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九州大学文藝部・2022年度追い出し号・かえりみち

籠の中に行ったのは

作者: 七面鳥

 私が小学五年生のときの話です。とある日曜日に、弟の所属する少年野球団が主催するバーベキューのイベントがありました。「ご家族の方もぜひ参加してください」とのことだったので、我が家は家族全員で、会場である河原へと出かけました。


 バーベキュー会場にはたくさんの人がいました。坊主頭の野球少年たちはもちろん、火をおこし酒を準備する父親たち、幼い子どもたちの面倒をみつつ食べ物の支度をする母親たち、そして私と同じように、家族についてきた兄弟姉妹。私は同級生のNちゃんたちを見つけたので、両親から離れてそちらに合流することにしました。

 野球団の子もその兄弟姉妹も一緒になって遊び、焼きとうもろこしをかじり、奪い合いながら肉を食べ、一息ついて数人で土手に寝そべっていたときのことです。


「ねえねえ、何か面白い遊び知らない? 私がやったことないようなやつね」


 友人のKちゃんが、私にそう無茶振りをしてきました。Kは野球団唯一の女子部員で、ちょっぴり悪戯っぽいところがある子でした。

 優しいNはKをたしなめましたが、私はそれを止めて『かごめかごめ』を提案しました。とは言っても、普通に遊ぶのでは目新しさがありません。そこで私は『真ん中で座る役の人をつくらずに遊ぶ』というルールを付け加えました。当時オカルトに傾倒していた私は、都市伝説や呪いといったものを扱う本を片っ端から読み漁っていました。その中の一冊に、このような記述があったのです。


『かごめかごめはご存じの通り、オニになった子どもが真ん中に座って目をつぶり、残りの子どもたちが手をつないで周囲を回りながら歌う遊びである。最後にオニが真後ろの子を当てる。ただし、この遊びは決してオニ役を決めないまま始めてはいけない。歌っている間に“何か”が輪の中に入ってきて、それの真後ろに来た子どもとすり替わってしまうからだ』と。


 怖いもの見たさと、実は怖がりでもあるKへのちょっとした意趣返しも込めた思いつきでしたが、意外にも二人は乗り気でした。

 よしじゃあやってみよう、となったはいいものの、三人ではちょっと物足りない。私たちは近くにいた友人と、話を聞きつけてやってきたNのお母さんを入れた五人で遊んでみることにしました。五人いてよかった、という友人の声に私は深く同意しました。今から怖い遊びをするのに、その人数が『死』を連想させる『四』ではちょっぴり縁起が悪い。


 五人で手を繋いで輪を作りました。十一歳にもなればもうオバケなんてものは信じていませんが、やはり少し怖くはあります。私たちは困ったようにニヤつきながら、誰が歌い始めるのかタイミングをうかがっていました。

「ほらっ、始めるよっ」そうこうするうちに、肝っ玉母さんであるNの母がじれたように言って動き始めました。つられて足を動かしながら、私たちは恐る恐る歌いました。


 かごめかごめ

 かごのなかのとりは

 いついつでやる

 よあけのばんに

 つるとかめがすべった

 うしろのしょうめん、だあれ。


 ……足をとめて、私たちは顔を見合わせました。一、二、三、四、五。一、二、三、四、五。何度数えても、きちんと五人います。

 なーんだ、別になんにも起こらなかった。さっきまで怖がっていたことが馬鹿らしくなり、私たちはくすくす笑いました。焼きそばができたよー、と向こうのほうからお母さんたちが私たちを呼ぶ声が聞こえます。はーい、と元気に返事をして、私たちは笑いながら走り出しました。



 五人で遊んだのです。私と、Kちゃんと、Nちゃんと、Nちゃんのお母さんと、――。

 もう一人居たはずの子どもの名前が、どうしても思い出せないのは、ただの偶然なのか、それとも。

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