7 「魔女エルステッドは誰にも屈さないし、話も聞かない」
今月分の更新です、お待たせしました。
魔女エルステッドとの対決に、ここで終止符が?
よろしくお願いします。
グリマルキンをテイムした直後に現れた家主、魔女エルステッドはギリリと歯噛みしながら私を睨みつけている。
仰天した私が突然現れたエルステッドに、思わず「いや、すぐ出て来るんかい」と口走ってしまった。
てっきりいくつかの罠とかを仕掛けて、こっちを翻弄してくるのかと思ってたから。
「ミーア! 戻りなさい!」
『みゃっ!?』
「早く!」
命令する「元・ご主人様」に、ミーアという名のグリマルキンは私「新・ご主人様」の顔色を窺う。
キョロキョロと、新旧ご主人様の顔を行ったり来たりと見ながら悩ましそうにしている姿がなんとも可愛い、いや可哀想だ。
とにかく村での問題をなんとかしないことには、私のスローライフも始まらないので心を鬼にする。
「あなたがこのグロッケン山に居を構えている、魔女エルステッドよね? 村人から相談を受けてグリマルキンの問題行動に関していくつか質問があるんだけど。お時間よろしいかしら」
「うっせー! 敵に塩を送るつもりはない!」
「それ……、意味わかって使ってる?」
想像していた魔女とは違う。
私はなんていうか……もっとこう、熟練そうな美魔女とかさ、高飛車な年増とか?
意地悪そうな老婆、あるいは聡明に見える上品な老婆とか……。
そういうのを想像していたんだけど、出て来たのは中学生くらいの少女だったので実は面食らってる。
グロッケン山の魔女の話を王都で聞いたことはなかったから、詳しくは知らなかった。
そしてもちろん、魔女の正体……容姿に関して村人から何の情報も得ていない。
全く信用されていないってのも、この先のスローライフ計画を視野に入れると早急になんとかしないといけない案件なんだって、改めて思い知らされた。
ともかくなぜだかこの小さな魔女さんから、私に対しての敵意をバンバン感じるので、隣で棒立ちになっているカイルに小声で聞いてみる。
「カイル、あの子が魔女エルステッドで間違いないですか?」
「あ、あぁ……」
びっくりしてる? まさか初対面とか?
だったらカイルに具体的な質問をしても、わからないっていう返事しか返ってこなさそうな雰囲気。
「なんかよそ者の私にものすっごい警戒してるみたいなので、村人代表して何か話して落ち着かせたり出来ません? あの様子じゃ全然話を聞いてくれなさそうだし」
「俺が?」
「いや、あなた以外誰がいるっていうんです」
「お前がなんとかするって言い出したんだろう」
「そりゃそうですけど」
ダメだ、こっちはこっちで話が進まない。
私は深呼吸ひとつ、出来る限り少女を刺激しないように優しげな口調で、こちらには一切敵意がないことを見せつつ満面の無害な笑顔で一歩進み出た。
じり、と近づく足元に警戒をさらに強める魔女。
「それ以上近づくなあああ! 魔法ぶっ放すぞこらああああ!」
「わかった、わかったから……。下がるから、ちょっと落ち着いて?」
警戒、というよりむしろ怯えに近い。
私が何かしたっていうの? いやいや、今日来たばっかだし。
とにかく私はさっき前に出た分、また足を戻して下がる。
そうするとエルステッドの方も安心したのか、ほっと胸を撫で下ろす様子が見えた。猫か。
「落ち着いて聞いてくれるかしら。私の名前は、アメリ・ルイーゼ・オズワルドっていうの。王都からここ、グレンゼに今日引っ越して来たばかりなの。よろしくね」
「……」
本人の身長よりもさらに長い魔法の杖を抱えるエルステッド、まだ完全に警戒を解いたわけじゃないみたいね。
それでも話を進めないことには、今回の騒動を解決させることが出来ない。
私は「無害だよ〜」って雰囲気を表情や仕草に目一杯込めながら、友好的な態度を取り続ける。
世にも珍しい魔女、ここで敵対するわけにいかない!
「さっきも言ったけど、グレンゼの村長さんからグリマルキン被害の報告を受けて、それを解決させる為に私が名乗り出てここまで来たの。見たところ、被害者の目撃情報とそこにいるグリマルキン……ミーアだったかしら。その子の特徴がとても似ているから、色々とあなたに教えて欲しくて。大丈夫、あなたに危害を加えるようなことは絶対にしないから」
「あたしのミーアを取ったくせに、よく言うわ!」
「それはごめんなさい! ミーアが敵意むき出しで迫ってきたから、仕方なく……」
「仕方なくっていう理由だけで、テイムしたり普通はしない!」
色々その通りだけでも!
ダメだわ、このままじゃ話が堂々巡りになってしまう。
私は、もはやこれ以上は致し方なしと諦めることにした。
深い深いため息をつきながら、荷馬車からあらかじめ持って来ておいた『例のモノ』をポシェットから取り出す。
(出来ることならこんなことで使いたくなかった。めちゃくちゃ苦労したのに……)
胃に穴が開きそうな、沈痛な面持ちで私は泣き笑いを浮かべながら『例のモノ』をエルステッドに見せる。
私の小ぶりな手のひらの上にちょこんと乗った、これまた小ぶりで鮮やかな黄橙色をした鉱石。
その煌めきを見るや否やエルステッドの目の色が変わって、一瞬かと思うほどの勢いとスピードで目の前に立っていた(ひぃっ、びっくりしたぁ!)
震えながら、私の持っているモノを凝視するエルステッド。
「こ、こ、これは……っ! オオオオ、オリハルコーン!? 嘘っ、なんで!? 初めて見た!」
「まぁ、ちょっと……ね」
銅や金銀、水銀を混ぜ合わせた魔法の合金。
本来なら上級の精錬技術、スミススキルを持っているプロの職人にしか生み出せない奇跡の鉱石。
私はそこまでの技術にまだ至ってないから、完璧とまでは言えないけど。
やっとの思いで精錬することに成功したオリハルコン。
これを見せられて、欲しくないと言い張る魔法使いはーーまずいない!
「私達の話を聞いてくれたら、このオリハルコンをあなたにあげてもいいんだけどなぁ〜」
そう言った瞬間、エルステッドはまたもやいつの間にか家の玄関の前に立って「さぁさぁ」という仕草を私達にしながら、やや興奮気味で目がガンギマリになっていた。
「つまらない家ですが、ドーゾドーゾ!」
エルステッドは現金な魔女。
はっきりわかんだね。
早く、スローライフを……ですよね。
テンポが悪くて申し訳ありません。
もうしばらくエルステッドとのわちゃわちゃをお楽しみください。
次回もよろしくお願いします。