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13 「スローライフに不要なスキル」

 異世界モアザンワーズに、オズワルドという名の国に私は生まれた。

 アメリ・ルイーゼ・オズワルドという名を与えられ、健康優良児として誕生したのだが……。

 私自身の異変は、私が物心つく頃……つまり記憶を取り戻して自意識が芽生えた頃に気がつくこととなった。


 証言者は、私の乳母係のモンスリー。

 物心ついた頃合いに前世の記憶を思い出し、それと同時に生前まであった知能?

 それもこの年齢で引き継いでいたから、怪しまれないように聞き出すことに成功。

 とにかく私に与えられたスキルによって、どんな悪影響があったのかを知りたかった。


「アメリ様は本当に元気過ぎて大変だったんですから。何がって、とにかく寝てくれないんです! お腹が空いたりおむつが汚れたりした時に泣くのは、どんな赤ん坊だって共通なんですけどねぇ。アメリ様はずっと寝ることがなかったので、ご両親が心配してお医者様に診てもらったりしていたんですよう!」


 この世界では一応、自分のステータスを見ることが出来る。

 だけど他人がステータスを覗くことは出来ない。

 固有スキルは自己申告制みたいなものだけど、当たり前のように授かっているものだから、こぞって打ち明けることもない。

 特別足が速いことを、わざわざ他人に話して聞かせることがないのと一緒だ。

 だから私がスキルを複数持って生まれてきていることは、まだ誰にも知られていないけれど。

 私は誰にも見られないよう部屋にこもって、こっそりと自分のステータスを見て――愕然とした。

 特にこの、スローライフに最も相応しくないスキル!


【不眠】……生物が生きる上で必要な三代欲求の一つ、睡眠欲を必要としない。睡眠を取らなくても健康を維持し、生きていくことが可能となる特殊なスキル。仮眠程度に眠ることも可能だが、特に意味はない。


【スタミナ無限】……過度の肉体的活動によって生じる、身体活動能力の減退状態が無くなる。疲労による休養を必要とせず、肉体の限界無しに活動し続けることが可能。


「いやああああ!!」


 私は悲鳴を上げる程、自分の授かったスキルの内容にショックを受ける。

 何事かと隣の世話係専用の個室から私の悲鳴が聞こえたのか、モンスリーが慌てて部屋に入ってきて何事か駆けつけてくれた。

 私はとりあえず「虫がいて怖かった」と言葉を濁して、その場を凌いだけど。

 そんなことより、これは一体どういうことだろう。

 私は確かにのんびりまったりとしたスローライフを満喫したいと、女神に進言したはずだ。

 それなのにそのスローライフとはかけ離れた、このスキルはどうだろう。

 バカげている、ふざけているとしか言いようがない。

 私は惰眠を貪りたいの!

 意味もなくダラダラしていたいの!

 何だったら引きニートにでもなって、無の境地を彷徨っていたかったのに!

 これは一体どういうことよ、女神!

 話が違うじゃない!

 これじゃあ私はいつ休息を取ったらいいわけ!

 休みと無縁のスキルを持ってたら、色々と持て余しちゃうじゃないのよ!


 転生した後、女神とはコンタクトが取れない……みたいなこと言ってた気がするけど。

 つまりクレームは受け付けないということ?

 クーリングオフは無効ってことね?

 あのクソ女神、眠ることも出来ない、疲れも知らないこの体でどうやって普通に過ごせって言うのよ。

 乳母達が言っていた「眠らない赤ちゃん」とは、このことだったんだ。

 そりゃ元々生まれ持ったスキルが【不眠】だったら、お腹が満腹になっても、不快感を取り除いてもらっても、眠らないのは当然のことよね。

 その上【スタミナ無限】の疲れ知らずだから、泣き続けて周囲の人間を困らせるのも頷ける。

 だから私がまだ赤ちゃんだった頃には、私の乳母は合計五人もいたんだ。

 一人や二人程度じゃ、私の世話が出来るわけがない。

 苦労させて本当に申し訳ないけれど。

 でも、これは全部女神のせいだから!

 私がしたくてやったわけじゃない、と信じたい!


 自分の特性を知ってから、私はそれを上手く誤魔化すように生活するようになった。

 お昼寝の必要がなくなる五歳までの間は、寝たふりをすること。とりあえず両目を閉じて、寝息を立てているふりをすれば、やっと正常な子供になってくれたと乳母達が安心してくれる。

 夜も同じだ。乳母が側についている間は寝たふりをするけれど、部屋を出て行ったら私のフリータイムだ。

 そうは言っても物音を立てるわけにいかないから、とにかく暇で仕方ない。この持て余した時間をどうにかして有効活用する為に、私は三歳になる頃には文字の読み書きをある程度習得していた。

 日中の間に家庭教師に教えてもらいつつ、夜中から朝にかけて自習をする。

 ただひたすら文字を書き続けた。

 皮肉にも時間はたっぷりとあったから、習得するまで一ヶ月もかからなかった。

 読み書きが出来るようになれば、今度は書庫にあった子供向けの絵本を大量に部屋に持ち込んで、ひたすら読書することで夜を過ごした。

 幸いなことに、私は読書が趣味。

 この世界の知識、常識を吸収する為には様々な本を読むことが有効。

 それにこの世界独自の文化やお伽話などに触れることが、とても勉強にになるし興味深かった。

 私が元いた世界では伝説上の生物だったものが普通に存在していたり、それでも空想上の生物として扱われていたりと。

 ファンタジーな異世界だけど、現実と空想がきちんと線引きされて紹介されていることが、逆に面白かった。


 この世界にアメリ・ルイーゼ・オズワルドとして生を受けて育つのだから、その辺りの常識と非常識が混同することはないんだろうけど。ついうっかり、なんてことがあるかもしれないからね。

 とにかく私は、一般人とは活動時間の長さが異なることを利点として大いに活用することにした。

 全てはこの先に待っているスローライフの為に!

 必要になることは出来る限り知識として、技術として吸収して、何不自由ないまったりとした生活を満喫するのよ!

正直スローライフ系の「ゲーム」なら、スタミナ無限は必須で不可欠で有り難いものなんですよ。

24時間休まず延々、農作業や家畜の世話、採集、鉱石掘り……。

だけどアメリは、疲れた後の一杯が至高でした。

十分に疲れて、飲んで食べて、眠りにつく。

これが現実的な、望ましいスローライフなのではないかと(この際の疲れは、労働ではなく遊びなどがベスト)

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