表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/7

04元婚約者の狂気がついに刃となって襲いかかる

「両親があなたを信頼すると決めてくれました。フュリスに魔法をかける準備ができました。あなたをライジオネル様の追及から守る手立ても見つかりました」


 翌日、セレスが屋敷にやってきた。顔を見るなり、すべてを察したようだ。彼の顔には安堵と深い優しさが浮かんでいた。セレスの手を握り、フュリスの部屋に向かう。

 フュリスは少しだけ顔つきが穏やかになり、来るのを待っていた。


「フュリス、今日、お兄ちゃんのお友達が、素敵な魔法を見せてくれるよ」


 フュリスは小さな声で笑った。彼女の笑顔は大切。普通に見える魔法をかける準備を始めた。ライジオネルの企みから不幸の連鎖を起こす、美しさから永遠に守るために。


 魔法をかける日は晴れやかな朝。セレスはフュリスの部屋に魔法陣を描き、複雑な呪文を唱え始めた。緊張しながらも、フュリスの手を握り、妹のそばに寄り添う。

 幼児は魔法に怯えることなく、不思議そうな顔でキラキラと光る魔法の粒子を見つめていた。セレスの穏やかな声が部屋いっぱいに響き渡る。


「フュリス様、この魔法はあなたの心を、あなた自身を守るためのものです。何も怖がることはありませんからね」


 セレスの言葉にフュリスは小さく頷いた。優しい声音だ。

 魔法陣が光を放ち、光がフュリスを包み込んだら、体が淡い光を纏い、光が消えると妹は少しだけ顔つきが穏やかになったように見えた。


「……お姉ちゃん」


 フュリスは姉の顔を見て安心したように微笑む。


「フュリス、もう大丈夫」


 彼女はギュッと抱きついたきた。小さな体温が安堵を与えてくれる。午後、結果を見た父はライジオネル家に手紙を送った。


「フュリスの美しさゆえに、ライジオネル様の行動がフュリスを危険に晒すことになりました。ライジオネル家からのご支援は誠にありがたいものでしたが、今後は私たち家族の安全を第一に考え、ご遠慮させていただきます」


 手紙の文面は丁寧だったが内容は、ライジオネル家との関係を完全に断ち切るという、断固たる決意が込められている。


 数日後、婚約者の肩書を引っ提げて、ライジオネルが再び屋敷にやってきた。手紙の内容に激怒している。


「なぜだ!なぜ拒む!説明しろっ」


 ライジオネルが掴みかかろうとした時、セレスが前に立ちはだかった。


「おやめください。娘はもうあなたの婚約者ではありません」


 父は婚約を無くしてくれていた。今すぐではないが、もう消滅したも同然。セレスの言葉にライジオネルは顔を歪める。


「君はフュリスに何を施した!?フュリスの美しさが、何者かに汚されている!?」


 婚約者ではなくなったことよりも、美しさの有無について問うてくる。ライジオネルはフュリスの部屋に駆け込もうとしたが、セレスはライジオネルの前に立ちはだかり、彼を部屋に入らせなかった。


「フュリス様は今、安らかに眠っています。邪魔することは誰にもできません」


 セレスの言葉はライジオネルの怒りをさらに煽った。セレスに掴みかかろうとした時、父が間に入ってきた。


「ライジオネル様、おやめください。これ以上、私たちの家族を苦しめるなら私たちは、あなたの行いを公にせざるを得ません」


 父の言葉にライジオネルは動きを止め、父の顔に、私の顔にセレスの顔に憎悪のこもった視線を向けた。


「君たちは僕のフュリスを僕から奪った。必ず、後悔させてやる」


 ライジオネルは言い残し、屋敷を去っていった。ライジオネルが去った後、セレスに顔を向けた。疲労の色が浮かんでいる。しかし、瞳は我が家とフュリスを守り抜いたという、やり切った雄々しさがあった。


