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教室冥土〜クラスメイド〜  作者: 無味無臭
1/15

自由

「いつになったら自由になれるんだろうな……」

暗くなった天井を見ながら僕、久保田誠はそう呟いた。


高校受験の時、高校に上がれば勉強とか親から解放されて、好きなだけ遊べると信じてたのに……

現実は、自分の頭に見合わない学校にギリギリで入ったせいで、夜まで課題に追われる日々。そのせいで親からも余計に心配され塾にも通わされ。またそのせいで同級生とはろくに遊びに行ったことすらない。

「こんなんで、この先やって行けるのかな……」

そう弱音を吐きながら、この暗い部屋の中で唯一明るい机に視線を戻す。

すると、大量の課題の下に古びた本があることに気づき、逃げるようにその本を手に取った

「懐かしいなぁ」

それは、受験に合格した時にご褒美として買ってもらった、その時流行っていた転生無双系の漫画だった。


「人生こんだけイージーモードならなぁ……」

次々とページをめくる。

「僕も転生したいなぁ……」

僕はそう言った。いや、そう言ってしまった。

段々と重くなる瞼に身を任せ、その日は眠りについた。


目を覚ますと。まず、最初に知らない天井が目に入った。そして何やら騒がしかった。

「目を覚ましたぞ!!」

「奇跡だ!!!」

そう2つ、男の声が横から聞こえた。

「目を覚ましただって!?」

扉が開き、2つの足音が近づいてきた。

「大丈夫か!?」

そう心配しながら、1人の男が顔を覗かせた。


その瞬間、僕は自分の目を疑った。なぜならその男の目は赤く、頭からは大きく立派な2本の角が生えていたのだ。

「分かるか!? パパだぞ!!良かった……起きてくれて……もう一生目を開けてくれないのかと……」

そう言いながら、その男は僕を抱きしめた。

「心配したんだから……」

そう言いながら角の生えた美人な女性が、赤い瞳から涙を流した。


そんな中僕は混乱していた。まず、この人?達は誰だ?なぜ僕の親だと名乗るんだ?本当に僕の父さんなら自分のことを「パパ」だなんて絶対に呼ばない。それに母さんだって、小さい頃僕が車に跳ねられた時に顔色1つ変えていなかった。なのに、なぜ涙を?それ以前にここは何処だ?確か昨日は自分の部屋で眠りについたはず、それなのに、今は広い部屋の高そうなベットの上で4体の何かに囲まれている。それに、後ろで微笑ましそうにこっちを見ている最初の2体の男は何者なんだ!?考えることがありすぎる……


