第14話
リリリーン。リリリーン。
電話の呼び鈴に佐藤はビクリとする。犯人からの電話ではないかと思ったのだ。イスから立ち上がり急いで電話へと向かう。
「はい。佐藤です。」
佐藤はあくまで普通に電話に出た。
「あ、おじさん?早紀の友達の田中です。」
電話の向こうから女の子の声が聞こえてきた。体の力が少し抜ける。
「あのね、いま早紀からメールが来て誘拐されたって言ってきたんだ。それでメール返したんだけど返事ないんです、やっぱり家に帰ってきてないですか?」
いきなりの報告と質問に驚きを隠せない。
「どんなメールなんだ?何時にそれは着た?そのメール読んでくれないか?」
早紀の安否が気になるあまり口調は強く、早口で問いかけていた。気付けば佐藤の周りには好子が来て会話を聞こうとしていた。
「ちょ、ちょっと待ってください。」
佐藤の口調が強かったのか田中さんは少し緊張したようだった。
「読みますよ。キヨミ、私誘拐された。今車の中でこっそりメールしてるよ。助けて。お父さんとお母さんにも連絡して。電話したら携帯持ってるの分かっちゃうからできないよ。お願い。っていうメールが着てました。」
佐藤はそれを聞いて少しの間沈黙する。
「早紀やっぱり帰って来てないんだね。大丈夫かな?」
電話の向こうから不安な声が聞こえる。
「大丈夫だよ。心配しなくていいから。連絡してくれてありがとう。」
佐藤はそう言うと電話を切った。切る間際電話の向こうでなにか喋ろうとしていたことに佐藤は気付いていたが、それでも電話を切ってしまいたかった。
「誰からなの?」
後ろから声を掛けられ佐藤は振り向く。好子がこちらを、なにがあったの?と言いたげな顔をして見ていた。警察の人達は電話に繋がれた機械を一心不乱に操作している。逆探知や今の会話の録音を調べているのだろうか。
「早紀の友達の田中さんからだった。田中さんの携帯に早紀からメールが着ていたみたいで、それで連絡をくれたんだ。」
「それで、なんて言ってきたの?無事なの?」
「誘拐されたと言ってきたみたいだ。それに犯人に気付かれるから電話はできないって。犯人についてはなにも言ってなかったみたいだ。」
そこで一度佐藤は言葉を止めた。次の言葉を口に出したくなかった。
「田中さんがそのあとメールを送ったみたいだが返信が無いらしい。」
それを聞いた好子は佐藤に背を向ける。頭の中では早紀がどうなっているのか、いろいろな状況を思い描き、悪いイメージばかりが浮かんでいるのだろう。高橋はというと部下に指示を出しているのか、耳元に顔を近づけこちらに聞こえないように話している。それが終わると高橋はこちらに向かってきた。
「佐藤さん。早紀さんの友達の田中さんの家はどちらになりますか?」
佐藤は好子へと目配せをする。佐藤は田中さんの住所は知らない。好子はそれに気付いたのか、電話の横にあるメモ帳を手に取るとテーブルへついた。佐藤は好子の後ろに立ちメモ帳を覗き込んでいると、そこには簡単な地図が作られていくのが見えた。
「ここです。」
好子はメモ帳を一枚破り取ると高橋へと渡した。高橋はそれを見ると頷き、それを先ほど耳打ちしていた部下に差し出した。部下は待ってましたとばかりにそれを受け取ると急ぎ部屋を出て行く。
「それでは佐藤さん。そろそろ家を出る準備をしましょう。」
佐藤は頷く。佐藤は早紀のことを考えると今にも井戸に落とされたかのような絶望的な不安を覚える。どうしても悪いほうにばかり考えてしまうのだ。良いほうに考えろというのが難しいだろう。佐藤は時計を見た。高橋からいろいろなことを聞かれているうちに思ったよりも時間が経っていたようだ。無事でいてくれ。と、何度も心の中で繰り返した。