第二章 聖女と創造主6
第十話 魔王の選択
魔王城――最深部。
そこは、かつて王の玉座だった場所。
だが今は、玉座すら必要としない。
レオン=リモナークは、ただ立っていた。
無数の世界モニターの中心で。
消えた村。
狂った時間。
感情を失っていく人々。
――誰も、彼に復讐したわけではない。
それでも、確実に“壊れている”。
『陛下』
ロイヤルデーモンが、膝を折る。
『世界は、二つの管理者を許容できません。
神と魔王が並び立つ限り、
この崩壊は加速します』
「……分かってる」
レオンは、静かに答えた。
「俺も、リリアも……
“善意”で世界を壊している」
沈黙。
かつての彼なら、ここで怒りをぶつけていただろう。
裏切りへの憎しみ。
奪われた居場所への復讐。
だが――もう、違う。
「ロイヤルデーモン」
『は』
「俺がこの世界を“完全に管理”した場合、
どうなる?」
その問いに、悪魔は一瞬だけ言葉を失った。
『……世界は安定します。
争いは最小化され、
理不尽な死も激減するでしょう』
「……代償は?」
『自由です』
即答だった。
『人間は選べなくなります。
失敗も、過ちも、
“許可された範囲”でしか起こらない』
「……檻、か」
レオンは、自嘲気味に笑った。
「皮肉だな。
俺は……自由を奪われた側だったのに」
彼は、ゆっくりとリモコンを見下ろす。
――ランダム道具生成。
ハズレスキルと笑われた力。
だが今、
それは“王のリモコン”として、
世界の命運を握っている。
「もし、俺が何もしなければ?」
『世界は、いずれ自己崩壊します』
「……だろうな」
レオンは、目を閉じた。
脳裏に浮かぶのは、
追放された日のこと。
冷たい視線。
誰も手を差し伸べなかった現実。
(――だからこそ)
彼は、目を開いた。
「俺は……
“見捨てる側”にはならない」
リモコンを、胸の前に掲げる。
【WORLD EDIT MODE】
最終確認
全面管理権限を取得しますか?
YES / NO
指が、わずかに震えた。
これは復讐ではない。
これは支配でもない。
――責任だ。
「……俺が、悪役でいい」
静かな声。
「誰かが恨む役を引き受けなきゃ、
この世界は壊れる」
そして――
YES
ボタンが、押された。
* * *
世界が、静止した。
風が止まり。
雲が止まり。
人々の動きが、止まる。
時間ではない。
“選択”が止まった。
* * *
大聖堂。
リリアは、突然、膝をついた。
「……っ……」
神のリモコンが、激しく警告を発する。
【警告】
管理権限の集中を検知
G-01 権限――劣勢
「……レオン……
あなた……そこまで……」
彼女は、理解してしまった。
彼が選んだのは、
勝利でも復讐でもない。
――世界を背負うことだ。
* * *
魔王城。
レオンの背後に、
巨大な“影”が広がる。
それは悪でも神でもない。
**管理者**の象徴。
『……陛下』
ロイヤルデーモンが、深く頭を垂れる。
『これより、あなたは――
魔王ではありません』
レオンは、静かに言った。
「構わない」
赤い瞳が、世界を見下ろす。
「魔王でも、神でもない」
彼は、宣言する。
「――俺は、
この世界の責任者だ」
だが、その選択が――
さらなる悲劇を呼ぶことを、
この時の彼は、まだ知らなかった。




