騙し合い
「そう、なら死ね。」
先生はそう言うと血を撃ち込む。
バァン
「おぉ!すげぇ!」
シモバラは宙に飛び上がりながら身を捻り、余裕でかわす。
先生はその隙を見逃さず、大きく息を吸い込み、全身の血液を高速で循環させ身体能力を大きく向上させ、シモバラに蹴りを入れようと飛び上がった。
すると、シモバラは更に高く上へ飛び、そのまま宙にとどまった。
「なっ・・・」
避けられるとは考えてすらいなかった先生は面食らっていた。
「あっぶな!」
シモバラは先程から全く焦りを見せずに冷静に対応している。
「うっ・・・浮いてる!?」
私も驚く。
「そういえば、まだ私の能力の説明してませんでしたね。私の能力は重力操作。生物以外の大抵の物体の重力を操れます。」
シモバラは馬鹿正直に説明した。
(え?・・・重力操作?なら雪が水のようなもので包まれてるのはなんで?)
「あら、ご丁寧に。わたくしの能力は血を操れる事ですわよ。まぁ、知ってるだろうけど。」
先生が憎ったらしくお嬢様口調で煽る。
「待って。重力操作なら雪のあれは?」
疑問に思ったことはすぐに質問した方がいい。
「Good question!あれは、水を各方向から一定の重力で抑え続けてるんだよ。普通に閉じ込めて中で燃えられても困るからね。結構難しかったんだよ?あれ。」
(ただの水の中に閉じ込められてるのか。変な薬物とかじゃなくて良かった・・・あれ?でも水なら。)
「ってことは・・・」
「そう。君達が死のうが死なないが、長時間戦えば彼女、窒息死するよ。」
シモバラは自分の首を絞めて、白目を剥き、死ぬジェスチャーをして見せた。
水の中の雪は意識がないように見える。
「あんま舐めたことすんなよ、クソカス。俺今、結構マジギレ中なんだ。」
先生は雪のことになると基本、本気になる。
先生は指を5本全てシモバラに向けた。
「死ねや。」
バババババァン
全ての指から同時発射された血の弾丸はシモバラをあと少しで貫くというところでピタリと動かなくなった。
「言ったろぉー?俺は重力を操れるんだぜェ?そんな俺に物理攻撃がまともに効くとでも思ってんのかぁ!?お返しだァ!」
すると、クルッと方向を先生に変え、こちら側に猛スピードで向かってきた。
シュンッ
(先生の銃とは比べ物にならないけど、速いっ!まだ5発分の銃の反動で痺れが抜け切ってない先生じゃ避けきれない・・・)
しかし、先生はわざともう1発撃ち、その反動を耐えずそのまま横にずれ、頬に弾丸が掠る。
「っぶねぇ・・・」
「チッ・・・惜しかったなぁー。」
シモバラは考えた。
(今相手は自分に不用意に手出しはしてこないだろう・・・。)
そう考えると、シモバラは柱の影に隠れ、一旦様子見の体制に移った。
(・・・何もしてこないな・・・とりあえず様子見か・・でも、どうする・・・銃や、氷の槍なんかじゃ多分届かないどころかカウンターを喰らいかねない。)
先生と私は物陰に隠れながら、ひそひそ声で作戦会議を開始した。
「どうする?」
先生は啖呵切った割には結構勝てるか不安そうな顔だ。
「どうするもこうするも、あいつ飛び道具届きすらしないし。それに、剣とか盾もそんなに有効とは思えない。」
「そんなんわかってるわ。その上でこれどうする?」
