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第12話

「佐藤隆か?」

 電話の向こうから自分を確認する言葉が聞こえる。

「そうですが、どちらさまですか?」

 電話の相手は誘拐犯ではないのかという予感はしたが、まずは相手を確認しようと丁寧な言葉を返した。

「お前の娘、早紀を誘拐した。娘を助けたければ言うとおりにしてもらおう。今から2時間後、最北端の宗谷岬まで一人で来い。」

「娘は無事なのか!?」

 佐藤は打って変わって強い口調で受話器に向かって声を出す。しかし、佐藤の声は受話器の向こうへは届いていなかったようだ。誘拐犯は自分の要求を言ったあとすぐに電話を切っていた。佐藤が言葉を発したと同時にツーツーと電子音が耳に入ってくる。

「切られた・・」

 佐藤は呟いた。視線は受話器から離れない。気付けば佐藤の周りには好子と警官が囲んでいる。

「やっぱり誘拐犯からの電話だったのね。早紀は無事なの?なにを言ってきたの?」

 好子が今にもぶつかりそうなほど顔を近づけ佐藤を問いただす。佐藤はその迫力に圧倒されるかのように後ろへと身を引いた。

「誘拐犯からの電話だった。早紀がどうなのかはなにも言わずに電話を切られてしまったよ。」

 今起きたことをそのまま表現する。早紀の安否がわからないのに好子はさらに不安を感じているようで、顔を伏してしまった。

「それで犯人から要求はありましたか?」

 横から声をかけられ佐藤はそちらへと振り向いた。そこには警官がいて手帳を開き、佐藤の言葉から大事なところを書き取ろうとしているようだった。

「要求は、私一人で2時間後に最北端の宗谷岬へ来いということでした。」

 自分の名も言わずいきなり質問してくる警官に多少の嫌悪感を覚えたが、佐藤はそれを表情に出さないようにしていた。

「そうですか。失礼、挨拶がまだでしたね。私は北海道警察の高橋と言います。全力で娘さんを救い出します。」

 態度に出ていただろうか。高橋が名乗らなかったのに対して佐藤が嫌悪感を持ったのを伝わってしまったのかと不安になる。

「佐藤隆です。よろしくお願いします。」

 佐藤は軽く頭を下げ高橋に挨拶をする。

「身代金の要求はなかったのですね?」

「はい。それについてはなにも言っていません。ただ、私一人で宗谷岬まで来いということだけでした。いったいなにが目的なのかわかりません。」

「なるほど。失礼ですが、佐藤さんに対して恨みを持っているような人は思い浮かびますか?」

 頭の中を何人かの顔が出たり消えたりする。人に恨みを持つようなことと言えばたしかに多少は経験があるが、娘を誘拐するような恨みを持った人がいるとは思えなかった。

「いえ、思い当たる人はいません。」

「そうですか。わかりました。それでは今後のことなのですが・・・」

「ずっと立ち話も申し訳ないですから座りませんか?」

 好子が話をさえぎり入ってきた。左手でダイニングテーブルを挿している。

「そうですね。高橋さんもお座り下さい。」

 好子の提案に佐藤は賛同する。佐藤にとってもこの提案はありがたかった。車を追うのに全力で走り、ここまで休むことなく来ていたので体は疲れていた。佐藤はいつも自分が座るイスに腰掛ける。それに続くように高橋が対面する位置に腰を下ろした。好子はというとキッチンへと向かっている。

「今後のことなのですが、また電話が掛かってくるかもしれませんので逆探知の装置を付けさせてもらいます。」

 高橋の声を合図にするかのように他の警官が電話の横にバッグを置き作業を始めた。

「佐藤さんにも協力をお願いしたいのですが、犯人の要求通り宗谷岬へ行ってもらえませんか?警官を宗谷岬へ配備しておきます。それと佐藤さんの体に発信機と盗聴器を付けさせてもらいます。宗谷岬まで行くのは佐藤さんの車を使ってもらえますか?車にも発信機と盗聴器を付けさせてください。」

 高橋は少し早口で喋ってくる。普段からこうなのだろうと佐藤は思った。

「わかりました。早紀の身の安全を第一に考えてください。犯人は私一人で来いと言った。犯人に警官がいるなんてばれたら早紀の身になにがあるかわかりません。絶対に警官がいるなんてわからないようにして下さい。」

 言葉使いはなるべく丁寧にしてはいるが、声には力がこもる。そのとき好子がキッチンから戻ってきた。手にはおぼんを持ち、その上に湯のみが乗っていた。高橋、佐藤、そして自分と湯のみを置いていき、好子は佐藤の横に腰を下ろした。佐藤は好子の顔を見た。よそ行きの愛想の良い表情をしていた。必死に感情を押さえ込んでいるのがわかる。

「高橋さん。早紀を助けてください。お願いします。」

 好子はそう言うとゆっくりと頭を下げた。

「まかせてください。絶対に娘さんは助け出します。」

 高橋はそう言うがなぜか佐藤にはその言葉に気持ちがこもっていないような、仕事なのでやりますと言っているような気がして不安を覚えた。

「それではこれから車に機器を取り付けます。佐藤さんに機器を付けるのは出発前にしましょう。まだ出発まで時間は多少あります。お休みしたいところ申し訳ないですが、もう少し話聞かせてもらえないでしょうか?」

 高橋はメモ帳と佐藤の顔を交互に見ながら話してくる。たしかに体は疲れていたため少し休みたかったがそうはさせてもらえなそうだった。

「わかりました。なにについて聞きたいのですか」

 佐藤の言葉を合図にするように高橋は事情聴取ならぬ質問攻めを始めた


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