1/1
第一話
灰雲の垂れ込める空の下、フランスの大地は灰色の泥と赤黒い血に覆われていた。
その泥濘を踏みしめながら歩むひとりの男。ジュリアン・ルメール。その生は剣と炎と裏切りにまみれている。
「今日の主は誰だ?」
彼は錆びかけた兜を肩に抱え、皮肉げに笑った。銅貨さえ落ちてくるなら、聖王の旗にも、獅子の紋章にも剣を捧げる。
ルメールはフランス人であった。だが祖国に忠義を誓ったことはあまりない。
村を焼き、城を売り、昨日の同胞を今日の敵として斬り伏せる。ただ報酬のために。
それでも彼の剣は、戦場に咲く唯一の花のように鮮烈で、見る者に恐怖と陶酔を同時に植え付けた。
フランスという病める大地‥。英仏百年戦争が生み出した、最も美しき鴉‥。それがジュリアン・ルメールであった。




