プロローグ:ハズレスキルの少年
メモアプリで温めてた作品ができてきたので投稿します。
夕陽が沈む草原を、ひとりの少年が歩いていた。
ボロボロのマントを翻し、錆びた剣を杖のように突き立てながら。
名は、レオン・アルディス。
十五歳。スキル持ちの人間としては――最弱。
彼のスキルは、〈ランダム道具生成〉。
発動すると、一定の確率で“何かの道具”が手の中に現れる。
だがそれは、ほとんどが石ころやボロ布、腐ったパンのような“ゴミ”ばかり。
それでも、レオンは冒険者になりたかった。
夢だったのだ。父がかつて語ったような、「仲間と旅をして、世界を救う」英雄になりたかった。
だが現実は、夢よりもずっと冷たい。
「おい、レオン。お前、また何も出せなかったのかよ?」
後ろから声が飛ぶ。
振り返れば、銀鎧の青年――カイン・レドフォード。〈暁の牙〉のリーダーであり、レオンをパーティーに誘った張本人だった。
「……すまない。今日の生成は、空振りだった」
「はっ、またか。マジで使えねぇな、“ランダム”ってのは!」
仲間の笑い声が響く。
魔導士ミーナは鼻で笑い、斧戦士ドルガは肩をすくめた。
レオンは唇を噛むしかできなかった。悔しさも、情けなさも、もう何度目かわからない。
ダンジョン探索は進む。
だが罠を見落としたのは、決してレオンだけのせいではなかった。
床が崩れ、魔物が溢れ出した瞬間――カインの叫びが響いた。
「レオン! お前が囮になれ!」
「え……?」
「お前が引きつけろ! オレたちは後ろから援護する!」
命令のように響いたその声に、レオンは一瞬ためらう。
だが次の瞬間、仲間の顔が――笑っていた。
その笑みが、妙に冷たく見えた。
「……カイン?」
振り向いた時には、すでに仲間たちは退路を塞ぎ、
そして――魔法陣を展開していた。
「悪いな、レオン。オマエの“ランダム”じゃ、もうこの先は足手まといなんだよ」
「待って、カイン! 僕は……!」
「さようなら、“ハズレ”」
光が弾けた。
爆音とともに床が崩れ、レオンの体は闇へと飲み込まれた。
――あの時、世界が終わったと思った。
* * *
気がつくと、そこは血のように赤い空が広がる異空間だった。
地面は黒い岩で覆われ、空には逆さまの城が浮かんでいる。
「……ここ、は……?」
レオンの体は傷だらけで、剣も折れていた。
スキルを発動しようと手をかざす――が、何も起きない。
力を使い果たしていた。
そのとき、地の底から響くような声が轟いた。
『――人間、貴様はなぜこの地に堕ちた』
振り向く。
巨大な黒い翼を広げ、四本の角を持つ悪魔がそこにいた。
炎の瞳。圧倒的な威圧。まるで世界の理そのものが屈しているような存在感。
「……ロイヤル、デーモン……?」
伝承でしか聞いたことのない、宇宙最強の悪魔の名。
その名が、現実になって目の前に立っていた。
『面白い。人間風情がこの領域に迷い込むとは。……すぐに死ね』
黒炎が迫る。
レオンは必死に手を伸ばした。
――スキル、お願いだ。何か出てくれ!
「〈ランダム道具生成〉ッ!!」
世界が光に包まれる。
次の瞬間、彼の手の中に現れたのは――
小さな、銀色のリモコンだった。
「……リモコン?」
悪魔が嘲笑する。「貴様、命乞いの冗談か?」
だが、レオンは無意識のうちにそれを悪魔に向け、ボタンを押した。
――ピッ。
空気が凍る。
悪魔の瞳が、震えた。
『……お、おお……なんと……この波動……!』
炎のように燃え上がっていたロイヤルデーモンが、膝をつく。
そして、深く頭を垂れた。
『……陛下。ようやくお戻りになられたのですね』
「……は?」
『我が王よ――このロイヤルデーモン、永劫の忠誠を誓いましょう』
少年の手に握られた“リモコン”が、鈍く輝く。
画面には、ひとつの文字列が浮かび上がっていた。
【王のリモコン】
対象の存在階層を「下位」に書き換える。
指定された者は、使用者を王と認識する。
――その瞬間、世界の支配構造が書き換わった。
ハズレスキルの少年は、“宇宙最強の悪魔の王”となった。




