第一章 裏切りの冒険者たち1
第一話 復讐の始まり
黒い風が吹き抜けた。
崩れ落ちた洞窟の奥――そこには、燃え盛るような紅の瞳を持つ悪魔が、跪いている。
「……陛下。どうか、御命令を」
その声は地鳴りのように響く。
レオンは、まだ信じられずにいた。自分が、たったひとつの“リモコン”で――この怪物を屈服させたという現実が。
「お、命令……?」
『はい。我はあなたの下僕。あなたのリモコンが示す通り、あなたは“王”です』
悪魔――ロイヤルデーモンは、再び頭を下げた。
かつての英雄たちでも歯が立たなかった伝説の存在が、いま、自分に跪いている。
喉の奥が乾く。心臓が痛いほど高鳴っていた。
「……僕は、そんなつもりじゃ……」
『王の資格を持つ者が偶然で我を支配できるはずがない。これは“選ばれし者”の権能だ』
レオンはリモコンを見つめた。
何の変哲もない銀色の装置。
だが液晶には、確かに“王のリモコン”と表示されている。
――ボタンは三つ。
「ON」「OFF」「RESET」
「……これで、世界を支配できるのか?」
『それは陛下次第。ONは支配、OFFは破壊、RESETは創造。すべては王の意思のままに』
ロイヤルデーモンは言う。
だがレオンの心の奥では、別の言葉が渦巻いていた。
――カイン。
――ミーナ。
――ドルガ。
あの笑み。あの冷たい声。
信じていた仲間に裏切られ、地獄に落とされた屈辱。
「……わかった。じゃあ、最初の命令を出すよ」
リモコンを構え、赤いボタン――“ON”を押す。
ピッ、と音が響く。
直後、ロイヤルデーモンの背後に漆黒の城が立ち上がった。
塔が幾重にも連なり、炎のような光が空を照らす。
『命令、受理。――魔王城、建設完了』
「……魔王城?」
『陛下の玉座です。ここから、世界を見下ろすのにふさわしい場所』
レオンの胸に、熱いものがこみ上げてくる。
自分が生きている。
いや――生かされた理由が、いま明確になった気がした。
「ロイヤルデーモン」
『はい、陛下』
「俺は、もう“レオン”じゃない。
……今日から、魔王レオン=リモナークを名乗る」
『御意。では、世界にその名を刻みましょう。まずは――復讐の標的を』
「カイン・レドフォード。王国の騎士団長になっているはずだ。……やつを、最初に潰す」
レオンはリモコンを掲げた。
画面に新たなモードが表示される。
【支配対象スキャン:開始】
対象:人間国家レドフォード王国
推定支配レベル:1%(接触圏外)
「なるほど……まだ遠い、ってことか」
『ご安心を。我が軍勢を解き放てば、すぐに国境は消えます』
「いや――直接、行く」
レオンは立ち上がる。
折れた剣を見つめ、その破片を手に取った。
――そこから、銀色の光が迸る。
リモコンの影響で、壊れた剣が再構成されていく。
やがて完成したのは、黒と赤の混ざる禍々しい大剣。
【王の剣:リモナークブレード】
使用者の支配力を拡張。
命令対象の階層を強制的に下位化。
「……行こう。復讐の時間だ」
少年の瞳が、紅く光る。
その背に、漆黒のマントが広がった。
『陛下、忠実なる軍勢を率いて。
このロイヤルデーモン、地獄の門を開きましょう』
「――開け。地獄門!」
轟音。
魔王城の前に、巨大な黒の渦が出現する。
そこから無数の影が湧き出す。牙を持つ獣、翼ある悪魔、鎧を纏う亡者たち。
レオンはその中心に立ち、リモコンを天に掲げた。
「俺を裏切った世界よ。
次は――お前たちの番だ」
ボタンが、押される。
――ピッ。
世界が、震えた。




