている。
「……レオン。あなたは、世界を管理しようとしている。
でも私は……世界が、自分で生きる力を信じたい」
その瞬間、彼女の意識に“干渉”が走った。
* * *
――魔王城。
「……ほう」
玉座に座るレオン=リモナークは、リモコンの警告表示を見ていた。
【修復権限 発動検知】
対抗権限:G-01
世界安定度:回復傾向
「……やったな、リリア」
怒りはなかった。
むしろ、その表情は、どこか誇らしげだった。
「やっぱり、お前は光だ。
俺が闇に堕ちても……世界は、まだ終わっちゃいない」
だが、次の瞬間――
彼は静かに立ち上がる。
「だからこそ、潰す価値がある」
リモコンの画面が、赤黒く染まった。
【WORLD EDIT MODE:段階解放】
次フェーズ:
――概念編集(ロック解除準備中)
「次は、覚悟しろ。
これはもう、復讐でも実験でもない」
紅い瞳が、世界を睨む。
「――神と魔王の戦争だ」




