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5 「突然の身バレと、浅はかな打算」

タイトルに地味にこだわってます。

数字だけにすればよかったな、と今さら思ってます。

よろしくお願いします。

 モーゼの海割りの如く、村人の間を縫ってグロッケン山へと向かう私達に、一人の老人が声をかけた。

 簡素だけど決して質素ではない服、猟師でも農民といった具合でもない。


「アメリ、といったかな。ワシはグレンゼの村長をしておる」

「あなたが村長さんでしたか。ご挨拶が遅れました。今日からよろしくお願いします」


 ようやく挨拶が出来た。心置きなくここに住む準備が出来るな、と気楽に考えていた私に、村長が気難しそうな表情で釘を刺してきた。


「カイルからどこまで聞いているのか知らんが、本当にグリマルキン退治を引き受けてくれるのかな? 相手は魔女の飼い猫、ただの猫ではなく正真正銘、本物の魔物だ。もしかしたら怪我では済まんかもしれん。仮にも王国の姫君にそのような危険なことをさせるわけには……」


 あー、言っちゃったか。

 村長の言葉に、村人全員が過剰に反応した。『王国の姫君』、そのフレーズに空気がピリつく。

 私がここに来るまでの道中、必死になってリュカに「姫様と呼ばないように」って忠告してきたのが、全部無駄に終わってしまった。


「嬢ちゃん、嫌われてんのわかってたんやな」

「そりゃそうでしょ。まさかここまでとは思ってなかったけど」


 そう、オズワルド国王は国民からの評判がとっっても悪い。

 特にその評判の悪さは地方に行けば行く程、その名は悪名として轟いている。贅沢三昧の税金泥棒、生産者に対する血も涙もない取り立て屋、愚王、その他諸々。

 私もまさかここまで自分の父親が嫌われているだなんて、思ってもいなかった。でも今まさに、彼等の表情を見て確信に至る。その血筋の者がここに住むって聞いたら、そりゃ嫌悪感丸出しの顔されるわ。

 貴族の道楽、自然の暮らしを舐めた温室育ちのお嬢様、そんな印象操作をされるのが嫌で自分の身分を隠したかったけれど。

 この場で、しかも村人達の前ではっきりバラしたということは、村長も歓迎するつもりがない……ということね。


「今は身分がどうとか言ってる場合ではありません。グレンゼが困っている。それを見過ごすわけにはいきません」

「お姫様がどうやって魔物退治するってんだ?」

「やっぱそこの兄ちゃんに全部やらせるってのかい? 汚れ仕事は家臣の仕事ってな」


 あぁもう、面倒臭い。

 事を荒立てたり、角が立つようなことはしたくなかったんだけど。

 こういう輩にははっきりとした結果を見せないことには、絶対納得なんてしないって……わかってる。

 私はリュカに向かって、ここに残るように指示をした。


「私一人で行きます。国の姫だからと言って、何も出来ないわけじゃないことを証明してみせます。ここでの暮らしを軽く見てるつもりもありません。相応の覚悟を持って移住を希望したこと、ご理解いただく為にグリマルキン退治は私一人でやってのけましょう」


 そう宣言して、私は人差し指を一本突き出す。

 ただ一つ、これだけは認めてもらわないといけない。


「グリマルキンにもう二度と、この村に被害を被らせないようにした暁に、お願いがあります! 私を一国の姫として、貴族として扱わないよう接していただきたい! 私もあなた方とは同等の、同じ一人の人間として接していきたいと考えています。どうでしょう? 約束していただけますでしょうか」


 私は艶めく黒髪をたなびかせ、輝く瞳を村人達に向けた。

 この外見は決して悪印象を与えたりしない。むしろ好感を得やすい外見として、私にとって都合が良く出来ている。私のこの姿と、宣言した言葉の内容を聞いて、納得しない相手がいるとしたら。それは国王の姫に対して強い憎しみを抱いている者のみ。


 思った通り、男だらけの村人達は互いに顔を見合わせて、戸惑った表情をしている。

 心が揺さぶられたのか、私の言葉を信じたのか、この外見に魅了されたか。

 そのどれでもいい。私にとって好都合な展開ならば、どう捉えてもらっても構わない。

 私はここでのんびりまったりスローライフを送れれば、それで何も問題なんてないんだから!