無責任この上ない先生。
「知らねぇよ。あんだけ挑発したの先生なんだから先生が責任取ってよ。」
「やだよ。だってあいつ強いもん。」
(確かに強い・・・多分雪がいても勝てなかっただろう・・・?雪?・・・)
1つの疑問が浮かんだ。
「先生・・・なんであいつ雪を先に拘束したんだろう。」
「そりゃ、雪に先に会ったからとか、雪が1人だったからとか、いくらでも説明つくだろ。」
「でも、それなら先に殺した方が良くない?多分コイツなら雪を殺すのなんて簡単じゃない?もし、なんかのせいで拘束が解けたらめんどくさくない?」
「確かになぁ・・・」
先生は不思議そうな顔をした。
だが、私は1つ心当たりがあった。
「もしかして、あいつ炎に弱いんじゃない?」
「というと?」
「あいつの能力は重力を操ること。でも、火は酸素のある方に昇るだけで、重力の影響を受けない。そして、自分の周りに二酸化炭素を集めれば確かに火は防げるけど、自分自信が呼吸出来ない。だから、雪を殺さなかったんじゃなくて、殺せなかったんだ!拘束するので手一杯だったんだ!」
「なーほど!・・・でも、今雪拘束されてるから火は使えないよ?」
「あっ・・・どーしよ。」
(だから、雪を拘束してすぐにこっちに来たのか・・・私達を近づけないために・・・)
「そろそろ作戦会議終わったー?」
シモバラが柱から本を大量に抱えて出てきた。
「まだー。少し待ってー。」
先生が無理なお願いをする。
「無理ー。死んでー。」
シモバラはそう無理なお願いをしながら、本から1枚ページを破りとり、紙を手の上でクシャクシャに潰した。
すると、限界まで潰したはずの紙が更に縮んで行く。
「紙って、面白いよね。何もしなければ指で簡単に貫ける。でも、クシャクシャに潰してしまえば、その塊を人力で千切るのはかなり難しい。ここで問題ッ!重力で限界まで縮めた紙は貫けると思うかい?」
そういうシモバラの指先には紙だった点があった。
既に紙そのものは肉眼では捉えられないが、周りの光が歪み、黒い点となっていた。
周りの物がジワジワと引っ張られる。
「正解は何者にも貫けない。逆だよ。全てを貫ける。」
そう言うとシモバラは重力の塊をこちらに向けた。
ブゥゥゥン
ライトセーバーのような音をたてて、こちらに黒い点が飛んでくる。
しかし、私達はそこまで焦っていなかった。
何故なら、向かってくるソレは小さな小さな黒い点だったからだ。
簡単に避けられる。
先生と私は顔を横に背けた。
バチンッ!
一瞬頭に強い衝撃が走る。
痛みはない。
衝撃の走った部分を触る。
髪だ・・・
髪が半分ほど無くなっていた。
荒々しく千切れている。
「な・・・なんで?確かに避けた・・・」
私は通り過ぎた黒点を振り返って見る。
確かに、黒点自体は小さい。
だが、その黒点が通った場所は確実に触れていない場所をも削り取っていて、黒点を中心に大きな穴が出来ている。
何故なのか。
少し考えれば分かる事だった。
(もしかして、この黒点の攻撃範囲は目に見える部分だけでなく・・・強い重力がかかる、黒点から半径十数cm全部なのか!?・・・危なかった・・・)
もう少し背けた顔が黒点に近ければ・・・
ゾッとした。
(そうだッ!先生ッ!)
