強敵
「あぁ、殺してやるよ。」
ボロボロの剣に乗りながら、トクサはそう言った。
「さっさとお前を殺して、その後あいつらも殺してやる。」
トクサはできるだけ冷静を装っているが、内心かなり怒り狂っている。
「死ね!白波黒!」
先生に向かって突進する。
先生は飛び越えながら避け、後ろに回り込み、撃つ。
ガキンッ
トクサは剣を足から背中に動かし、盾にしていた。
剣にヒビが入り、先生の血の銃は砕かれる。
隙を見て回転しながら先生を斬ろうとした。
だが、先生はそれを華麗に避ける。
先生は間合いから1歩引きながら言った。
「さっきから同じことばっかしてるなぁ。このままじゃその剣壊れるぞー?」
「そっちだってさっきっから顔色悪いぞ・・・貧血気味か?」
(このままじゃ、先に俺の剣が壊れる・・・どうにか、白波の裏をかかなければ・・・)
トクサは考える。
(状況を整理しよう。ここは7階建てのビルの中。現在2階・・・ならば・・・)
トクサは剣を手に持ち、構えた。
「何?ついに血迷った?」
先生は少し心配したような目でトクサを見た。
「いくらお前の身体能力が高くても、流石に生身では俺に勝てないよ。」
「そんなことは分かってるさ、ただ少し時間稼ぎがしたくってね。」
「何のために?」
「これのためにさ。」
すると、大量のナイフが先生の足元から噴水のように飛んで来る。
不意をつかれた先生は何本かもろに刺さり、天井に磔にされた。
(やった・・・これで奴は動けまい・・・ついに、あの白波黒を追い詰めた・・・)
「残念だったな。ショッピングモールに置いてきたナイフを1階に集め、一気にあんたを床ごと貫く。そのための時間稼ぎさ!」
「してやられたわけか・・・」
先生は動けない中、グタッと肩を落として見せた。
「にしても奇妙な絵面だな、ナイフに貫かれているのに、血の1滴も出やしない。」
「無駄遣いは出来ないからな・・・」
「まぁ、いい。さっさとトドメをさす。その後にお前の生徒を殺しに行くよ。」
(待て、何故奴は磔にされたまま行動を起こさない・・・ナイフを抜かなければ傷が治癒出来無いだろう?このままじゃ普通に死ぬぞ。)
「まぁ、そう焦るなよ、少し話でもしようや。」
「なんだ?命乞いか?ここまで来てみっともない。」
「いやいや、そんな事はしない。ただ、お前とは気が合いそうでな。」
「は?何言ってるんだお前?お友達にでもなりたいってか?」
「出来ればな。」
トクサは少し頬を赤らめた。
「・・・無理だな。俺はお前を連行しろという命令を下されている。それに従うだけだ。」
「でも、気が合うとは思うんだけどなぁ・・・」
「何でだ?」
「さっきから喋ってて思うんだよ。最初のお堅い喋り方よりも今の方が親しく感じるよ。それに、時間稼ぎとかの発想が同じだろ?」
「は?何の時間稼ぎだ?」
「これの。」
すると、大量の水が天井を突き破り、先生とトクサは床に叩きつけられた。
「いててて・・・」
「・・・どういうことだ・・・確かに俺はお前を串刺しにして、動けなくしたはず。」
ナイフから解放された先生は傷を治しながら説明した。
「確かに、俺は動けなかったよ?それに、血もそんなにない。」
「なら、どうやって・・・」
先生は上を指さした。
「俺の血は速さで威力を出すからねぇ、天井とくっついてると初速が出ないんだよ。」
「だから、君に空けてもらった天井の穴に背中から血を染み込ませて、水道管に穴を開けさせてもらったよ。」
「はぁ・・・」
(してやられたのはこっちって事か・・・)
「流石だな・・・」
「いやいや、それ程でもッ!」
喋りながら、先生は深くしゃがみ、一気に穴の空いた天井まで飛び上がり、そのまま突き破った。
「何をして・・・」
そこでトクサは気づいた。
(何だ?この匂い・・・ガスか?)
鼻をスンスンとするトクサを見た先生は、
「さっき水道管と間違えてガス管にも穴開けちゃったんだよね、ははッ」
先生は舌を出しながら笑う。
「何やってるんだ・・・お前・・・ていうか、そしたら上に登るのは危険じゃ・・・」
トクサは言ってから気づいた。
(何故こんな事を?・・・そのまま放っておけば、あのバカは勝手に一酸化中毒になるだけなのに・・・)
先生は全くふざけずに珍しく真面目な顔で、
「だからこそだろ。一酸化中毒になる前に決着を着ける!制限時間付きだ。まぁ、もちろん俺の勝ちだけどな。」
そう言った。
「来いよ!トクサ!」
先生は手を差し伸べた。
「ふっ・・・ははは」
トクサは声を上げて笑った。
(分かった・・・俺は・・・こういうバカがめちゃくちゃ好きなんだ・・・こういう、後先考えずにしたいことをするバカが。)