「そう言うのなら……、それじゃあせめて道案内としてカイルを連れて行くといい。この者の祖父ゴッツと同様、グロッケン山の地形は頭に入っているからな」


 村長がそう言ったのなら、他の誰もが反論する余地はない。

 カイルは肩に掛けた猟銃を握り締めると、私のいる所まで歩いて来た。


「道案内、よろしくお願いします」

「……本当に大丈夫なんだな?」

「問題ありません」

「あー、ほんじゃあ僕はここでみんなと一緒に待たせてもらいますわ。嬢ちゃん、気張ってや」


 お前……っ! まぁ、いいわ。

 気を取り直して、私はカイルを先頭にグロッケン山へと足を踏み入れる。


 ***


 この山には何度も足を踏み入れているんだろう。舗装されているわけじゃないけど、歩きやすいように道が出来ていた。それに間に合わせ程度の道案内の看板が、道の分かれ道に差し掛かる度に建てられている。

 だけど途中からだんだんと道が険しくなってきて、悪路が続いて来た。草木が生い茂り、足元は石がゴロゴロと転がっている。先頭を歩くカイルが、持っていたナイフで進行を邪魔する草を刈ったり、足元の大きな石を横に転がしたりして、後続となる私が進みやすいように配慮してくれていた。

 無口で愛想はないけど、こういった気遣いが出来るということは、彼がとても優しい証拠だ。だけどその心遣いに水を差さないように、私は黙って後をついて行く。

 少し広い場所に出た。恐らくここでは、登山の途中の休憩所として使っているんだろう。

 水場が確保出来ているし、何度も焚き木をしたような跡が残っている。多少見晴らしも良くなっているので、ここで休憩するのは打ってつけの場所だ。


「まずここで、山菜採りに来ていたギムリが襲われた。三日前のことだ。命に別条はなかったが、右腕を骨折している。本人の証言によると、ここで休憩している時に突然現れて電撃魔法を浴びせられたそうだ。全身が痺れて、なんとか逃げようと走った時に転んで。骨折はその時のものらしい。振り向くと、もうヤツはいなくなっていた」


 地面を見ると、体を引きずったような跡がまだ残っていた。

 多分魔法を受けて痺れて、地面に倒れた時にほふく前進してでも逃げようとした痕跡だろう。


「急いで逃げ帰ったギムリが村長と、じいちゃんに事の次第を話した。丸々と太ったキジトラの猫が突然現れて、威嚇してきたかと思ったら、いきなり電撃を浴びせて来たらしい。すぐさま村中集まって相談した結果、そいつの飼い主である魔女に物申す為に数人で魔女の家へと向かった」

「魔女の家!? 本当にこの山に魔女が住んでいるんですか?」


 驚いた。魔女なんて、それこそおとぎ話の中での存在と思っていたから。

 王都には魔法使いがいる。治癒術を使う者もいる。だけど山に篭っている魔女という存在は、滅多に見かけることがない。

 その違いは、魔女は生まれつき天性の才能を持った魔法使いであること。

 そして宮廷魔術師になることなく、魔法で生計を立てることなく、薬師として細々と暮らしている者のことを指している。

 だから基本的にこういった自然の中に居を構えて、世俗を嫌い、一部の者としか交流しない。


 魔女と仲良くすることが出来れば、私の生活もこの先……もっとまったり出来るようになるのでは?

 私の中で、打算が生まれた瞬間だった。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

ひとまずストックが尽きたので、ここから安定の不定期更新となります。申し訳ありません。

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