先生の方を振り向く。
メラメラッ
「ヒッ・・・」
頭の中が真っ白になる。
(鬼魔だっ・・・)
今まで鬼魔は何度も見た。
何度も殺してきた。
その度に親のことを思い出さなかった訳では無い。
ただ、慣れていた。慣れてきていた。
でも、今回は話が違う・・・
親しい存在・・・親のような存在・・・そんな先生のいつも見てきた目が燃えている。
鬼魔のように燃えている。
「霞ッ!落ち着けッ!今はそれどころじゃない!後で説明する!だから・・・」
先生が必死になって落ち着かせる。
実際今はそれどころじゃない。
シモバラの前に大量の黒点がある。
きっとあれを打たれたら私達にもう逃げ場はない。
今すぐにでも対策をとらないといけない。
ただ、脳が体に命令してくれない。
先生の声もよく聞こえない。
「あぁ!もうクソッ!」
先生は霞の前に立ち、手で指鉄砲を作る。
バババァン
3発撃ち込む。
しかし、撃ったはずの血は黒点に飲み込まれてゆく。
「クッッソ・・・どうすりゃ・・・」
「ふふっ・・・私に撃っても無駄だよ?今私の前の重力壁には1ミクロンの隙間も無いッ!無駄無駄無駄無駄ァッ!」
そう言いながら、シモバラは黒点を更に作る。
もうそろそろ本が1冊分無くなりそうだ。
「・・・諦めるよ・・・こうさーん。」
先生は両手を上げて両膝を地面につけた。
「ほぅ・・・意外・・・」
シモバラは心底驚いた顔をした。
「だってぇー僕って連行はされても、命を取られない可能性がまだある訳じゃないですかぁー?だったら、今ここで死ぬよりも、生徒見捨てて生き延びた方がいいじゃないですかぁー?」
この男・・・クズである。
「お、おぉ・・・諦めがいいな・・・」
シモバラも少し引いていた。
「・・・見捨てるだァ?・・・私を見捨てるだけならいい・・・でも、雪まで見捨てるつもりかァ!?このクズ!」
霞がキレた。
「いや、だって無理じゃん。なんとでも言えよ。俺は逃げるから。」
冷静に返す先生。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね・・・」
呪いのように言い続ける霞。
「あーうるさいうるさい。そもそもお前なぁ・・・」
バギュァン!
シモバラの足元の床が音を出しながら壊れた。
そのまま、下からは先生の足から床を伝って伸びた血の槍が突き出る。
「なっ・・・」
ドチュッ!プチッ!ブチッ!
シモバラは咄嗟に槍を避ける。
しかし、前に避けてしまった。
気づいた時にはもう遅く、顔の皮が黒点に吸い込まれ、半分剥がれてしまった。
「いっっってぇぇぇぇああ!!!!」
唇が無くなり、むき出しになった歯から悲痛な叫び声が聞こえる。
「やってくれたなああああああああぁぁぁ!!!」
「やったのはお前だけどな、ははっ。いやー、霞が賢くて助かったよ。ありがとうな。俺を信じて話に乗って時間稼ぎしてくれて。」
先生がさぞ嬉しそうに話す。
「え?普通に時間稼ぎとか考えてないけど?普通に本心ですけど?普通に今討伐するか迷ってるんですけど?」
「え?」
「え?」
「やだなーいくらダメージ与えたからって冗談言ってるほど余裕なっ・・・」
「え?冗談じゃないけど?」
霞はこれ以上ない程の真顔で答えた。
「てめえぇぇぇぇらあぁぁぁぁ!!!ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇああぞぉ!?ぶっ殺してやるァあぁ!!!!」
ブゥゥゥォォォン!!!
シモバラは全ての黒点をこちらに放った。
床や周りの本、全てを飲み込みながら黒点は容赦なく迫ってくる。
「引きちぎれろぉぉおおおお!!!」
ドンッ!
