カタバミとトクサ
トクサが取り出した無数のナイフは宙に浮き、先生の方向に一斉に刃を向けた。
次にカタバミの周りに何か板のような物が出てきた。
しばらくすると、その何かには人影が写り始めた。
(こいつら何だ?敵なのか?それに人影?これがあいつの能力か?)
いきなりの事で混乱していた。
その時気づいた。
その人影が自分だという事に、しかも自分だけじゃなく、雪や先生まで対面に1人ずつ全く同じ格好で立っていた。
(・・・鏡みたいだな・・・)
そして、その鏡は浮いたナイフを囲った。
すると、ナイフは鏡を挟み向かい側にもう一本ナイフを作り出し、全てのナイフが2倍に増え、壁のように先生の前に立ち塞がった。
「白波様、私たちと一緒に来てください。従がって下さらなければこの大量のナイフであなたを貫かなければなりません。」
「嫌だね、ばーか!」
「致し方ないですね。」
トクサが指揮を執るように手を振る。
ナイフが一斉に先生に向かって飛ぶ。
「かったるいなぁ」
そう言うと先生は着ていた服を脱いだ。
深く息を吸い込み、胸に赤い模様のようなものが現れる。
どんどんと網状に広がり、やがては顔以外にびっしりと覆い被さるように模様が浮きでた。
そしてその模様はよく見ると脈をうっている。
「これは・・・血管?」
「正解!言ったろ?俺の能力は血を操る能力。だから、体の中にある血を速く動かし、全生命活動を速めることが出来る。」
そう言いながら先生はクラウチングスタートの体勢になり、今にも突進しそうな程前傾姿勢になった。
(何するつもりなんだろうか・・・まさか、そのまま突っ込んだりは・・・)
すると、先生はナイフの壁に向かって突進した。
生身とは思えない程の速度で突進し、驚く間もなく先生はナイフとぶつかり、当然のように刺さる。
しかし、先生は怯むことなくそのまま突っ切った。
(ええええ・・・)
そんなことを考えていると
「ほら、寝具コーナーあっちだよ!」
雪は嬉々として反対方向を指さす。
「え?・・・」
(この女、鬼か?)
雪は当然のように先生を見捨てて歩き去ろうとした。
「え、ちょっ、待っ、」
「何?」
雪の手を引き、先生の後ろに戻る。
「流石に先生見捨てるのはまずいでしょ・・・」
「あぁ、もしかして先生を心配してるの?なら大丈夫だよ、こんなの日常茶飯事だから。」
「え?」
横で流れ弾を食らい、助けを求めている他の客を無視しながら、雪は宙に図を書くようにして説明しだした。
「ほら、先生って血を操れるでしょ?だから、身体が千切れたり、四肢がもげても患部は血で固定して、指先の細胞まで血を行き届けられるから極論で言えば脳と血液が無事なら身体はどんなことされても大丈夫ってこと。」
「だからって、無茶しすぎじゃ・・・」
「まぁ、確かに痛みはあるらしいからねー」
「痛みあるの!?大丈夫なの?」
「まぁ、気合と根性的な?」
と言って雪はガッツポーズをとる。
「やっぱり加勢とかした方が・・・」
「大丈夫だよ、先生強いし、それに死んでも私たちにデメリットないし」
「薄情な・・娘じゃなの?」
「あんなにデリカシーのない先生はお父さんじゃない。心の底から反省するまで口聞かない!」
頬を膨らませながら普段の愚痴まで言い始めた。
「まぁ、今回は私は怒ってないから許してあげよ?ね?」
「まぁ、でも、本当に加勢しなくていいよ、その位強いから、先生は!」
やけに誇らしげだった。
「じゃあ、寝具コーナー行こ!」
「うーん・・・わかった」
私は半信半疑のまま先生を見捨てて寝具コーナーへ行った。
一方その頃、白波先生は・・・
(痛ええ・・・)
「流石に、ナイフ刺さると痛いなぁ・・・」
「この程度じゃ死なないですか、まぁ、いいでしょう本気で行かせていただきます。」
すると、トクサは背中の鞘にしまっていた人1人位の大きさの剣を取り出した。
(まじか、流石にあれで首切断されたら死んじゃうな・・・それに、男の方は刃物を操る能力だとして、女の方はなんなんだ?鏡?警戒するのは男よりも女の方だな。)
「女さんの方、スパファミだっけ?あんた、その能力何だ?不思議な能力だな。」
「カタバミです、無礼者。わざわざ敵に自分の能力を話す阿呆がどこにおりましてよ?」
「あっそ、釣れないなぁ」
