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第8話

 佐藤は住宅街を歩いていた。佐藤は車のセールスをしているのだが、今日はお得意様の車の車検が終わったため、家まで車を運んだところだった。もうこんな時間か。腕時計は午後四時三十分を指そうとしている。この道はたしか早紀が塾の帰りに通る道だな。そんなことを考えていると、待っていたかのように、前方から早紀が歩いてくるのが見えた。友達二人と一緒に歩いている。早紀は交差点で友達と別れこちらへ歩いてきた。まだ自分には気づいていないようだった。自然と顔がほころぶ。このまま歩いて行けばすぐに気づくだろう。佐藤は足取りを早紀の方へと向けた。そのとき早紀の真横にワンボックスの車が止まった。サイドのドアが開く。男が飛び出したかと思うといきなり早紀に掴みかかった。佐藤と早紀の距離は百メートルくらいだろうか。それでも早紀の驚いた顔がはっきりと解る。男は早紀を車へと押し込んだ。男が車を飛び出してから早紀を車へ押し込むまで5秒とかかっていない。早紀を車へ押し込んだ男が車へ乗り込もうとする。その時、男はふいにこちらを見た。目が合う。お互い一瞬だが体が硬直する。佐藤はその時、目の前で起きた光景を見ていただけの自分に気づく。佐藤は拳銃から玉が飛び出す様な勢いで駆け出した。まさか、早紀が誘拐?俺の目の前で?現実に起こったことを頭の中で整理しようとする。男はこちらが走り出したことに驚いたのか慌てて車へ乗り込んだ。ドアの閉まる音を合図にするかのように車が動きだす。車までまだ距離はある。止まれ。止まってくれ!佐藤の願いが叶うはずもなく車は加速した。僅かだが縮まっていた車との距離が一気に離れていく。せめてナンバープレートだけでも。見えた番号を頭の中で読み上げる。忘れないようにと何度も読み上げる。その間も無我夢中で走り続けるが虚しくも車は前方の交差点で左折し、佐藤の眼下から消えた。その交差点まではまだ200メートルはあるだろう。足が早くも悲鳴を上げ始めるが、強引にでも両足を動かす。交差点まで着き車の曲がった方向へと体を、目を向ける。予想していた通りの最悪の光景。車はその先にはもう見えなかった。無理を聞かせた両足はそこで、いい加減に休ませろと言っているかのように動きを止めた。代わりに心臓が激しく鼓動を始めた。走ったからだけではない。乱れた呼吸の中、先ほどから頭の中で繰り返している車のナンバーを記録するものはないかと体中のポケットを手探りする。記録できるものとして携帯電話が見つかった。記録するためメモ帳機能を呼び出そうとするが、手が震えなかなか選択できない。やっと開けたかと思うと、ナンバーを打ち込む手は振るえ、これもまたうまく打ち込めない。訂正するためのクリアのボタンもうまく打てず意味のない文字が画面に並んでいく。くそ!こんなときに!うまく携帯を操作できない自分に苛立つ。それでもなんとかナンバーを打ち込むことができた。次になにをすべきか考えるが正解が解らない。いや、正解なんてないのか。とりあえず警察に電話だ。一回、二回目の呼び出し音が鳴り終わる前にガチャリと繋がる。

「わ、私の娘が誘拐された。」

 電話が繋がったと同時に佐藤は先を急ぐように叫んだ。が、誘拐の現場から今まで言葉を発していなかったためだろうか、走って呼吸が乱れているせいか、最初の一言がうまく出ない。喉が喋る準備を怠っていた。

「詳しく状況を教えてください。」

電話の相手が聞いてくる。

「娘が、娘が。男が車から出てきて走り去って行って。」

 自分でも何を言っているのか解らなかった。頭の中が整理できていない。言葉がうまく出てこなかった。こんなのでは伝わらない。

「落ち着いてください。」

 そんな言葉で落ち着けるか。と、悪態をつきたくなる。が、それが少しだが落ち着くきっかけを与えてくれた。

「娘が誘拐された。状況は・・・」

 少し間を置き頭の中を整理する。そして、佐藤はゆっくりと状況を説明し始めた


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