14 「スローライフの下準備」
私は16歳の誕生日に、国王である父親にお願いをした。
そう、遂にこの日が来たと言っても過言じゃない。
私はこの日の為に我儘なお願いを極力避けて来た。
最後に大きなお願いを聞いてもらう為に。
真っ白な白髪……のような白銀の長髪に、同じく白銀の立派な口髭を蓄えた父親が目を丸くした。当然だろう。
「一人でのんびりと田舎暮らしがしたい、だと? 急に何を言い出すんだ、アメリよ」
私はこのオズワルドが多くの領地を持っており、それぞれを各貴族が領主として治めていることを知っている。
オズワルド国の歴史書、果ては領地管理を任されている文官にお願いして、各貴族に対して領地の支配権を承認する内容が記された文書ーー「領知判物」という文書を見せてもらったこともある。
それにはこの国の果ての果て、それこそ田舎と呼ぶには田舎過ぎる辺境の村「グレンゼ」という、未だに誰一人としてこの村を治めていない場所に私は目を付けていた。
グレンゼがあまりに辺境過ぎて、自然豊か過ぎて、この王都に比べたら何も無さ過ぎて、あらゆる貴族が領主になりたがらなかった唯一の領地。
もはやそれは領地として成立しているのかどうか、それすら怪しい。
だけどそんなことは関係ない。
私の為に用意されたような村、私がこの地の領主になる為に誰も手を付けて来なかったと言われているようだった。私はそう感じた。
「しかし、グレンゼ……。ここがどういう所かわかって言っているのかい、私の可愛いアメリよ」
「はい、もちろんです。辺境の村グレンゼ、人口は約150人程度で、豊かな自然が溢れている為、農作物や動物、魔物の素材などで生計を立てています」
全てオズワルド国に関して記述されている文書に書かれていた情報を、そのまま口にしただけだけ。
私自身は王都から一歩も出たことがないから、もちろんグレンゼに行ったことはない。
あまりに辺境過ぎて、父は全く興味を持っていなかった様子がとても良く窺える。
私が言った情報が全てだったかのように、それ以上付け加えることなく悩ましい表情で口髭を撫でていた。困ったら口髭を撫でるのは、父の昔からの癖だ。
「しかしアメリ、それだけじゃないぞ。グレンゼが辺境にある村で、これまで誰もこの村を治めたがらなかった理由は他にもあるんだ。例えば自然災害、魔物による襲撃、辺境にあるが故の他国からの攻撃……。数え上げたらキリがない。そんな危険な場所に大切な一人娘を行かせられるわけがなかろう」
たった一人の愛娘を危険な目に遭わせたくない、という父の言い分はもっともだけど。
残念ながら、その辺の下調べもとっくに済ませてるのよ。
私は後ろに控えていた近衛騎士に「例の物を」と言って、たくさんの書物や書類を持ってこさせた。
「これはグレンゼ村に関する資料です。ここ最近では放置されているようでしたので、勝手ながら文官数人に調べてもらいました。護衛の騎士も一緒に」
「アメリ! 国の官吏を勝手に使ったのかい?」
「特別手当として、私が自分で稼いだお金を出しました。国民の税を使ったわけではないので、安心してください」
「いやいや、そういうことじゃなくてだね」
私は将来のスローライフを実現させる為に、出来ることはやってきたつもりだ。
先立つものは当然必要。
となれば、自分で稼いだお金が必要になってくることは明白。
こんな時にあのクソ女神から与えられたスキルが役立つのは、なんかちょっと癪だけど。
手先が器用、魔力も無尽蔵、加えて眠りを必要としなければ疲れもない。
夜中にコツコツ、王侯貴族の令嬢の間で流行りの刺繍ハンカチを有償で制作したり。
色んなツテを使って、彫金師みたいなことをしたり、難しい薬の調合をしたり。
そうやって安価で多くの依頼をこなしてきて、ようやく私の懐は独り立ちに十分な額に達した。
「今のグレンゼ村は平和そのもの。むしろ誰かが管理しなければ、オズワルド国は自国の村の一つもロクに管理しないのかと悪評がつくやもしれません」
ド辺境の田舎だから、隣国の脅威、魔物の脅威は当然ある。
国家の力が及ぶにはあまりに距離が離れすぎているから、即時対応は難しい。
なのに領主も置かず、駐屯地も作らない。
そんなほったらかしの村だからこそ、私は目をつけたんだから。
国の介入があったら、面倒事で頭を悩ませるに決まってる。
権力とかそういうの大嫌い! 前世で散々私をこき使ってきたクソ上司死ね!
「もしご心配なら、護衛の一人を付けてくれても結構です。人選はお任せしますので」
「だけどアメリ……」
「お父様達にご迷惑は決してかけません。なんなら私がグレンゼ村を治める領主として、その村で生み出した産物を国に上納することもお約束します」
グレンゼ村の人達とは円満にやっていくつもり。
だからこれは、私自身で作り上げたものを上納する。
それを生み出すだけのスキルが、私にはある。
なかなか首を縦に振らない父に、私は圧で迫った。
取り揃えた資料、安全性、プラスされる税金、これ以上ない条件なんだから!
それでも首を縦に振らなかったら、別のプランも用意してるけどね。
「わかったわかった、アメリ……。父さんの負けだ」
「やっっったああああ!」
私は諸手を挙げて喜んだ。
ガチガチの警備体制でしか城から出られない拘束された生活よ、さようなら!
欲と陰口と企みで満ち溢れた汚らしい貴族社会よ、グッバイ!
清楚にしゃなりしゃなりしなくちゃいけない、肩が凝る生活に別れを!(肩懲りとかしない体だけど)
そうやって、私はグレンゼ村にやってきた。
だけどここは、既存の書類や報告書だけでは計り知れないようなことで一杯だった。
田舎の人間は閉鎖的とはよく言ったもの。
それも承知の上だった。
会話が成立しない恋愛脳の魔女?
うさんくさいイケメン風来坊が、隣国の現国王?
挙句の果てにドラゴン騒動ですか、そうですか。
全部まとめて、この私が片付ける!
不本意で授かった天与スキルの数々で、私はのんびりまったりスローライフを謳歌するんだから!
王子や姫も、お小遣い……というものをもらうものなのでしょうか?
その辺の知識がなく、調べても見つからなかったのでお小遣い制は無しにしました。
むしろ「アメリの努力で稼いだ」という形の方が、彼女の本気度が表れると思ったので。
勉強不足すみません。
次回もいつになるかわかりませんが、よろしくお願いします。
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