先生に突き飛ばされた。
1階に。
「へっ・・・」
「お前だけでも、逃げろ。」
そういう先生の片目は燃えている。
半分は鬼魔だ。憎くて憎くて仕方ない鬼魔だ。
ただ、もう半分は先生なのだ。大切な先生なのだ。
ガシッ
私を突き飛ばした先生の腕を掴み、一緒に落ちる。
「・・・助けてくれるのか?」
先生が涙目になる。
片目だけ。
「・・・目覚めが悪い・・・」
「それだけ?」
先生が少し悲しそうな顔をする。
「・・・もう大切なものを失いたくない・・・」
先生がニカァッと笑った。
(単純なヤツだなぁ・・・こんな奴が鬼魔だとは思えない・・・)
グワァン
建物が回転した。
いつの間にかさっきまで居た2階に落ちている。
「グハッ・・・」
シモバラは2階から1階に通じるテラスの前に立ちはばかった。
さっきまで壁だったところにぶつかる。
「逃げられるとでも思ったかぁ!?マヌケッ!・・・ただ、そうだな・・・このままこの技で攻め続けても一向に逃げられるばかりだ・・・チャンスをやろう。ほら立て、白波先生。」
先生はフラフラと立ち上がる。
「早撃ち勝負と行こう。ほら、お得意の指鉄砲を構えろよ。」
先生は人差し指に血液を集める。
「このコインが床に着いた瞬間に開始だ。安心しろ。俺は嘘はつかん。」
先生とシモバラは共に指鉄砲を作り、構える。
カチンッ
コインが宙に舞う。
その次の瞬間、
「ガハッ・・・」
先生が血を吐き出す。
腹が抉れている。
気づくとコインは既に地面で静止していた。
地面に着いた衝撃で跳ねることも無く静止していた。
「はははははッ!馬鹿めッ!確かに俺は言ったぞ?地面に着いたら始まりだと。だが、能力を使ってコインが地面に着くのを早めないなんて一言も言ってない。自分の価値観に囚われすぎだっ・・・」
グサッ
ポタッ・・・ポタッ・・・
「・・・は?」
シモバラの腹に氷が突き刺さっている。
「自分の価値観に囚われてるのはお前だよ。マヌケ。」
氷は霞の指先から伸びている。
霞は先生の背後から先生ごとシモバラを貫いていた。
「こんのアマァ・・・」
「いつから自分が騙す側のマジシャンだと思ってたんだ?お前は最初から観客側なんだよ。さっき先生が下から不意打ちした時のお前の慌てようから、お前は自分の周りに防御用の重力を常時発動させてないと分かった。なら、不意打ちするまでだ。」
「くっそ・・・でも・・・まだだ・・・まだ生きてる・・・お前らを殺すまでは・・・あの世に行けねぇなあァ!」
シモバラはまた指先に黒点を作り始める。
「いや、お前はこれから直ぐに死ぬ。建物が回転して、お前がそこに立ってくれたから、ちょうどいい位置にアレがあるんだ。」
「は?・・・」
シモバラは首だけ動かして後ろをむく。
すると、自分越しに氷が雪の口を貫いている。
「知ってるかぁ?空気って凍るんだぜ?時間かかったよ。ただでさえ凍らせにくい空気を凍らせて更にそれを槍状に変化させて雪まで届けないと行けないんだからなぁ・・・だから槍状にするためにこの紐使わせて貰ったよ。」
「まさかっ!?」
シモバラは全てを悟った。
雪の目が開く。
「氷は雪の口の中で溶け、空気に戻り、雪が呼吸出来るようになる。そして、この紐はお前を燃やす導火線だ。」
ブォォォォ!!!
氷が一瞬で溶け、炎が紐を駆け昇る。
「やめろぉぉおおおお!!!」
シモバラは火が移り、地面に転がり悶え苦しむ。
「死ねや。下等生物。」
シモバラを見下しながらほくそ笑む。
グサァ・・・
塵になりかけのシモバラの体を踏み潰す。
ジャバァーン
水が流れ落ち、雪が解放された。
「先生ッ!」
雪は私よりも先に先生に駆け寄った。
「病院連れてかないと・・・救急車・・・あれ?どうやって呼ぶんだっけ・・・えっとぉ・・・えっとぉー!・・・えっ!?てか先生!目ッ!燃えてるッ!えっ!?え?えっ!?」
雪は焦りすぎて目の前が見えていない。
「いいよ、救急車は私がやっとくから先生に着いててあげな。」
やがてサイレンが聞こえてくる。
普段はあれだけ騒がしいサイレンが何故か今だけ安心出来た。




