表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/16

第11話

「車から降りなさい」

 窓を開けた運転手に向かって警官は言った。田辺は動けずただ黙ってそれを聞いている。横へ視線をずらす。小笠原は顔を動かさないが、手がゆっくりと動いているのが見えた。今まで気付かなかったが右手には拳銃が握られていた。まさか警官を殺すのか?田辺は恐怖と共に少しだけ期待の気持ちが湧き上がってくることに自分でも驚いていた。どうせ最後には自殺するんだ。それなら一人や二人殺したっていいじゃないか。という気持ちが少なからずあった。佐藤早紀を殺すことには抵抗がかなり感じられたのだが、警官を殺すことに対する抵抗は限りなくゼロに近く感じられた。

「わかった。今降りるよ。ところで俺はなにをしたんだ?」

 運転手はとぼけるように言う。言葉とはうらはらにすぐには扉を開けず警官の反応を見ているようにも見えた。そのとき田辺の太ももになにかが当たるのが解った。視線をゆっくりとそこに向ける。そこには拳銃があった。田辺に銃身を向けているわけではない。銃身は手で握られていて田辺に持てと言っているようだ。拳銃を持つ手から腕、肩、顔とゆっくりと視線を動かすと、そこには小笠原がいる。こちらを見ずにただ警官を見ていた。太ももに強く拳銃を押し付けられる。田辺に持てと言っているのだ。田辺はそれをゆっくりとした動作で受け取った。ズシリと重い。拳銃とはこんなに重いものなのか。薄暗い車内の中それをまじまじと見てしまう。銃身にはなにか取り付けられている。サプレッサーというのだろう。発砲時の音を減少する効果があると聞いたことがある。田辺は、ここまで用意していたのかと小笠原の準備の良さを感心すると共に恐ろしさもそれ以上に感じた。小笠原の手元を見ると田辺を同じ拳銃がそこにはある。いつでも撃てるとその様子から察しられた。

「気付いていないようだね。ここは左折禁止です。」

 警官はそう言った。その言葉を聞いたとき、田辺の体から緊張が抜き取られ力が抜けていく。危うく拳銃を落としそうになった。小笠原は表情を変えないが明らかに安心しているのだろう。また田辺の太ももになにかが当たる。こんどは何も持っていない手がそこにはあった。拳銃をよこせと言っているのであろう。田辺はそれを察しゆっくりとその手の中に拳銃を収めた。小笠原は二丁の拳銃を座席の下に警官に気付かれないようにしまい込んだ。

「そうか。わかった」

 そう運転手は言うと、やっとドアを開けた。警官はパトカーへと運転手を先導する。警官の一人が運転席へ。運転手、もう一人の警官が後部座席に乗るのが見えた。三人が乗るのを確認してからか、小笠原が喋りだした。

「ずいぶん早いなとは思ったが、俺たちを探していたわけではないみたいだな。なんとか大丈夫そうだ」

 小笠原の安堵が感じられた。少し表情が和らいだように見えたからだ。

「拳銃まで用意しているとは…。」

 そこで田辺は言葉を切った。後ろに佐藤早紀がいるのを思い出したからだ。拳銃を持っていることを知られたため佐藤早紀に騒がれ、警官に不信感を持たれたら厄介だと思ったからだ。だがすでに拳銃という言葉を発しているため佐藤早紀には解ってしまっただろう。小笠原は気にしているのかどうかわからないが表情は変えない。田辺は振り返り後ろを見たが佐藤早紀はさっきと同じ体勢で動かない。死んでいるのではと疑いたくなるほどだ。

「ここを切り抜けたらさっきの部屋へと向かう。まぁ、ここからなら5分くらいで着くだろう。」

 そう言うと小笠原はここで始めて後ろを見た。佐藤早紀の様子を確認したのだろう。黙っている佐藤早紀を見て安心したのか、それとも警戒したのかはわからない。

「運転手は捕まってしまったけど大丈夫なのか?」

 田辺はそこが今一番気になっていた。

「大丈夫だ。運転免許証も偽造してある。問題なく帰ってくるだろう。まあ。後で警察では騒ぐだろうがそこは俺たちにしてみれば関係ないところだな」

 少し楽しそうに小笠原は説明してくれた。運転免許証の偽造なんてそんなに簡単にできるものなのか?そうとうな準備をしてこの犯罪を行っているのがわかる。

「小笠原、君はいったいなにものなんだ?これは君たち二人だけで考えたことではないだろう。君たちの上にはどんな人物がいるんだ?」

 到底答えてくれるとは思えなかったが、質問せずにはいられなかった。

「俺ら二人だけではこんな大掛かりなことは無理だ。田辺君との契約の報酬についてもそれなりの権力のあるものがいないとできないことだ。誰がいるのかは教えることはできない。安心して仕事をこなしてくれ。」

 小笠原はそう言うとポケットから携帯電話と紙を取りだし、田辺に差し出した。

「そして田辺君にはもうひとつ仕事をしてもらう。簡単な仕事だから大丈夫だ。」

 田辺はそれを受け取る。薄暗いなかでは紙になにが書いてあるか読みづらい。そのとき小笠原は室内灯を点けた。車内が明るくなる。紙を読むには十分な明るさではあった。紙には電話番号と少しの文章が書かれている。

「その番号に電話してそこに書かれている文章を読むだけでいい。」

 田辺にはそれがなにかすぐにわかった。

「脅迫文。」

 ぽつりと田辺はつぶやいた。そこには脅迫文が書かれている。いきなりこんなことをやれだなんて言われるとは思っていなかった。

「さっそく電話してくれ。一分もあれば十分に終わる内容だ。」

 たしかに文章自体はそんなに長いものではない。田辺は観念しゆっくりと番号を押していく。呼び出し音が携帯から聞こえてきた。一回、二回、三回。なかなか電話が繋がらない。

「はい。佐藤です。」

 電話の向こうで声が聞こえた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