第一話 左手
「宿星めぐり」
…誰かが…自分を呼んでいる声がする…
「起きなさい 宿星めぐり」
女子高生の宿星めぐりはハッとして眼を覚ました。
「な……だ……誰よあんた…!!」
“異様な姿”をした女が、めぐりの眼前に立っていた。
異様と言うのは、国籍不明の民族衣装のような服の事を言っているのでは無い。
美人なのだが、見入ってしまってはいけないような、冷たく深く、底の無い沼を思わせる笑顔の事でも無い。
浮いているのだ。その女は。天井が見当たらないのに、その天井から糸で吊るされているが如く
めぐりは周囲を見回し、言葉を失う。
「それにッ…ここはどこ!?」
やがて彼女の脳裏に、「ここ」に来る直前の記憶が蘇る。
あれは放課後、校舎の裏でのこと…
「なんでよッ!!」
「だからそう言うとこだよッ!!」
「あ、あたしがどれだけ勇気出してアンタに告白したか、アンタ分かってんのッ!?」
「そう言う、あまりに気の強すぎる所が無理だって言ってんだよ。…じゃあな、宿星」
「待ってよマコトッ!!」
「お願いだから待ってッ!!」
追う私。
ブアアアアアア
死角から迫るトラック。
「えっ」
ドゴッ
「聞きなさい」
めぐりはハッとして、再び謎の女に顔を上げた。
「その性格ゆえに周囲から避けられ、それでもなお自らの居場所を求める哀れな娘よ」
「ひッ…人の事を好き勝手にッ!!あ、あんた何様よッ!!」
「私は「月の女神」。 あなたの魂は、選ばれました」
「ハッ…ハアッ…?それってどう言う…」
「あなたに相応しい居場所と能力を今、与えましょう」
「…?」
「あなたはやがてその新しい力を、自らの“新しい腕”に宿すことになるでしょう」
「なッ…何をわけの分かんない事を言っ…」
ハッ
「うわあああああああああああああッッッ!!!!!」
人は失って初めて、それがかけがえのない物だった事に気付くと言う。
ならば、それが自らの“左腕”だった時…その絶望はどれほどであろうか。
メグリ
~月下の隻腕巫女~
Episode1 :「私の左手を知りませんか 行方不明になりました」
END