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第16話

 田辺はワンボックスのスライドドアが開くと車から降りた。目の前には最北端の碑があり、その前には一人の男が居た。まだ距離があるためはっきりとは顔は見えない。田辺はなるべく平静を装いながら歩き出した。男との距離が半分まで近づいたとき、田辺はその場で立ち止まる。顔がぼんやりと見える距離になっていた。見覚えがある。田辺が立ち止ったのを確認するかのように男はこちらに向かって歩き出した。田辺は慌てて歩行を再開する。一気に二人の距離が縮まり二人同時に足取りを止めた。

「早紀はどこにいる?」

 強い口調で言う男。

「佐藤だな?」

 男の質問に答えず、男の名を確認する田辺。

「そうだ。私が佐藤だ。見覚えがあるぞ。お前は早紀を誘拐した男だ。間違いない。」

 田辺も確信した。この男は佐藤早紀を誘拐したときに犯行を目撃していた男だ。こんな偶然があるのだろうか。

「早紀は車の中か?」

佐藤は田辺に詰め寄る。鬼の形相とはこういうことを言うのだろう。田辺はその迫力に後ずさってしまった。しまった。と思った時には体が勝手に動いていた。

「車に来てくれ。」

 田辺はまた佐藤の質問には答えない。一度答えてしまうと質問攻めに合うのがわかる。佐藤の迫力に後ずさってしまったことによりすでに相手に負けを認めているようで居心地が悪い。早くワンボックスに戻りたかった。

「わかった。」

 不満そうな顔をする佐藤だが、優越感と言うのか自信というのか、そういうものが感じられた。

「先に歩いてくれ。」

 田辺は手振りも加え佐藤を先に歩くように促す。佐藤はそれに従い歩き出した。田辺の前をジッと睨みつけながら横切る。その鬼の形相に田辺は目を逸らしたい衝動にかられるが必死に抵抗した。佐藤の足取りは強い。なんとしても佐藤早紀を助け出そうというのが感じ取れた。それに比べ田辺の足取りは軽い。一度犯行を決めた決意にゆらぎが出てきている。

 佐藤がワンボックスまであと三歩くらいの距離に来たとき、スライドドアが音を立てないようにしながらか、ゆっくりと開いた。佐藤越しに小笠原が見える。佐藤早紀はワンボックスの三列目に乗せているため、ここからは見えない。佐藤はそのままの歩みで車内へと乗り込んだ。

「早紀はどこだ?」

 佐藤は小笠原に詰め寄る。

「後ろ見てみな。」

 小笠原は顎で三列目の座席を示す。それに促されるように佐藤は顔を向けた。

「早紀!」

 田辺からは見えないが、そこには両手両足を縛られ、口を封じられた佐藤早紀がいるはずだ。

「大丈夫か!」

 佐藤が三列目へと体を乗り出す。そのとき、田辺はポケットに入れていた小さな機械を取り出した。スタンガンだ。スイッチを入れると気持ちの悪い音と共に火花が見えた。それを興奮している佐藤へと押し付ける。音を立てて佐藤が崩れ落ちた。

「よし、いいぞ。行こう。」

 小笠原が声を出す。田辺は佐藤がいることで狭くなった車内へと体をねじ込んだ。狭い車内で体をひねりスライドドアを閉めると、車は走りだした


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