第二章 聖女と創造主1
第一話 神のリモコン
――夢を見ていた。
果てしない光の中で、誰かの声が響いていた。
『リリア・フィンレイ。あなたは、まだ“彼”を救いたいと願うのですか?』
その声は穏やかで、けれどどこか機械的だった。
祈りの中で意識を失ったリリアは、純白の空間で目を開ける。
「……ここは、どこ……?」
『ここは“上位構造空間”。あなたたちの世界を管理する“システム”の一部です。』
「……システム? あなたは、神様なの?」
『神――と呼ぶなら、そうです。
ですが、私は“創造主の補助プログラム”。あなたたちの言葉で言うなら、アーカイブ。』
「アーカイブ……。じゃあ、どうして私をここに?」
『あなたの心が“接続”を拒んだからです。
魔王リモナーク――かつてのレオン・グレイスが、“同調”を試みましたね。
あなたの魂は、その接続波を拒絶し、私たちの領域まで届いた。』
「……彼は、やっぱり……完全に闇に堕ちたの?」
『いいえ。まだです。
彼のスキル〈ランダム道具生成〉――あれは、もともと“創造主権限”の断片。
本来、神のみが扱える“世界設定操作”の一端です。』
「……世界、設定……? まさか、レオンの力は……」
『ええ。あなたの世界を“編集する権限”そのものです。
そして今、彼はその力を自我の欲望で使用している。
このままでは、現実構造が崩壊します。』
リリアの胸が締めつけられる。
レオンが、そんな危険な力を――?
けれど、あの瞳の奥には、確かにまだ“迷い”があった。
「……止められる方法は、あるの?」
『あります。あなたに、対となる権限を授けましょう。
それが――〈神のリモコン〉。』
空間が震え、リリアの前に金色のリモコンが現れた。
形はレオンのものと同じ。
だが、そこから発せられる光は、暖かく、優しい。
「これが……神のリモコン……?」
『はい。これは“創造権限”の純粋な形。
あなたがこの世界を守りたいと願う限り、どんな破壊にも対抗できる。』
「……でも、私がこれを使ったら……レオンと、戦うことになるんでしょう?」
『そうです。
ただし――あなたの意志次第で、“上書き”ではなく“修復”を選ぶこともできる。
あなたが何を望むか。それが、世界の結末を決めます。』
リリアは金のリモコンを両手で抱きしめ、目を閉じた。
脳裏に、あの丘の記憶が浮かぶ。
花の香り、夕暮れの空、約束の言葉。
「……レオン。あなたがこの世界を壊すなら、
私は――あなたを、もう一度“創り直す”。
光と闇のどちらでもなく、“人間として”戻してみせる」
『……了解しました。
あなたに神の権限、コードナンバー“G-01”を付与します。
――神のリモコン、アクティベート。』
金の光が彼女の身体を包み、聖なる翼が背中から広がる。
その瞬間、リリアは神域から現実へと引き戻された。
目を開けると、彼女の手には確かに“それ”が握られていた。
「……これが、神のリモコン……。
レオン、私はあなたを止める。
でも、それはあなたを憎むからじゃない。
あなたを――取り戻すために。」
リリアの瞳が強く輝く。
その光は、夜の王都を貫き、
遠く、魔王城の玉座で同時に反応が起きた。
「……この感覚……リリア……まさか、あの女も“リモコン”を……?」
リモナークの掌のリモコンが、かすかに震えた。
液晶には新たな文字が浮かぶ。
【エラー発生:対抗権限“G-01”を検知】
【同期不能】
「……ふふ。面白くなってきたじゃないか。
神と魔王、二つのリモコン――
さて、世界を支配するのはどちらだ?」
魔王は笑う。
その声が響くたび、空が軋み、世界のコードが揺らいでいった。




