4 「トラブルには、率先して首を突っ込みます」
あらすじにはすでに書いてますが、アメリは異世界転生者です。
スローライフ開始を少しでも早めようとしてる為、その辺りのエピソードは後ほどきちんと描きます。
よろしくお願いします。
私達が住むことになる家はわかった。
でも、そう……。肝心なことがまだ終わっていない。
「あの、カイル? グレンゼの村長さんに挨拶をしたいんだけど、ここから離れた場所に村長さんの家があったりしますか?」
「村長なら、今はいない」
「え」
「お前達には関係ないことだが、所用があって出掛けてるんだ。今この村に残っているのは、女子供だけ。挨拶なら明日の朝にするんだな」
さすがにそういうわけにはいかないんじゃないかな。
仮にもこの村の長でしょう? トップを差し置いて、家で引越し作業済ませて一晩ゆっくり寝るわけにはいかないような気がするんだけど……。
「何かあったん?」
さすが、ミスタールード! 無礼な態度はリュカの専売特許ね。
私に出来ない汚れ役を買って出てくれる! そこにシビれないし、憧れない!
「……ここまで来れば、安全だから」
言い淀むカイルの様子に、私は必死になって記憶の棚を引っかき回す。
オズワルドにある超辺境の村グレンゼ、大自然に囲まれたーー誰も住みたがらない唯一のド田舎。
山を隔てたすぐ横には隣国モンテ=ラルジュ、そしてブロッケン山……、そこに伝わる魔女伝説……。
「グリマルキン……」
「……! なんでお前、そいつの名前を知ってる」
私の言葉にカイルが即座に反応した。
その顔は驚きというより、恐怖も混じっているように見える。
私は狼狽えながらもグリマルキンに至った過程を、なんとか説明しようとした。
「えっと、グレンゼに移住するにあたって色々と調べ物をしてまして。隣国を分断するように聳えるブロッケン山には、そういえば魔女伝説があったなぁ……って。それに村中の男性達が出払う程の出来事となれば、村に害を為すものが現れたんだろうと。それらを結び付けて、何となくグリマルキンが思い浮かんだだけなんですけど……」
だけどカイルのこの反応と言葉で、答えは出たようなものだ。
グリマルキン、ーー主に魔女が飼う猫の総称、あるいは悪魔が猫に化けた時の一般名称とされている。見た目や毛色、柄などは普通の猫と遜色ない。人語は話せないけど、理解するだけの知能はある。
少量だが魔力も有しており、エレキ……つまり雷の力を操ることが出来る。自然界における属性の力を使える魔物は手強いと、魔物に関する書物に書いてあった。
「まさか、村の近くにグリマルキンが出たんですか? でもこの魔物は、基本的に魔女の飼い猫のはず。グリマルキンが村に害を為すようなことなんて……」
飼い主である魔女が、村人を襲うように命令しない限り……。
「魔女って確か、平和主義者やろ? おとぎ話に出て来るような邪悪な魔女なんて、今の時代では絶滅危惧種や」
「……何か、あったんですか?」
「よそ者には関係ない」
ぷいとそっぽを向いて、私達を置いたまま山へ向かおうとするカイルに私は叫んだ。
一か八か、上手くいくかどうかわからないけれど。多分、私なら大丈夫。
「事情はわかりませんが、これから住む村の一大事なんです。放っておけません! そのグリマルキン、私が何とかしてみせます!」
「ちょ、嬢ちゃん? 何ゆうてんの」
「……お前に、何が出来るって言うんだ」
私は任せてくださいという感じで胸を叩いた。
案の定、カイルどころかリュカまで怪訝な表情で私を見ている。そりゃそうよね、王族の姫君が、都会の温室育ちのお嬢様が、こんな大自然の中で一体何が出来るというのか。
ましてや魔物相手に、戦闘経験のない一般人がどうしようというのか。
だけど大丈夫っていう自信はある。絶対に何とかなる。
なんたって私には、神より授かりし加護めいたものがあるんだから!
「案内してください、グリマルキンが出たという場所へ」
「……本当に大丈夫なのか? どうなっても知らないからな」
「僕も知らへんで」
「あんたは気にしなさいよ! 一応護衛として同行してるんだから!」
口の減らない関西弁男め。顔が良くてもこんな性格と態度じゃダメダメね。
本来なら糸目キャラってのは、実は最強説があるんだから。もっとしっかりしなさいよ。
***
カイルについて行って、徒歩で約2時間位だろうか。
馬車は家の前に置いて来てる。馬車を引いていた馬は、古びていたけれど馬小屋があったので、そこに繋いでおいた。
私が必要そうな物資を荷物の中から取り出してる間、リュカとカイルが井戸の水と牧草を馬に与える。
準備を整えて、歩き続けて、ようやく到着したブロッケン山。
標高がどれ位あるのかわからないけれど、これだけ雄々しく聳える山が隣国を分断する境界線になるのも、頷ける気がする。こんな山を越えてまで侵略しようなんて、恐らく誰も考えないだろう。
そんなことより、今は目下の課題に集中しなくちゃいけない。
もっと山に入ってから遭遇するものかと思いきや、山に入る手前に大勢の人だかりが出来ていた。全員が男性で、年齢はまばらだ。カイルが言っていたように子供はいない。彼がこの中で最年少といった感じだろうか。
カイルの到着に気付いた村人が、その後ろをついて歩く私達に気付くや否や、明らかに機嫌を損ねたような表情になった。わかりやす。
「遅くなってすまない」
「カイル、お前のじいさんが入って、もう小一時間になる。そろそろみんなで山狩りした方がいいんじゃないか」
「いくら村一番の猟師と言えど、相手は魔法を使う。いくらゴッツじいさんでも不利だ」
カイルのおじいさん一人で、グリマルキン退治に?
つまり魔物を狩る能力があるのは、そのゴッツおじいさんだけ。
他のみんなはただの一般人というわけか。
「そのことでみんなに話がある。こいつ、移住者がグリマルキンを何とかしてくれるそうだ」
カイルが手短すぎる説明をした。
かいつまみ過ぎぃ!
そしてやっぱり巻き起こる爆笑の嵐。田舎の悪いところが全部出てますよ?
「はっはっはっ! こんなちびっこいお嬢さんが、グリマルキンを?」
「それとも何か、そっちの糸目の兄ちゃんが退治してくれるのかい」
「あー、いや。僕はちゃうんですー」
満面の笑みで両手を振って、キッパリと否定するリュカ。
確かに違うけど、そんな情けない姿を見せないでくれる?
仕方なしと、私はカイルより前に出て自己紹介と説明をした。先ほどの彼に倣って手短に。
「皆さん、初めまして。グレンゼ移住希望者のアメリと申します。事情はよくわかりませんが、お困りのようなので。そのグリマルキンを、私が何とかしようと思います」
そして再び沸き起こる嘲笑の嵐。
だけど意外にも、それ以上の罵声や非難が飛び交うことなく、私達はあっさりと通された。
「それじゃあ何も知らないお嬢さん、村を困らせる魔物退治をよろしくお願いしようじゃないですか」
「グリマルキン退治、そしてゴッツじいさんの安全確保と救出。確かに頼みましたからね」
ノルマ、増えてるぅ!
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
出来るだけ少しずつ、個性ある主要キャラを出していくので楽しみにしててください。
今回のグリマルキン退治で登場する主要キャラは、猟師カイルです。
エピソード毎にキャラの深掘り(?)していこうと思います。
次回もよろしくお願いします。