第一章 裏切りの冒険者たち3
第三話 再会、そして宣戦布告
黒い月が空を覆い、王都ルーゼリアの夜は終わらなかった。
昼が来ない――その異常は、たった一晩で国全土に広がった。
王都の中央広場には、怯えた市民が集まり、王城の魔導士たちが必死に封印の詠唱を続けている。
「陛下っ! 闇の源は不明です! まるで“世界の設定”そのものが改変されたような……!」
「何を馬鹿なことを言う! そんな現象があるものか!」
混乱の中、重い鐘の音が鳴り響いた。
城の尖塔が震え、空に裂け目が生まれる。
そこから――ひとりの影が降り立った。
漆黒の外套、紅に輝く双眸。
手に持つのは、銀のリモコン。
「……久しいな、王都の連中」
声が響いた瞬間、広場のすべての松明が消えた。
闇の中で、ただ一人、黒衣の男――魔王レオン=リモナークだけが、燃えるように浮かび上がる。
「魔王だっ……!」「結界を張れっ!!」
兵士たちが叫び、詠唱が重なる。
しかし、レオンはリモコンの“OFF”ボタンを軽く押した。
――ピッ。
瞬間、光も音も消えた。
兵士たちの魔法陣が崩壊し、彼ら自身の体が灰のように砕けて消える。
リモコンの液晶には、冷たく文字が浮かぶ。
【OFF:魔力構造解体】
範囲内の魔法式を強制停止しました。
「……くだらない。これが人間の“防御”か」
その時、聖堂の扉が開き、光が差し込む。
白い衣を纏った少女が、祈りの杖を手に歩み出た。
金の髪、澄んだ瞳。
――リリア・フィンレイ。
「……あなたが、この闇を……?」
その声に、レオンはわずかに目を見開いた。
その響きが、記憶を呼び起こす。
花畑の丘、約束の言葉。
だが、今はもう遠い過去。
「リリア。まだ“光”を信じているのか」
「……その声……まさか、あなたは――」
少女の手から杖が落ちた。
闇の王の顔を見つめたまま、声が震える。
「う、そ……そんな、レオン……? 本当に、あなたなの……?」
「そうだ。だが、もう“レオン”じゃない。
俺は――魔王リモナーク。世界の支配者だ」
「そんな……あなたは……!」
「裏切られた。見捨てられた。
仲間も、王国も、信じたものすべてが俺を地獄へ落とした。
その地獄で出会った“真の力”が、今の俺だ」
リリアは唇を噛み、涙をこぼす。
それでも、目を逸らさなかった。
「……違う。あなたは、優しい人だった。
私の光を守るって、言ってくれたじゃない……!」
レオンの指が、リモコンのボタンに触れる。
液晶が淡く光り、世界の空気が凍った。
「その約束は果たしたよ。
お前の“光”が、この世界で一番輝くように――
俺が、周囲のすべてを“闇”に染めてやった」
「っ……!」
リリアの頬を涙が伝う。
その涙を見て、レオンは一瞬だけ、ボタンから指を離した。
心臓の奥が、痛む。
忘れたはずの鼓動が、まだ残っている。
「リリア。次に会う時、俺はこの世界を完全に掌握しているだろう。
その時、お前がまだ“光”であるなら――俺はそれを、最後に消す」
「……それが、あなたの答えなの?」
「そうだ。これは宣戦布告だ。
聖女リリア――お前の信じる神に伝えろ。
“魔王リモナーク”が、世界の支配を開始すると」
レオンはリモコンを空に掲げた。
――ピッ。
空が裂け、黒い閃光が走る。
王都全体が震え、夜がさらに深く染まる。
その中で、魔王の姿は静かに霧のように消えた。
* * *
残されたのは、泣き崩れるリリアだけだった。
その瞳には、もう一度、彼を救いたいという決意が宿っていた。
「……必ず、取り戻す。
闇に堕ちたあなたを、もう一度……」




