初授業
次の日。
1階の騒がしい音に起こされる。
「出来たああ!!!」
先生はそう叫びながら、リビングの中を走り回っていた。
「・・・何やってるの?」
朝っぱらから騒音で起こされ、少し不機嫌に聞いた。
「出来たんだよ!遂に!」
「・・・何が?」
「これ!」
先生は嬉々として手に握っていたものをみせる。
見ると、手のひらには5cmほどのガラス玉があった。
そのガラス玉には金属で繊細な加工がされており、上と下に針のようなものが着いている。
「何これ?」
「これはねー俺の能力を上手く使うための道具ー」
「道具?どうやって使うの?」
先生は待ってました。と言わんばかりに説明しだした。
「これはねー、まずはこうやって片方の針に俺が指を指して血を入れる。」
そう言いながら先生は自分の指を針に刺した。
すると、ガラス玉の中に先生の血が流れ込んだ。
「そして、同じ血液型の能力者の指をもう片方の針で刺して、血を中で合わせる。」
「ほう」
「そうすれば、その能力者の能力をこの道具経由で使えるようになるんだよ!凄いだろ!?」
「すげぇぇ!!!いいなー。」
眠気が吹っ飛んだ。
結構羨ましかった。
「知り合いに作ってもらったんだー。」
先生がドヤ顔で自慢する。
「いいなー。」
話を聞いていた雪がキッチンから顔を出す。
「私も武器とか欲しいよ。」
キッチンからやかんが湧いた音がし、やべっ・・・と言いながら雪はキッチンに戻る。
朝食が出来る。
雪のご飯は相変わらず美味しそうな出来で、それを犬のように食った。
「というわけで、今日から霞も授業に参加しまーす。パチパチ」
適当な拍手。
教室に皆で向かった。
教室は一旦家を出て、庭の中にあった。
中に入ると既に2体の生徒がいた。
「おはよー。」
雪が2体に挨拶する。
「おはようございます。雪ちゃん、先生、そして・・・どちら様で?」
「前にも言った、今日からこのクラスに転校してきた小原霞ちゃんでーす!」
(雪意外にも生徒いたんだ・・・)
「よ、よろしくー・・・」
「私は出雲凛、隣のこの子は宗です。どうぞよろしく。」
凛さんの第一印象は綺麗なお姉さんで、爽やかな笑顔で迎えてくれた。
(落ち着いた方だなぁ・・・)
しかし、宗さんはチラッとこちらを見るとすぐに下を向いてしまった。
(何だろう、内気な方なのかな・・・髪が長くて表情が見えない・・・)
「というか、同じ苗字?」
「はい。姉弟何ですよ、私たち。」
「姉弟!?」
「見えないですか?」
凛さんはクスクスと笑う。
「・・・はい。」
「チッ・・・」
宗さんが舌打ちする。
(こっっっわ・・・何だあいつ・・・)
「コラッ!宗!ダメでしょ?初対面の子に舌打ちするなんて。」
宗さんは、凛さんに叱られてしょぼくれたように見えた。
(凛さんには素直なのかな?)
そんなことを考えていると、
グラッ
天と地が逆さになった。
(あれ?・・・)
いつの間にか地面に顔が衝突していた。
「おぉー倒れたねー」
先生の声だ。
「ちょっ、そんなこと言ってる場合じゃないって、大丈夫?霞?」
「霞さん!?大丈夫ですか?」
しばらく倒れていると落ち着いた。
「なんで、急に・・・」
困惑していると、凛さんが説明し始める。
「実は今のは宗の能力で・・・宗は声そのものが能力なの、宗の口から発せられた音を聴くと耳から三半規管を狂わせるの。私たちは慣れてるから舌打ち位じゃ何にもならなかったけど、そうよね、初めてなら危険だったわよね。ごめんなさい。」
「いえいえ、全然大丈夫ですよ。」
ふらつきながらも立ち上がる。
宗さんには少し謝って欲しかったが、謝まられても、また倒れるだけなので諦めた。
「はーい。授業始めるよー。」
先生が手を叩きながら席に座るように促す。
「先生ー今日は何すんのー?」
「今日は昼まで実践練習してー、その後は自習で。」
(え?・・・凄い楽・・・それに実践が多い。)
「なんだ、いつも通りか。」
(いつも通り!?それで本当に強くなるのか?)
庭に移動する。
「じゃあ、まずは実践だからペア作って。」
(ペアか・・・じゃあ雪と・・・)
「いっつも誰か1人余ってたから霞入ってくれてよかったねー。」
「よかったですね。」
雪と凛さんがペアになっていた。
(・・・ってことは・・・)
「はーい、凛と雪ペア、宗と霞ペアねー。」
(ええええぇ・・・)
「今日は1体1で能力なしの格闘訓練だ。ガンバ!」
宗さんと向き合う。
宗さんは走って向かってくる。気づけば拳は顔の目の前にあった。
急いでしゃがむと、拳は髪の毛を掠った。
ガラ空きになった顎を殴ろうとする。
しかし、宗さんは私の間合いから1歩遠いところに下がり、決して近づけない。
(つ・・・強い・・・)
きっと、今はまだ宗さんには勝てない。
なら、頭を使うしかない。
ボクシングの構えをとる。
10ラウンド程パンチを無茶苦茶に打つ。
全て空振った。
そして、毎回カウンターをくらう。
宗は考えた。
(きっとこいつ、リーチが俺よりも短い。構えはしっかりとしているが、速さもパワーも俺の方が強い。それなのに、こいつ・・・引かない。)
宗は1歩近づく。
常に自分の射程圏内に入れるためだ。
(普通ならこの距離にいれば拳が互いに当たり合う、ただこいつの拳は俺には届かない。)
霞にパンチを連打する。
ガードを高くあげた霞にパンチは直接は当たらないが、ジワジワと体力を削る。
(タコ殴りにするのは心が痛いが、ここで自分の弱さを自覚させなければ、能力に頼った戦い方は危険だと分からせなけれ・・・)
「グフッ・・・」
鼻に強い衝撃と痛みが来た。
ポタッポタッ
床に血が落ちる。
(殴・・・られた?何故?こいつのパンチは俺には届かない筈じゃ・・・)
「もしかして、なんで当たったのか考えているのか?」
「あっ・・・」
宗はしまった・・・という顔で口を抑える。
「ハハッ・・・不便な能力だな・・・私はな、最初から腕を伸ばしきっていなかったんだよ。」
ふらつきながら霞は解説した。
(そういう事か・・・射程距離を短くみせ、俺を近づかせたか・・・やられた・・・)
「そこまで!」
先生が訓練を終了する。
「凄かったねー霞!宗は体術めちゃくちゃ強いんだよ?」
雪が飛びついてきた。
「まぁ、結構ズルかったけどね。」
先生が横から口を挟む。
皆で昼食を摂る事になった。
「宗、駄目ですよ。女の子をあんなに殴っちゃ。」
凛さんは綺麗に食べながら言う。
宗さんはノートに字を書く。
訓練だから。
ノートを見せつけてきた。
「訓練でも・・・」
アイツだってズルかった!
