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第13話

 田辺は携帯電話と紙を交互に見ていた。

「これで良かったのか?」

 顔を上げ、小笠原に視線を移す。

「大丈夫だ。うまくできたじゃないか。」

 小笠原は少し満足そうに言った。田辺も噛むことなく言えたことで肩の荷が下りたような気がしていた。田辺は後ろを振り返った。今脅迫電話を架けたばかりで佐藤早紀になにか変化がないかと思ったからだ。佐藤早紀は足を抱えこみ体育座りの姿勢で顔を伏している。そのとき田辺は異変に気付いた。さっきまでは暗くて良く見えていなかったのだろう。

「小笠原!こいつ携帯持ってるぞ!」

 佐藤早紀は携帯を足で隠すようにしていた。しかも携帯の画面のライトを消していたため、暗い車内の中ではわかりづらい。脅迫電話を架けるため室内灯を点けていたため見つけることができた。佐藤早紀は田辺の声に気付き顔を上げた。驚きの表情をしている。小笠原は猫のような素早い動きで二列目の座席を飛び越え三列目へと移動する。ワンボックスは大きいとはいえ大人が動き回るには狭い。そこを軽快に動く小笠原に田辺は関心をしてしまった。

「やめて!」

 佐藤早紀が初めて声を上げる。携帯を体の後ろに回し取られないようにとするが、大人相手ではそれもあまり意味のないことだった。小笠原は無言で佐藤早紀の手を掴み強引に引っ張ると携帯が灯りの下に出てくる。佐藤早紀は空いている片手で小笠原を殴りかかった。しかし、それも小笠原に簡単に止められてしまう。両腕を掴まれた佐藤早紀は小笠原に向かって足を蹴り出す。これは見事に小笠原の腹に入った。小笠原の口から言葉にならない音が漏れる。

「こいつ!」

 小笠原からも声が出た。イラついているのが手に取るようにわかる。小笠原は一度両手を離し、今度は両足を捕まえた。足を思い切り引っ張りながら小笠原は軽く跳ねた。そして佐藤早紀の腹の上に着地する。今度は佐藤早紀から言葉にならない音が口から漏れた。

格闘技でいうとマウントポジション、馬乗りの体勢になっていた。苦しそうな顔をする佐藤早紀。小笠原は力の抜けた手から簡単に携帯電話を取り上げた。

「持っててくれ。」

 田辺に携帯電話を渡す。ここで田辺は車内のこの異変に気付く。室内灯を付けっぱなしにして車内で暴れていたら不審がられるのが当然だ。しかも目の前には警察がいる。田辺は前へと振り返った。パトカーの車内ではまだ運転手が話しを聞いているようだ。運転席に座っている警官も体を後ろへ向けてこちらを見ていない。気付いていないのか?田辺はそのように思いたかった。時間にして十秒ほどの出来事だが、まずいことをしたのだと解る。

「電気を消してくれないか。」

 声のするほうに振り返る。小笠原はどこから取り出したのかガムテープで佐藤早紀の口を止め、手にガムテープを巻いているところだった。田辺は慌てて室内灯を消す。車内が暗くなる前に一瞬佐藤早紀の目から涙がこぼれるのが見えた。

「もう変なことするなよ」

 優しい口調で小笠原が佐藤早紀に言う。暗い車内ではっきりとは見えないが顔は笑ってはいないだろう。今度はゆっくりとした動作で三列目から二列目へと小笠原は移動した。

「どうやら帰ってくるみたいだね。」

 座るなり前方を見ながら小笠原が言う。田辺も前へと向き直ると、そこにはパトカーから降りてくる運転手が見えた。警官は車から降りてこないところを見るとこちらの異変に気付いていないのだろうか。

「大丈夫だ。まだ誘拐では手は回っていないらしい。あの検問は飲酒だとさ。」

 扉を開け、車に乗りながら運転手は言った。席につくなりエンジンをかけ車を動かし始めた。それを聞いた田辺は少しほっとする。すぐに捕まることはないだろうと思った。

「田辺くん。」

 小笠原に名前を呼ばれた。なにかと思うと小笠原はこちらに手を出している。佐藤早紀から取り上げた携帯を渡せと言っているのだと解った。田辺は小笠原に携帯を渡す。

「田所さん。こいつ携帯を持ってました。」

 小笠原は聞きなれない名前を呼んだ。

「そうか。」

 運転手が一言呟く。運転手は田所というのか。田辺はそこで運転手の名前を初めて聞いた。

「やっぱりか。」

 小笠原が呟く。見ると携帯電話を操作していた。

「これは友達か?」

 小笠原は後ろに振り返り佐藤早紀に携帯電話の画面を見せ問い詰める。佐藤早紀は口にガムテープが張られているため喋れない。佐藤早紀は小さく頷いた。

「こいつ友達にメールを送ってる。誘拐されたことを警察と両親に伝えてくれという内容だな。」

 田所はそれに対してなにも言わなかった。なにを考えているのかわからない。小笠原は携帯電話の電源を落とすと電池を抜き取った。

「少し時間をくった。急ぐぞ。」

 田所はそう言うと車のスピードを上げた


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