炎の雪
夏、セミの声で目が覚めた。
扉を開き辺りを確認する。
どうやらこの部屋は二階にあるらしい。
(昨日は結局あの後また眠りについてしまった。白波さんは何処だろう。)
とりあえず、下に降りてみる。
「おぉ、おはよう。」
白波さんは朝日の差すソファの上で寝転びながらスマホを弄っていた。
すると、白波さんはスマホを机に置きながら口を開いた。
「今日から体験入学として授業受けて貰おうと思ってたんだけどさーよく考えたら霞ちゃんの生活用品とか何一つないから買いに行かなきゃ。」
「そうなんですね。わかりました。」
どこか素っ気なく返した。
(昨日は興奮と疲れで思わなかったけど、よく考えたら白波さんが神崎さんを殺したんだよね・・・それに、私が校長を・・・)
などと考えていると、いい匂いがしてくることに気づいた。
(この匂いは・・・味噌汁?、向こうの部屋からしてくる。)
匂いにつられて部屋の中を覗く。
縦長いキッチンの奥、白い髪の美女が料理を作っていた。
その青い瞳がこちらにゆっくりと振り向いた。
「!!!あなたが霞ちゃん!?目が覚めたの?良かった、大丈夫?どこも痛くない?てか、顔超可愛い!」
「え、あっ、えと」
キッチンの奥から私のところまで一瞬で飛んできた彼女は早口で喋ってきた。
「あぁ、自己紹介まだだったね!私は冬樹雪!先生の娘だよ!」
(は?娘!?)
「勝手なこと言うな、こいつ俺の娘を名乗るんだよ。真に受けるなよ霞ちゃん。こいつはただの生徒だ。今日からクラスメイトになるやつだ。」
いつの間にか後ろにいた白波さんが否定した。
「雪ー朝ごはんまだー?」
「もう少し待って」
熟年夫婦のように何の裏表もない馴れた会話をしながら白波さんは雪さんにもたれかかった。
「それで霞ちゃん、さっきの話の続きなんだけど今日は買い出しにショッピングに行きます。」
「ショッピングー!!!」
雪さんが目をキラキラさせながら喜んでいた。
「だから、早く朝ごはん食べて行こう!」
「はい。」
「わかったー!」
雪さんはそう返事をすると先程の2倍のスピードで朝食を作り終えた。
机に運ばれた3人分の朝食はとても美味しそうだった。
「いただきま・・・」
私は絶句した。
2人はいただきますを言わないどころか、食べ方が犬より汚い。
フォークの必要性が無いほど顔を近づけて貪り食っている。
(マナーとかないのか・・・この悪魔達は)
皮肉をこめて今まで生きてきた中で1番綺麗に食べてやった。
「おー綺麗に食べるなぁ、さすがお嬢様」
「へーお嬢様なんだー、先生失礼なことしてないよね?」
「多分してないと・・・思います。」
「声も可愛いー!けど堅苦しいなぁ、私のことは雪って呼んでー!」
(ダメだ、会話が成立しない。)
「じゃあ、俺のことも先生って呼んでよ。お兄ちゃんでも可!」
本当に親子じゃないのか疑わしくなってきた。
「もっと霞ちゃんのこと知りたいなー。」
「私も霞でいいですよ。そうですね、17歳、誕生日は8月5日、血液型O型、使う能力は氷を指先から作るまたは凍らせる。まぁ、まだ使いこなせてないんですけど・・・自己紹介これくらいですかね?」
雪はメモを取っていた。
少し引いた。
「次俺ね!俺は白波 黒、年齢は・・・言えなーい!!!乙女に年齢を聞くなんてデリカシーないぞー!もう!」
このハイテンションな悪魔は一体何なんだろう・・・
「誕生日は7月16日でー、血液型はA型、能力は自分の血を好きに操れること!」
「血?あの鬼魔を倒した技は・・・」
「あーあれね、あれは指先から一気に噴射してそれを一点に集め、固形に固めることによって威力を高めたものだよ。基本鬼魔程度なら軽く貫けるよ!」
考えた技だなーと感心した。
「じゃあ次は私だね!名前は冬樹 雪、ピチピチの17歳、誕生日は5月10日、血液型は忘れた、能力は体を炎に出来ること!」
雪はそう言いながら、指先を炎に変えて見せた。
その瞬間、昨日の光景が目に浮かんだ。
自分の安心が壊されていく絶望の光景が。
「ひっ・・・」
パシッ
手を振り払った。
(やってしまった。)
やってから後悔するのだ、いつも。
「あーあ、雪に話すの忘れてた・・・」
「・・・何・・を?」
「霞の親さ、炎を操る鬼魔に殺されたんだよね、昨日、はは、忘れてた。ごめんごめん。」
先生は笑いながら手のひらを合わせ頭を僕と雪に下げた。
「先生ふざけんな、しね!!!」
雪は血管が浮き出るほど怒っていた。
「いや、いいんです。すみません。つい手が動いてしまって・・・」
「いや、ほんっとごめん!このバカ先生が言わなかったのが9割悪いけど、私もデリカシーないことしてほんっとにごめん!」
雪は机の上で土下座する勢いで頭を下げた。
「いやいや、頭上げてください。ほんと大丈夫なので・・・」
「ほんとにごめんね!」
雪はとても不機嫌そうに先生を睨んだ。
その後は皆無言で朝食を食べ終えた。
(気まづい・・・)
「よし!ショッピング行くか!」
そう言った先生を見る雪の目は、殺意で満ち溢れていた。
これはまずいと思い、雪が口を開く前に自分で口を開いた。
「行きましょう!今すぐ、行きましょう!」
その後は、皆ショッピングモールに着くまでは無言だった。
「到着ー」
驚いたことに沈黙を破ったのは雪だった。
正直なところデリカシーの無さすぎる先生にもう少し怒って欲しかったが、このまま重い空気が流れるくらいならさっさと機嫌を直して欲しかったので良かった。
「よしっ!最初は1階の寝具コーナーに行こう!」
機嫌を直した雪に嬉しくなったのか、先生は上機嫌に話した。
このメンタルだけは見習いたい。
「どこからまわろうかー?」
「え?今先生が寝具コーナーからって・・・」
「え?なんの事?」
「あっ・・・」
全てを察した、雪は別に機嫌なんて治してない、先生のあまりの救いようの無さにもう諦めたのだろう。
先生もその事に気づいたのか取り返しがつかないことをしてしまったという顔をしていた。
「1階からまわろー」
雪は先生には決して視線を向けないで自分にだけ喋り続けた。
1階に着いても何も変わらず、先生はどうにか意識してもらおうと雪の周りをクルクルと回っていた。
(こいつ、まじでアホなのかもしれない・・・これが先生なのか・・・)
そう思っていると、
「あなたが白波黒さんですか?」
後ろから声が聞こえた。振り向くと黒いロングコートを着た若い男と白色のロングコートを着た女がこちらを見ている。
「そうだけど、なんか用?」
雪に無視されて不機嫌な先生は適当に答えた。
「ありがとうございます。私はトクサ、隣のは妹のカタバミ、どうぞよろしく。」
男の方が自己紹介する。
「よろしくー、てか暑くないの?そんなに厚着して。」
「では、いきなりで申し訳ないのですが、連行させていただきます。」
男はロングコートをガバッと広げ、中から無数のナイフを取り出し、女はロングコートを脱ぎ、スポブラ姿になった。
そして、先生はそのスポブラ姿の女を奇声をあげながら盗撮した。