そんなことを話していると、トクサが取り出した剣は宙に浮き、その上に乗った。
「すげぇ!めっちゃ楽しそう!後でやらせて!」
「どこまでもふざけた男ですね・・・何故こんな奴が適合者に・・・」
「何でだろうなー?イケメンだからかー?」
「ふざけやがって、死ね!」
「お口が悪ぅござんしてよ?おほほほ」
わざとらしく笑う先生にトクサは剣に乗り、猛スピードで突進した。
すると、先生はギリギリまで動かず当たるか当たらないかのスレスレでトクサの後ろに避けながら回り込んだ。
(これだけ大きな剣なら上手く小回りも効かないはず、ましてや狭いショッピングセンターの中・・・このまま後ろから、)
ビュンッ
服に剣の先が少し掠る。
「狭いなら私が追いつけないとでも考えましたか?残念、その場で縦回転できます。」
トクサはスケートボードの選手のように、屈みながら、くるくると縦方向に回転して見せた。
「確かに少し予想と外れたな。だがあんた、小さいナイフなら一気に50本程は操れていたようだが、ここまで大きくなると、これ1本でいっぱいいっぱいみたいだな。」
「気づかれましたか。そうです。私は刃物を操る能力。ただ、重量制限のようなものがありましてね、限度を超えると、まともに動けなくなるんですよ。」
「まだ気づいてない情報まで言ってくれるんだー妹よりも可愛げあるじゃん。」
「どうせすぐバレますから。」
「さあ?」
顔は笑っているが、互いに互いの内面を、弱点を探りあっていた。
「で、重量制限をなしにするのが妹かぁ、強いなー君たちの兄妹コンビ」
(ただ、あくまで兄妹一緒にいるから強いだけだ、兄が離れた今なら・・・)
トクサの隙をつき、先生はカタバミの所へ一瞬で移動し、後ろに回り込んだ。
左手を指鉄砲にし、血を撃った。
バァン
しかし、気づけば、カタバミに打ったはずの血は自分の右肩を貫いていた。
「なっ・・・」
「トクサが離れれば私に勝てるとでもお思いで?」
よく見れば、カタバミは自分の周りを鏡で囲んでいた。
(やられた、あいつ鏡で相手の攻撃を跳ね返して防御も出来るのか・・・しかもそのまま攻撃まで。)
カタバミは鏡で、先生の攻撃の虚像を作り、攻撃同士がぶつかる瞬間に鏡の向きを変え、先生の肩に攻撃を当てた。
(やはり、危惧するべきは妹だったか・・・)
そう考えながらも肩はみるみる傷が塞がり、大きなカサブタのようになった。
「やはり、白波黒は強い。半分不死身、それでいて攻撃力も十分にある、それでこそ戦いがいがあるというもの!」
「やけにハイテンションじゃないですか、お兄さん。」
先生は力なく笑って見せた。
(しかし、どうしたものか・・・矛の兄と盾の妹。本当に隙がない。)
トクサはまた突進する準備を始める。
カタバミはトクサの後ろに小走りで隠れた。
「逃げないのですか?」
「逃げても方向転換されて無駄だからな。」
「諦めたか・・・少し幻滅しましたよ。」
そう言いながら、トクサは突進してきた。
「そろそろかな?」
雪と霞が寝具コーナーから戻ってきた。
「先生ーお金ー。」
そう言いながら雪は駆け寄ってくる。
それを見ると先生は思いっきり、床を殴った。
すると殴った場所がひび割れながら凹み、同時に先生の周りは盛りあがる。
土埃と小さく割れたコンクリートの破片が舞い、先生の前には床だった物が盛り上がった壁が出来ていた。
「諦めただぁ?幻滅だぁ?正面から受け止めてやんよ。」
突進していたトクサは
(まじかよ・・・脳筋過ぎる)
と思いながら壁に衝突し、剣は深々と壁に刺さる。
壁に叩きつけられて動けないトクサの髪を掴んだ先生はそのまま外に放り投げた。
「トクサー!!!」
カタバミはトクサを走って追う。
すると、先生がトクサの方に歩きながら言った。
「雪ー、霞ー、このままじゃ埒が明かないから妹の方の足止めよろしくー」
そう言うと、先生は外に出て、やっと動けるようになったトクサと言葉を交わした。
「やれそー?」
「舐めないで下さい。」
そう言ったトクサはコンクリートの壁に刺さった剣を自分の元まで呼び出し、その上に乗った。
「来いっ!」
「言われなくとも!」
先生とトクサは肉眼では追い切れない程のスピードでどこかへ戦闘音だけ残し、消えていった。