僕は気絶した。


数時間後

目覚めると、親を名乗る2体が心配そうにこちらを見ていた。

「もう、具合は大丈夫か?」

そう父親らしい方に聞かれた。

何も大丈夫では無いが、とりあえず頷くと、2体は安心しきった顔をし、質問をしてきた。

「事故のこと覚えているか?」

「事故?ですか?それ以前にあなた方の事や、ここのこと全て記憶にないです。ここは一体どこですか?」

親らしき者はとても驚いていた。

だが、僕の方が驚いていた。


声が女なのだ。

いつも今まで聞いてきた、聞き飽きたあの声が、女の声になっていたのだ。

そして、とても嫌な予感がし、確認せざるを得なかった。

「鏡はどこにありますか?」

「トイレに……」


トイレに駆け込んだ。

「やっぱり…… 女だ……」

鏡の中にはとても美しく、だが大きな2本の角と赤い瞳を持った少女がいた。全く知らない、人ですらない少女の体が自分の思った通りに動く。

正直、少し興奮したが、それどころでは無い。

さっきまで、変な奴にさらわれたのか、何かのイタズラかと考えていたが違かった。

自分自身が変わっていたのだ。

「マジで転生しちゃったよ……」

覚悟を決めて、部屋に戻った。

すると、2体も同じく強ばった表情をしていた。


「産まれてからの事何も覚えてないの?」

女の方が久しぶりに口を開く。

「申し訳ないですが、何も……」


2体は少し悲しそうな表情をしてから

「なら、できる限りの事は教える。だから、頑張って思い出してみてくれ」

父親の方がそう言い、産まれてから事故にあった日までのことを事細かに説明をしだした。


「……という訳だ。今日はもう疲れたろう。続きは明日だ、今日はもう寝なさい。」

「はい。ありがとうございます。おやすみなさい。」

「「おやすみ」」

そういうと、2体は部屋から出て行った。


「転生って凄いな。」

どうやら、この体の持ち主は「小原 霞」といい、相当勝ち組だったらしい、部屋の内装から薄々感じてはいたが、金持ちのところのお嬢様という感じだ。

そして、ここは「魔界」といい、この体の種は「悪魔」と言いこの世界の知的生命体はこの悪魔だけらしい。

ちなみに、人間の存在を質問したが……


「人間ってご存知ですか?」

「人間?まぁ、知ってるけどあんなの都市伝説だよ。でも、めっちゃ美味しいらしいよ。」

「(これは自分元々人間でした! だなんて言えないなぁ……)」


と、都市伝説扱いされていた。


そして、前の世界との1番違うところ、それは……

「法律が存在しない。」という点だ。

そのため、無法地帯で外はとても危険だという。

そして、法律は無くとも学校はあるらしい。しかし、前の世界とは違い、身を守るための学校だという。

なんせこの世界の悪魔は、稀に「鬼魔」というものになることがあるらしい。鬼魔になると、欲の塊となりその分パワーや「能力」が向上するんだそうだ。

そして、学校ではそんな鬼魔から身を守るため、自分の「能力」を使う訓練をする場所だ。

そして、その中でも特に能力が強いものが警察のような役目の仕事「狩師」に尽くそうだ。

霞さんも学校のなかではトップの成績を取っていたらしい、かなり将来有望だったのだろう。

だからこそ、事故で倒れたとなればあれだけ心配もされるだろう。

「今日は色んなことがありすぎて疲れたな……早く寝よう」

そう欠伸をしながらスベスベのシーツに身体を押し付けた。


次の日、2体に挨拶すると、爽やかな笑顔で返してくれた。

まだ、今までの娘を失ったということに戸惑いはあるようだが、僕のことを愛してくれた。

「今日は学校へ行こう。」

「え、あっはい!」

学校へ着くと、クラスメイトらしき悪魔達が近寄ってきた。

「小原さん大丈夫?心配したんだよ?」

皆同じようなことを言ってきた。

(法律がない割には、普通じゃないか)

そんな呑気なことを考えていた。

ただその考えは一瞬で壊れた。クラスメイトへの信頼と共に。

学校は実技が全般であった。実技と言っても、対人練習はほとんどなく、人形への打ち込み、能力の向上、技の開発等が主だった。

その中で、1番最初は人形への打ち込み。

(休み明けの授業、頑張ろう!)

そう考えていた。

人形へ手を触れる。指先に何か感覚があった。その感覚に意識を集中させた。人が手を動かせるように、猿が尻尾を触れるように。

能力は簡単に使えた。

ただしかし、能力で凍ったのは指先からわずか半径10cm程度。

「え?」

「「「え?」」」

自分も周りも驚いていた。

「どうしたの、小原さん?まだ病み上がりで力が上手くでないのですか?いつものあなたならこんな人形、氷漬けにして粉砕する程の力なのに・・・」

「やっぱりまだ全快じゃないのよね!無理しなくていいわよ。」

自分でもそう思いたかった。だが、悲しいかなそんな希望はすぐに打ち砕かれた。

どれだけ頑張ってもどれだけ練習しても一向に能力は使いこなせなかった。

そして、クラスメイト達は次第に離れていき、虐められるようになった。

きっと、出来る小原霞が好きなのだろう。

初めは無視されるだけだった、だがやがては、無視され、邪魔され、捨てられ、殴られ、ほとんどのことはされた。

中でもクラスメイトの神崎さんが主犯のものが多かった。

「こんなことも、出来ないの?記憶を失ったからって甘えてるんじゃないの?」

(僕だってなんで出来ないのか知りたいさ。)