「ありがとう、セレス様」


 相手は優しく微笑んだ。


「大丈夫です。約束したでしょう。私は君とフュリス様を、最後まで守ります」


 心を温かくしながらセレスという存在が、どれほど大きな存在になったのかを改めて実感。

 あのライジオネルが最後の、最も危険な手段に出ることを予測できなかった迂闊な、束の間の安らぎ。



 ライジオネルの脅迫めいた言葉は単なる捨て台詞ではなかった。セレスの計画を阻止するために最も卑劣な手段に出たのだ。


 なんと驚いたことに数日後、ライジオネルの家が王国中の貴族たちに華やかな舞踏会の招待状を送った。その招待状には一言だけ添えられていて。


「我が家が誇る、新たな宝石を皆様にご紹介いたします」


 ライジオネルはフュリスを新たな宝石と称し、舞踏会で披露するつもりだ。美しさを利用し、自分のものだと公に宣言する周到な計画。恐ろしい、そこまで普通する?


「どうしましょう。セレス様……フュリスはまだ人前に出ることができません」


 不安に震える声でセレスに尋ねたフュリスの心は少しずつ回復しているとはいえ、まだ見知らぬ人々の前に出せるほど強くはなっていないと告げると手を優しく握る。


「心配ありません。魔法は外見を変えるだけではありません。フュリス様の心を守る強い結界にもなります」


 少しだけ安心したものの、不安は拭えなかった。ライジオネルがどんな手段でフュリスを舞踏会に連れ出そうとするか、予想がつかなかったから。


 舞踏会の前日、ライジオネルから再び手紙が届いた。


「明日、フュリスを迎えに参ります」


「はぁ?」


 意味がわからない。激しい怒りを覚えた。父の言葉を無視し、力ずくでフュリスを連れ去ろうとしている。セレスに不安と怒りをぶつけた。


「フュリスを渡すわけにはいきません」


 セレスは静かに頷いた。


「わかっています。だからこそ私がいます。ライジオネル様は、ギルドに報告し、資格を剥奪させるつもりでしょう。ライジオネル様がフュリス様に手を出す口実を与えてしまうことになる」


 見事に企みを見抜いていた。ライジオネルはセレスを排除し、フュリスを孤立させたところで彼女を舞踏会に連れ去ろうとしている。


 翌日、ライジオネルが屋敷にやってきたがいつも以上に豪華な馬車に乗っていた。


「フュリスを僕に預けてくれませんか?彼女は僕の舞踏会で、最高の宝石となるでしょう」


 父に優しく語りかけるが彼の瞳は、獲物を前にした狩人。血眼というか狂人の瞳だ。


「ライジオネル様、フュリスはまだ人前に出ることができません」


 父は断固たる口調で言う。


「そうか。では仕方ない。君たちの家族全員を、無理にでも連れて行かなければならないな」


 武装した護衛たちに捕らえるように命じた。卑劣な手段に震えが止まらなかったが、セレスが前に立ちはだかる。


「おやめください。あなたは、王国貴族としての威厳を自ら汚している」


 臆することなく、真っ直ぐに言った。


「ふん!男を捕らえろ!」


 ライジオネルの声に護衛たちがセレスに襲い掛かったが、フュリスを守るように構えた。彼の掌から淡い光が放たれ、護衛たちを吹き飛ばす。


「貴族に……君は、僕に逆らうのか?」


 ライジオネルはセレスの魔法に驚きを隠せないようだった。顔には怒りよりも、狂気的な歓喜が浮かんでいる。気持ち悪い。婚約していたなんて、あまりにも消したい過去。


「フュリスの美しさを、奪うことができるのか?ならば君は、フュリスの美しさを僕に返さなければならない」


 ライジオネルは言い放ち、自らの胸から小さなナイフを取り出し、ナイフの切っ先をセレスに向けた。


「フュリスの美しさの代償として、君の命を僕がいただく」


 息をのんだ。歪んだ愛情はついに一線を超えた狂気へと変わっていたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
姉をお兄ちゃん言ってるように読めるけどこれは誤字なのか俺の読解力は弱いのかどっちだ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