15 「姫付き従者と嘯くヨルムンガンドは、人化の術がド下手くそ」
出来る限り、サクサク読める小説を目指しています。
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すっかり大人しくなったドラゴンを前に、私はこの後のプランを考える。
餌付けに成功してどこかへ飛んで行ったと説明するか。
それともグレンゼ村より遥か彼方へと飛び去って行ったと言うべきか。
「う~ん、どっちも嘘であることに変わりはないしなぁ。何とかしたはいいけど、どうやって解決させたのか説明しないといけないのが最高に面倒臭いっ!」
私が頭を抱えていると、ドラゴンが呆れたようなため息をついたかと思うと全身から魔力を放って光り輝いた。
「えっ? 何するつもり!?」
あまりの眩しさにドラゴンをじっくり観察することが出来なかった私は、それでも何とか指の隙間から変貌していくドラゴンの姿をその目でしっかり捉えようとする。
巨体だったドラゴンの身体が光の中でシルエットでしかわからないけど、だんだん小柄になっていって……。小さく小さく、どんどん小さく……って小さすぎない!?
ぽんっと可愛らしい音を立てたと思ったら、真っ白い煙に包まれて現れた姿は小さな男の子だ。真っ赤な髪に少し尖った耳、トカゲのような鋭い眼光はそのまま。
そして何より隠し切れない角と羽と尻尾。
「人間の子供ならば、警戒されまい」
ふんっと鼻を鳴らしながら得意げにそう言い放つ。
いや、それで誤魔化しきれると思えるその頭がどうかしてるわ。
「人間に化けたら、人間の言葉を普通に話せるのね」
そこじゃないでしょ、私!
動揺し過ぎて私の方までIQ低い発言になってしまってる!
だけどどこから来るのか、その自信は溢れんばかりといった風に両手を腰に当てて、再び胸を張って鼻を鳴らす。
「我ながら完璧な人化だ」
「ツッコミすら躊躇うわ」
ちょっとワンチャンイケるかもと思った私はバカだ。
この展開でいきなり見知らぬショタが出て来たら、例え完璧な姿で変身出来ていたとしても怪しまれるに決まってる。
それならまだどこかに飛び去ったって言った方がいくらかマシな言い訳だ。
「とりあえず、ね? ドラゴンさん」
「我が名はヨルムンガンド、人型の時はヨルと呼ぶがいい」
うわぁ、このまま人間としてゴリ押す気満々だぁ……。
どういう仕組みなのかわからないけど、とりあえずちゃんと服を着ているところは深く考えないようにするとして。
まるでどこかの貴族のお坊ちゃんみたいな恰好で、でも隠し切れないドラゴン感は否めないこの不完全な変身をどうするべきか……。
「おお、こんな所にいたのか」
「ほわぁっ!?」
突然背後から声がして、私は本気で飛び上がる程びっくりした。
心臓が飛び出るという表現そのままに、私はバクバクと激しく鳴る胸を手で押さえながら声の主を睨みつける。
「絶対に! 来ないでって! 言ったわよね!?」
「厳密に言うと、そんなことは言われていないぞ。お前が勝手に一人で行くと言っていただけだろう」
あれ? え? そうだったかしら?
でもとにかく! 言った言ってない論争はどうでもいい!
完全に見られた! ドラゴン味あふれるこの子供を!
「そこの坊主は……」
「あーっ! えぇっと、いつの間にこんな所に迷い込んだのかしらー? あはは!」
自分でも滑稽!
なんで私がこんなこと!
「我が名はヨル! 我は奇しくも、そこの娘に仕えることになった従者である」
「ほう」
何その面白いおもちゃを見つけたような好奇心たっぷりの眼差しは!
私は一生懸命、他にまともそうな言い訳を探そうとするけど何も思い浮かばない。
計画していたこととは全然違う方向に進んでるんだもん。
そもそも私は機転が利く方じゃない。臨機応変に対応するにしても、生物最強種のドラゴンがショタになって私の従者とか言い出したら、そりゃテンパるわよ。
「これはこれは、アメリ姫の従者の方でございましたか。失礼いたしました、ヨル殿」
「我は従者の身であるからな。ヨルで構わんぞ」
スヴェンが肩を震わせながら笑いを堪えてるっ!
ヨル、あんた遊ばれてるわよ?
「いやぁ、まさかこんな面白いものが見られるとは思わなかった。これだから外の世界を遊び回るのはやめられん」
「……完全にわかっててやってるでしょ」
丸く収めるはずだったのに、上手くいってるようでいってないのが何だか悔しい。
スヴェンは私の肩に手をかけてヨルに聞こえないよう背を向けた。
「お前はなかなか面白い女だな、気に入ったぞ」
「気に入らなくて構わないので、どうぞこのことは内密に願いたいんですけど」
「わかっている。俺もいたずらに村人を怯えさせるつもりはない。ひとまずドラゴンがいなくなったことにすれば、あとはどうとでもなる」
これを貸し借りとかにしないで欲しいな。
こういう輩に弱みを握られたら碌なことにならないんだから。
「で、これからどうするんだ?」
「どうするって、ヨルのこと?」
「決まっているだろう。まさかドラゴンと一つ屋根の下で暮らそうと、本気で思っていたのか?」
そうは言われても、本人は私の従者という体で貫こうとしてるし、ねぇ?
特に私生活に問題なければ、ショタドラゴンと一緒に住むのも面白そうだなって思ってるのは確か。
「俺に譲る気はないか」
「それは絶対にありえないわね」
「なぜだ?」
最初に言ったこと忘れたのか、この男は。
大体ドラゴンのことでややこしいことになった原因は、スヴェンにあるっていうのに。
私は指を突き付けて棘のある言い方で非難した。
「ドラゴン狩りがそもそもの原因なんでしょ? あんたにヨルを渡したら、せっかく逃げ出したあの子が可哀想だわ!」
「ドラゴンライダーとしての訓練を受けさせるだけで、別に奴隷としてこき使うわけじゃないぞ」
「同じようなものじゃない! それにドラゴンを使ってエクレアール国にとって隣国でもあるここ、オズワルド国を攻め落とそうとしているかもしれないしね。我が国に対する懸念は取り払っておくことに越したことはないわ!」
「ほう、一応王族としてその辺はちゃんと気にかけるんだな」
「当然でしょ。私はこのグレンゼ村で穏やかに余生を送りたいの。争いも何もない、のどかで静かな田舎町でゆっくりとした時間を満喫する為にここまで来たんだから!」
そうよ、私のスローライフ計画を邪魔させるわけにはいかないんだからね!
例えエクレアール国の王様相手に喧嘩を売ってでも!
あ、あれ? なんかこれ逆効果じゃない? 喧嘩売ったらダメな相手では?
「あう……」
「どうした、さっきまでの威勢は」
また人を小馬鹿にしたような笑いを浮かべて!
一国の王様とかじゃなかったら、初級魔法とか放って痛い目見せてやるところだったのに!
本っ当にムカつくんだから!
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