この世界に来てから初めて貰った誕生日プレゼントも捨てられた。

先生に助けを求めたが、それすらも無視された。

やがて、学校にいる時間は牢獄の中にいるような、無限に続くように感じた。

だが、家に帰ればあの2人は優しく接してくれた。この2人に心配をかけないよう、悲しませないよう、学校でのことは隠し続けた。

だが、すぐにバレてしまった。

だがあの二人は怒らず、悲しまず、ただただ話を聞いてくれた。

そして、優しく微笑んで、

「ゆっくりでいい、自分のペースでいい、ただ進むことを諦めては行けないよ。私達は何があっても霞の味方だよ。」

そう言って、夕食の支度をした。

自然と涙が出た。

自分のペースでいいんだと。

そう言ってくれた。視界がパーッと開けた。世界が明るく見えた。

この2人が味方でいてくれるんだと、そう安心した。


数年後

「ハッピバースデートューユー!!ハッピバースデートューユー!!ハッピバースデーディア霞ー!!ハッピバースデートューユー!!17歳の誕生日おめでとうー!!!」

「ありがとう!お父さん、お母さん!」

明るい部屋の中ロウソクを吹き消した。

こんな晴天の真昼間っからハッピーバースデーソングはどうかと思ったが、とても嬉しかった。

この数年間の様々な思い出が蘇ってくる。

学校に行き能力を使って見たが上手く使えなかった。

元々能力は生まれつきの感覚であるものらしいが、生まれた頃の記憶がない僕は本来は人1人凍らせることが出来るこの能力で、せいぜいコップ1杯分の氷を出すのがやっとだった。

だが、そんな僕にもこの両親は優しくしてくれた。

向こうの世界では、結果を出すのが当たり前、出せなかったら愛して貰えなかった。

でも、この人達は僕が出来なくても愛してくれた。

父は不器用だけど、一生懸命僕を大切にしてくれている。

母は静かだけど、僕を本当に愛してくれている。

今ではこっちの世界の両親の方が本当の両親だと思っている。


「(こっちの世界が本当で、前の世界が嘘だったんじゃないか)」

そう思えるほどに幸せで、馴染みきっていた。


「(この人達にだったら……前の世界のこと話してもいいのかな……)」


空が曇り、部屋が暗くなる。


「お父さん、お母さん……話があるんだ……」

「「何?」」

「あのね……私!!……」


バリンッ


窓が割れる。外からは風のように灼熱の炎が吹いて来た。

炎の中からは目が青白い炎で包まれた悪魔が現れた。

「鬼魔だ……」

父が絶望したような目で、呟いた。

次の瞬間、


べキッ


鬼魔はいつの間にか背後に周り、母の首を折ったようだ。

後ろでは父が母の名を泣き叫んでいる。

母だった物が鬼魔の炎でどんどんと焼き焦がれてゆく。

父は能力の氷で火を消そうとしている。

僕も手伝う。泣きながら。

しかし、無慈悲に煙の匂いが充満する。

顔を上げた、鬼魔と目が合う。

鬼魔の燃えた目がニマリと笑う。


グシャ


反射で閉じた目を開けると僕の身代わりに父が胸を炎の剣で貫かれていた。

滴る血。

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。許してください。ごめんなさい。」

僕は泣いて謝ることしか出来なかった。

今まで築き上げた幸せが一瞬で壊れていくことにただ謝ることしか出来なかった。


「何を…謝っている……最後まで…諦めるな……男だろ?……」

父が掠れた声で語りかける。



「いつ、から気づいてたの?」


「最初…からさ……親に隠し事……出来…ると思うなよ」

父は血だらけの口をニッと笑わせながら言った。


様々な感情が込み上げてきたが、口から出た言葉は一言……


「ありがとう。」

僕ははじめて心の底から言葉を発した。


父から覇気が消えた。


高笑いする鬼魔に震える手を抑えながら向かい合う。


言葉にならない声を上げながら鬼魔の間合いに入る。


そして、腹に1発叩き込む。重い重い1発を。


しかし、鬼魔は怯むことなく襲いかかってくる。


「(あぁ、自分はやり切った。)」

そう感じた。



バァン


銃声のような音が聞こえた。

鬼魔のみぞおちを謎の男の指先から伸びる1本の針のようなものが貫いた


鬼魔がみぞおちから時間が経った泥団子のように崩れてゆく。


「大丈夫かい?お嬢さん?」


片目に眼帯をした白髪の青年がそう言った。





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