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第6話

「いってきます!」

 元気な声を上げ早紀は家の玄関を飛び出して行った。玄関前には早紀の友達二人が早紀が出てくるのを待っていたようだ。佐藤は好子と共に家の中から早紀を見送った。

「今日は塾に行く日かい?」

 佐藤は好子に問いかける。

「ええ、友達と一緒に通っているわ。送り迎えしていたのは去年までだったわね。」

「そうだな。成績も順調みたいだいし、あそこの塾へ通わせて正解だったな。」

 夫婦の会話をしながらダイニングテーブルへと戻る。テーブルの上には昨日の早紀の誕生日パーティーでの残りものがおかずとして並んでいた。親子三人だったが大いに盛り上がったのを思い出させる。

「今日はまた仕事で遅くなると思う。晩御飯は用意しなくて良いよ。」

 好子はわかったという合図を頷きで送る。佐藤にもその合図が通じていた。佐藤はネクタイを締め、スーツを羽織ると、言ってくる。と、好子に一声かけ、玄関へと向かう。後ろでは好子がいってらっしゃい。と、いつものように言うのが聞こえた。



「田辺君。そろそろ起きてくれ。」

 誰かの声が聞こえる。まだ眠り足りないのか頭がぼーっとする。ここは?今何時なんだ?俺は夢を見ていたのか?いろんなことが頭の中を巡る。

「そろそろ行動に移す時間だ。」

 こいつは小笠原だ。そうだ。夢なんて見ていない。少しずつ頭の中が鮮明になってくる。

「今はいったい何時だ?」

 眠い目をこすりながら田辺は問うた。

「午後四時だ。」

 小笠原の一言が返ってくる。田辺はそこでやっと体を起こすことができた。鉄格子が嫌でも視界に入ってくる。

「昼飯で弁当用意したんだがもう時間がない。昼にも起こしたんだが田辺君は全然起きなかったんだ。悪く思わないでくれよ。」

 起こさないでくれて良かったと田辺は思った。食欲は全然出てこない。ただ、眠気だけは我慢できなかった。

「いや、寝かせてもらってよかったよ。弁当はいらないな。すぐにここを出るのかい?」

「15分後にここを出る。起きて頭をすっきりさせたほうがいい。コーヒー飲んだらすぐに出るぞ。」

 そう言うと小笠原は部屋を出て台所へ行ったようだ。お湯を沸かすのだろう、ガスコンロの音が聞こえた。田辺はまだ寝ている体を強引に起こし、リビングのテーブルへと足を向ける。朝と変わったところと言えばテーブルに弁当があるところだった。たぶん田辺の分なのだろう。弁当を見ても食べたいとは思わない。イスに座るとあくびが出た。まだ体も頭も半分は寝ているようで、なにもする気が起きない。

「コーヒーが入ったぞ。インスタントだけどな。」

 小笠原が両手にコーヒーを持ってきた。自分も飲むつもりなのだろう。小笠原は普通にコーヒーを持ってきただけなのだが、ぼーっとしていたのか、それだけで田辺は驚いてしまう。

「ああ、ありがとう。」

 ふいにそんな言葉が出た。

「コーヒーを飲みながらで良いから聞いてくれ。このあと現場に車で向かう。今回は凶器はいらないからこのテーブルの上に置いておいてくれ。」

 小笠原の一言で田辺の頭が揺さぶり起こされたかのようだ。そうだ、自分はこれから犯罪をするのだということを再認識させられた。

「車に乗って詳しいことを説明しよう。もうあまり時間がないぞ。それを飲んだらすぐに出発だ。」

 田辺は部屋の中に時計が無いか見渡した。ちょうど田辺の真後ろの壁に時計がかけてある。時間は四時十分。まだコーヒーが半分は残っていた。熱いせいで一気に飲み干すということはできないと思い、残りのコーヒーは諦めることにする。田辺は部屋に行き、早紀の写真と包丁を手に取った。包丁がとても重たく感じる。それを持ちリビングに戻るとすでに小笠原は玄関へと足を進めていた。早くしないと置いて行くぞ、と、行動で示している。田辺は包丁をテーブルの上に置くと最後に一口コーヒーを飲む。さっきは美味く感じられたコーヒーが今はとても苦く感じた


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