第二章 聖女と創造主2
第二話 魔王の実験
――魔王城〈デモニア・パレス〉最上階。
玉座の間は、静寂に満ちていた。
レオン=リモナークは、宙に浮かぶ無数の光のパネルを前に立っている。
それらはすべて、“世界”を構成する情報だった。
大地、海、空。
生物の進化。
文明の発展。
戦争と平和の履歴。
「……これが、世界の“コード”か」
リモコンの液晶が自動でスクロールする。
【WORLD EDIT MODE:限定起動】
編集可能項目:
・自然現象
・生物特性(下位存在)
・局地的時間軸
※歴史改変:ロック中
「制限付き、か……まだ“完全な管理者”じゃないってわけだな」
『陛下、これ以上の干渉は世界の安定度を著しく低下させます』
ロイヤルデーモンが、珍しく慎重な声で告げる。
「問題ない。
実験だ――壊れるなら、直せばいい」
レオンはリモコンを操作し、ひとつの項目を選択した。
【自然現象 → 天候】
対象エリア:北方大陸一帯
編集内容:降雪 → 停止
――ピッ。
その瞬間。
北方大陸を覆っていた吹雪が、完全に消えた。
* * *
同時刻、北方の街〈フレアス〉。
人々は空を見上げ、呆然としていた。
「……雪が、止んだ?」
「いや……違う。雲が……消えてる……!」
ついさっきまで、命を削る寒波が吹き荒れていた場所。
それが一転、春のような陽気に包まれる。
「神の奇跡だ……!」
「違う……これは……もっと、恐ろしい……」
誰かが、そう呟いた。
* * *
「……成功だな」
魔王城で、レオンは淡々と結果を確認していた。
気候データ、気圧、魔力循環――すべてが“正常”と表示されている。
「天候程度なら、世界は耐えられる。
次は……」
彼は、別の項目に指を伸ばす。
【生物特性編集】
対象:人間種
試験項目:恐怖耐性
『陛下……それは……』
「安心しろ。全体じゃない。
――対象を、ひとりに絞る」
映像が切り替わり、一人の男が映し出された。
――カイン・レドフォード。
王国騎士団長。
かつて、レオンを裏切った男。
「……実験体としては、申し分ない」
リモコンのボタンが押される。
【恐怖耐性:0】
適用開始
――ピッ。
* * *
王都ルーゼリア、騎士団本部。
「……?」
カインは、突然、息苦しさを覚えた。
理由は分からない。
だが――胸の奥から、説明のつかない“恐怖”が湧き上がる。
「な、なんだ……この……」
壁にかけられた剣。
揺れる蝋燭の炎。
部下の足音。
それらすべてが――“恐怖の対象”に見えた。
「ひっ……! く、来るな……!」
「団長!? どうされましたか!?」
「近寄るなッ!!」
カインは剣を抜き、後ずさる。
誇りも、勇気も、栄光も――すべてが崩れていく。
* * *
魔王城で、その様子を見下ろしながら、レオンは静かに呟いた。
「……恐怖は、意志を奪う。
勇者も英雄も――中身はただの人間だ」
『陛下……お心が……』
「変わったさ。
だが、間違ってはいない。
力を持たない者が踏みにじられる世界より――
俺が管理する世界の方が、よほど“公平”だ」
その時、リモコンが警告音を鳴らした。
【警告】
世界安定度:低下
対抗権限“G-01”の干渉を検知
「……来たか、リリア」
レオンは、どこか懐かしそうに笑う。
「神のリモコン。
そして、魔王のリモコン。
同じ世界を、違う方法で救おうとする二人……か」
彼は玉座に腰を下ろし、リモコンを握りしめた。
「いいだろう。
実験は十分だ。
次は――“対話”じゃなく、“衝突”だ」
その宣言と同時に、世界のどこかで、金色の光が立ち上った。
――聖女が、動き出した合図だった。




