第一章 裏切りの冒険者たち4
第四話 強制同調モード
――漆黒の王城〈デモニア・パレス〉。
空間そのものが歪み、天と地がねじれている。
レオン=リモナークは玉座に腰を下ろし、膝の上に一つの銀のリモコンを置いていた。
液晶の奥には、淡く浮かぶ文字列。
それは見慣れた「設定メニュー」ではなかった。
【NEW FUNCTION DETECTED】
――強制同調モード(Forced Sync Mode)
レオンは眉をひそめた。
これまでの“ランダム道具生成”は、あくまで偶然の産物だった。
リモコンが生成されたのも、あの絶望の夜の奇跡に過ぎない。
だが――この新機能は、意志によって反応した。
「……強制、同調……? 何を“同調”するというんだ?」
レオンが指でボタンをなぞると、リモコンの先端から黒い光線が伸び、
部屋の隅で控えていたロイヤルデーモンの胸を貫いた。
『……っ!? 陛下!?』
だが次の瞬間、ロイヤルデーモンは跪いた。
その目の色が、レオンと同じ紅に染まっていく。
『……陛下の意識が、我が中に流れ込む……これは……主の……魂の同調!?』
「なるほど……“強制同調”とは、対象の精神を俺と接続するモードか」
リモコンの液晶には新たな文字が表示されていた。
【対象:ロイヤルデーモン】
【状態:支配中】
【スキル共有:100%】
レオンは静かに笑う。
空気が凍りついたようなその笑みには、かつての人間らしさはもうない。
「これでようやく理解した……このスキルは“ハズレ”なんかじゃない。
俺が望むすべてを、最適な形で生成してきた。
偶然じゃない。必然だ」
『陛下……それは、神の領域です。魂をつなぐということは――』
「神……? そんな存在がいるなら、見せてみろ。
俺がリモコン一つで“世界設定”を編集してやる」
レオンは立ち上がり、玉座の前に立つ巨大な鏡へと歩み寄る。
鏡の中には、無数の映像――世界各地の街、人々、勇者たちの姿が映っている。
その一つに、金髪の聖女の姿があった。
リリア・フィンレイ。
彼女は今、教会の奥で祈りを捧げていた。
「……まだ祈っているのか。
俺を止めるために、神に縋るとはな」
レオンはリモコンを向け、液晶を切り替える。
【対象選択:リリア・フィンレイ】
【距離制限:解除中】
【強制同調モード――試行しますか?】
「……試してみるか」
――ピッ。
黒い波紋が空間を貫き、遥か彼方、王都の聖堂へと届いた。
その瞬間、リリアの身体がびくりと震える。
「っ……何、この感覚……!? 心の奥に……誰かの、声が……!」
『――聞こえるか、リリア』
「っ!? この声……レオン!? どこにいるの!? どうして――」
『近くにいるさ。お前の“心”の中にな』
リリアの瞳が大きく見開かれる。
その中に、わずかに紅い光が差し込んでいた。
同調が始まっている――魂の接続だ。
「やめて……! やめてよレオン! そんな力、あなたらしくない!」
『らしくない? そう言えるお前が羨ましいよ。
俺はもう、“らしさ”なんてものは失った。
ただ――お前の心を、理解したかっただけだ』
「……っ、やめて……! こんなの、理解なんかじゃない……!」
『そうだな。理解じゃない。これは――支配だ』
リモコンの液晶が真紅に染まり、文字が浮かぶ。
【同調率:67%】
【対象精神、抵抗中】
リリアは涙を流し、聖杖を胸に抱く。
その祈りが光となり、リモコンの画面を揺らす。
『……抵抗できるか。やはり、お前は“光”そのものだ。
だからこそ、俺は――お前を完全に支配する』
だがその瞬間、鏡の中で、ロイヤルデーモンが叫んだ。
『陛下っ! おやめください! その先は……魂の崩壊です!』
レオンの指が止まる。
ほんの一瞬、あの丘の記憶が蘇った。
笑顔のリリア。花の香り。約束の声。
――“その光を守るよ”。
「…………」
ピッ。
レオンはリモコンを下ろした。
同調は中断された。
液晶の文字が静かに消える。
【強制同調:中止】
【対象:切断】
『……陛下……』
「……まだだ。今は、壊す時じゃない。
だが――いつか、この力を完全に手に入れた時……
俺はこの世界の全てを、自分の意志で書き換える」
その言葉とともに、黒い光が王城を包み込んだ。
そして――新たな項目が、リモコンに浮かび上がる。
【新機能:WORLD EDIT MODE(世界編集モード)】
“開発中”
レオンは笑った。
それは、もはや人間ではなく、“創造主”の笑みだった。