宗さんは急いで書いて反論した。
(・・・反論できない。)
「じゃあ、午後は自習で。」
先生はいつの間にか食べ終わっていた。
「自習って何するの?」
「まぁ、それぞれ違うけど、凛はよく鬼魔の研究してるよね。宗は能力を抑える道具を作ろうとしてるよね。」
うん。
宗はノートに書いた。
「そうですね、鬼魔が生まれないに越したことはないですから。」
「雪は何してるの?」
雪に質問した。
「寝てるか喋ってる。」
「先生は?」
先生に質問した。
「寝てるか喋ってる。」
(・・・はぁ・・・この親子は・・・)
自習が始まった。
(・・・何をしよう。)
本を読んでみる。
10分で飽きる。
さっきの訓練の対策と反省をする。
5分で飽きる。
凛さんの真似をして鬼魔の発生を・・・
と思ったが面倒くさくなったので辞めた。
結局、雪と先生とトランプをした。
授業が終わり、凛さんと宗さんは家に帰った。
「凛さん達は家から通ってるんですね。」
「あぁ、アイツらは家があるからな。」
「・・・そうなんだ。」
「羨ましいか?」
「いや、別に。」
先生と雪がニヤニヤしていた。
家に帰り、雪は夕食を作り始めた。
「今日どうだった?やって行けそう?」
「うん。楽しかった!」
「それはよかった。」
皆でご飯を食べた。
次の日、静かに起きた。
「今日は能力を使っての練習をしてもらう。」
教室に来るなり、先生はそれだけ言って眠った。
「まぁ、ペアは昨日と同じで・・・」
「いや、私霞とやりたーい。」
雪が手を挙げる。
そして、ペアは私と雪になった。
「かかってきたまえ。」
上から目線で雪が煽ってくる。
バリバリッ
容赦なく地面を凍らし、雪の足を捉える。
雪が足を炎に変え、周りの氷を溶かす。
「くっ・・・」
まだ怖い。炎が怖い。全てを飲み込んでしまうような、燃やし尽くし、塵しか残らないのが怖い。
ただ、この恐怖を乗り越えない限り、決して強くはなれない。
「来いっ!!!」
雪はニヤッと笑うとカタバミと戦った時のように、背中から燃え上がり、光り輝いた。
そのまま突進してくる。
乗り越えるっ・・・!!
氷の壁を作ろうとした。
しかし、氷は出来なかった。
雪は当たる直前に止まる。
止まった時の風が熱波として吹いてくる。
「どうしたの?」
「なんで?なんで?なんで!?」
混乱して、パニックになった。
「一旦、霞は実践じゃなくて、能力の制御練習をしよう。」
いつの間にか横にいた先生に止められる。
先生に家に連れ帰られ、暖炉の前に座らされた。
すると、先生は暖炉の前に氷を置いた。
「この炎の前でこの氷を溶かさないようにずっと能力を使い続けてみて。」
言われた通りに炎の前の氷を能力で凍らせ続けようとした。
すると、力が暴発し、炎まで凍らせてしまった。
「なっ・・・」
「やっぱりな、多分霞は精神が不安定なんだ。精神なんて・・・と思うかもしれんが、精神が肉体に及ぼす影響は意外に大きい。細胞の奥に染み付いた能力の根源!それは魂! 精神を揺さぶられれば魂を揺さぶられると同義!その迷いを無くせ!少なくとも1時間はその氷を維持できるようにしろ!」
先生はキメ顔をしながら言った。
「・・・はい。」
そこからはずっと練習に励んだ。
「結構頑張るね、霞。」
雪は夕食の支度をしながら、まだ練習する霞を見て言った。
「そうだね。ああいう頑張り方は嫌いじゃない。」
「何様だよ。」
「先生様。」
数ヶ月後・・・
「今日こそ!」
宗は手をクイクイッとジェスチャーし、かかってこいと示した。
突っ込む。
ドンッ、スッ、バシッ
「凄いよねー霞、たった数ヶ月で体術で宗とほぼ互角なんだもん。」
「強くなりましたし、なんか慣れましたよね。霞さん。」
すると、先生が扉を勢いよく開けて部屋に入ってきた。
「今日から皆、狩師の研修として実際に鬼魔と戦ってもらいまーす。頑張ってくださーい!」
唐突に説明され、皆固まる。
チリリリリリリッ
「はい。はい。はーい。」
「早速鬼魔が出たらしい。行こう!」